■Birds Of Fire / Mahavishnu Orchestra (CBS Columbia)
1970年代前半に突如として、その威容を現したマハヴィシュヌ・オーケストラは、イギリスからアメリカにやってきた超絶のギタリスト=ジョン・マクラフリンが結成した、今では伝説のバンドですが、ロックビートはもろんのこと、複雑な変拍子を事もなげに取り入れたハイテンションな演奏展開は、所謂フュージョンなんて生易しいものではない、非常な衝撃度がありました。
それは実際のライブステージでハードロックのように積み重ねられた巨大アンプ群! ジョン・マクラフリンのダブルネックのギター、緻密なプロデュースによって構成されたアルバムの完成度、そしてバンドそのものの演奏能力の高さ! さらに時代をリードしていこうという意気込みが、ロックからジャズへと入っていった私のような者にはジャストミートだったのです。
このアルバムはマハヴィシュヌ・オーケストラの公式では2作目となる傑作盤で、録音は1972年9~10月、メンバーはジョン・マクラフリン(g)、ジェリー・グッドマン(vln)、ヤン・ハマー(key)、リック・レアード(b,el-b)、ビリー・コブハム(ds,per) という最強の初代レギュラーバンドです。
A-1 Birds Of Fire / 火の鳥
A-2 Miles Beyond / 遥かなるマイルス
A-3 Celestial Terrestarial Commuters / 天界と下界を行き交う男
A-4 Sapphire Bullets Of Pure Love / 純粋なる愛は輝く宝石
A-5 Thousand Island Park
A-6 Hope / 希望
B-1 One Word / 御言葉
B-2 Sanctuary / 聖域
B-3 Open Country Joy / 郊外に於ける悦こび
B-4 Resolution / 決意
演目には上記のように、大袈裟な邦題がつけられていますが、アルバムタイトルからして直訳の「火の鳥」というのは、当時の我が国では絶大な人気を得ていた手塚治虫の名作漫画と完全に上手くリンクして、尚更に印象深いところでした。
それは「マハヴィシュヌ」というインド宗教哲学からの法名とか、インドのモードから流用したメロディやリズム、ジャズもロックもゴッタ煮の演奏展開、そしてバンドとしての纏まりの良さとアドリブの強烈さ!
そういうものはビートルズやストーンズから続くサイケロック、あるいは所謂プログレやフリージャズをも包括したスケールの大きさを強く訴えていました。というか、当時のサイケおやじには、そうとしか思えなかったのです。
実際、ここに収められた演奏は短めのトラックを巧みに重ねてアナログ盤LPの片面を通した、ある種の組曲形式という展開になっています。つまり片面1曲という長尺演奏としての聴き方も正解だと思われます。
ですから純粋にジャズ的なアドリブ合戦のアプローチに加えて、バンドアンサンブルの妙、その複雑な構成を完璧に演じ切るメンバーの力量が物凄いエネルギーで感じられます。
仏教系パーカッションの響きからミステリアスなギターのアルペジオに導かれ、爆発的なビリー・コブハムのロックビートに煽られてテンションの高いリフからアドリブへと自然に流れていくド頭の「火の鳥」、マイルス・デイビスに捧げられたファンキーロックな「遥かなるマイルス」と続く展開は、当時主流だったどんなプログレバンドよりも過激な完成度があり、またウェザーリポートあたりのマイルス直系バンドよりも、明らかにロック的な斬新さが素敵です。
ちなみにジョン・マクラフリンはマイルス・デイビスの手引きで渡米し、幾つかのセッションに参加した後、トニー・ウィリアムスとロックジャズの伝説バンドとなったライフタイムを経て、このマハヴィシュヌ・オーケストラを結成したわけですから、そうした流れの中で自分の欲するコンセプトを抽出・再構成していった過程は言わずもがなに感じられますが、しいて言えばキングクリムゾンのロックジャズ的な部分を強く引き継いでいるのは否定出来ません。
しかしマハヴィシュヌ・オーケストラとしての存在感は、このアルバムを通して聴けば圧倒的! B面に入っての「御言葉」における複雑怪奇なアンサンブルと強烈なアドリブ合戦から神秘的な安らぎに満ちた「聖域」という流れの素晴らしさには、如何にも英国産プログレの趣があるにしろ、その演奏能力の高さは特筆すべきでしょうし、さらにカントリーロック的な和みと強靭なアドリブ対決が交錯する「郊外に於ける悦こび」を聴けば、明らかに他のフュージョンバンドとは一線を隔したスケールの大きさが感じられます。
こういう決してジャズだけに拘らない姿勢が、潔いのですねぇ~~♪
気になる宗教的な臭いの強さにしても、それは先入観にしかすぎませんし、例えば「輪廻転生」という思想にしても、冒頭に述べたように手塚治虫の「火の鳥」と偶然にもリンクしていた事により、尚更に感銘が深まるのではないでしょうか。
1曲ずつ楽しむのもOKですし、LP片面通しての気持ち良さ、さらにアルバム全体を聴いて後の感動も深い、名盤だと思います。
まあ、今となって正直、そう感じる「時代」というものも否定出来ませんが、それゆえに私は愛聴してしまうのでした。
掲載したのはイギリス盤で、最初に聴いていた日本盤よりもギスギスした音がしますが、どっちが良いかは十人十色ながら、やはり一応はオリジナル尊重ということで、ご理解願います。
ヤン・ハマーのシンセが素晴らしく、ギターのトミー・ボーリンも中々の健闘振りですが、なんといってもコブハム御大の手数の多いドラム技!これには圧倒されます。
触発されたジェフ・ベックは、早くも翌年、こんな感じの音楽をやってます。
https://www.youtube.com/watch?v=NzDqqxKnW3o
このギター、はやり天才としか言いようがありません。
ジャコ・パストリアス、ビリー・コブハム、ジェフ・ベックの
トリオ、聴いてみたかったですね。
もちろん、見果てぬ夢です。
コメント、ありがとうございます。
件の「スペクトラム」、今となっては、どこかしら妥協の産物のような感じもするんですが、少なくとも参加メンバーの本気度は高かったんと思いますよ。
ご提案のBC&P、あまりに怖すぎて、悪夢に魘されそうです(笑)。
ペックのトリッキーなプレイは天然でしょうし、コピーすると、やった方がバカになっちまうような……。