清々しく晴れた空を見ていたら、急に聴きたくなったのが、このアルバムです――
■Sweetnighter / Weather Report (Columbia / Sony)
まあ、ジャケ写が初秋の空みたいですから♪
さてウェザー・リポートはフュージョンバンドであって、決してウェイン・ショーターのワンホーンバンドではないのが、昔から不思議でした。
なにしろウェイン・ショーターは、キャリアの最初からジャズ・メッセンジャーズ、マイルス・デイビス・クインテット、そしてウェザー・リポートと、常に陽のあたる道を歩んで来たわけですし、自己のリーダー盤だって名作揃い! しかもゲスト扱いのレコーディング・セッションでも、自己主張の強い演奏を繰り広げていたのですから!
それがウェザー・リポートでは、リーダー格であるにも関わらず、相方のジョー・ザビヌル(key) やミロスラフ・ビトウス(b)、さらに後年にはジャコ・パストリアス(b) あたりにまで居場所を奪われているかのような……。
あのマイルス・デイビスのバンドを仕切っていたウェイン・ショーターらしくもないぜっ!
で、このアルバムです。録音は1973年2月、メンバーはウェイン・ショーター(ts,ss)、ジョー・ザヒヌル(key)、ミロスラフ・ビトウス(b,el-b)、エリック・グラバット(ds)、ドン・ウン・ロマオ(per) という当時のレギュラーに加えて、ハーシェット・ドリエンガム(ds,per)、ムルガ(per)、アンドリュー・ホワイト(el-b) が助っ人参加しています――
A-1 Boogie Woogie Waltz
タイトルからして楽しい演奏を期待していたので、最初聴いた時は、「なんじゃっ、これっ」という松田優作状態でした!
作曲がジョー・ザビヌルという屈折おやじでは、さもありなんですが、とにかく冒頭から単調なビートの中で、ウェイン・ショーターとジョー・ザビヌル、そしてミロスラフ・ビトウスがテンションの高いリフと呻きを出し合うという仕掛けです。
もちろんこれは、とても緊張感が高く、集団ファンクロック演奏になっています。
ただしウェイン・ショーターは凄く良いフレーズを吹いているのに、意図的に最後までその想いを伝え無いような、その煮え切らなさが私の欲求を満たしてくれません。
それと蠢くベースはミロスラフ・ビトウスですが、それが6分目あたりを境に何時しかエレキベースに変わっていて、恐らくここからがアンドリュー・ホワイトの出番になっているのでしょう。全体の演奏も、一層ファンク色が強くなり、ジョー・ザビヌルは完全に躁状態で各種キーボードを操りますし、ウェイン・ショーターも嬉々としたフレーズ繰り出すのですが……。
そして8分50秒目から、ようやく、あのテーマが浮かび上がり、バンド全員が一丸となって大団円に突き進むという仕掛けが明らかになるのです。あぁ、これが分かってこそ、この演奏が心底楽しめるのですねっ♪ ですから、次に聴く時からは、ひたすらにこの部分を楽しみにしていられるというわけで、全くウェイン・ショーターも考えたものです。最後はお馴染みの鮮やかさ♪
A-2 Manolete
ウェイン・ショーターが書いた自己満足的な美メロを、自らがソプラノサックスで吹き綴り、そこに後からリズム隊を被せたような演奏です。なにしろジョー・ザビヌルの生ピアノの響きがワザとらし過ぎ!
しかしエリック・グラバットのドラムスが熱演ですから、全体がビシッと決まっています。もちろんウェイン・ショーターは、無駄な音はひとつも出していないという完璧さ! これがあって初めて、ジョー・ザビヌルの多重録音気味のシンセが存在感を発揮するのですねっ♪ 最後は圧巻の盛り上がりです。
A-3 Adios
ジョー・ザビヌル作曲による幻想曲で、ウェイン・ショーターはテーマしか吹いていないようですが、それもシンセやエレピの影に埋もれつつ、どうにか存在感を誇示するという作り物の演奏です。
しかし、これが妙に落ち着いてしまうんですねぇ~♪ 涼やかな風鈴のようなパーカッションが効果的です。
B-1 125th Street Congress
このアルバムの目玉演奏! この激烈なジャズ・ロック・ファンクの嵐には、最初聴いた時からドギモを抜かれました。
テーマらしきものが無くて、最初っからジャムセッションになっていますが、なにしろビンビン・ブリブリ動きまくるウッド&エレキのベースが強烈ですし、ビシバシとキメまくりのドラムスも最高! もちろん、その隙間を埋める打楽器類も素晴らしいスパイスです。
そうして生み出されていくビートの嵐を泳ぐのがウェイン・ショーターというわけで、ソプラノサックスで暗中模索しつつ、異次元から自己のフィルターを通して再生させたような変態フレーズを、連続放出していきます。
またジョー・ザビヌルは、そんな修羅場の様子を覗うようなズルさから、味わい深いリフ、ツッコミ、さらにオトボケのフレーズまで、各種キーボードで弾き出しています。あぁ、何度聴いても、グリグリに心が躍らされますねっ♪
繰り返しますがドラムスとベースばかり聴いていても、完全に満足させられる演奏だと思います。現代のジャムバンド愛好者にも、激オススメです♪
B-2 Will
ミロスラフ・ビトウスが書いた幻想曲で、デビュー当時のバンドの色合が強く感じられます。しかしそれは、哀しいかな古臭い雰囲気が濃厚に……。
実はミロスラフ・ビトウスは、このアルバム発表後にバンドから脱退するのですが、さもありなん……。定型の擬似ファンクビートも虚しく響くだけです。
B-3 Non-Stop Nome
最後の収められたのは、ウェイン・ショーターが書いた強烈なファンク・ロックです。アップテンポで叩きまくる2人のドラマーが快演ですし、出番を覗うジョー・ザビヌルが不気味! さらに途中から乱入するエレキベースの恐さ!
そしてウェイン・ショーターは最後にテーマのキメを吹奏しているだけなのです。おいおい、いったいアンタは何様のつもりだい!?
否、これがウェイン・ショーターの素晴らしさで、ちょいと出で来て美味しい所を持っていくというのが、当時のウェザー・リポートにおける得意技なのでした。
ということで、思わぬ省エネで存在感を誇示するウェイン・ショーター! しかし憎めないんてすねぇ~♪
つまり徹底的に音を切り詰めというか、無駄な音を出さず、選び抜いた1音に集中することでテンションを高めようという意図なのかもしれません。もちろんバリバリ吹く必要がある時は、烈しく心情を吐露しています。
ウェザー・リポートでウェイン・ショーターが目立たないというのは、そういう取捨選択に撤しているからではないでしょうか? その謎が解明されるヒントが、このアルバムには隠されていると思います。