■Extrapoaltion / John McLaughlin (Polydor)
イギリス産ジャズロックといえば、私の世代というか、実は私だけかもしれませんが、やはりジョン・マクラフリンを避けては通れません。
皆様も良くご存じのように、このギタリストはマイルス・デイビスの「In A Silent Way」や「Bitches Brew」あたりの電化期アルバムへ参加を経て有名になり、次いでトニー・ウイリアムスのライフタイムでフリーロックをやらかしてから、急速に注目されたようですが、サイケおやじにとっては、あのマハビシュヌオーケストラ! 特に名盤「火の鳥」で目覚めたようなもんですから、それ以前のあえてジャズ寄りの演奏は後追いで確認したようなものです。
で、このアルバムもそうして邂逅した1枚で、ジョン・マクラフリンにとっては初リーダー作だと言われています。
録音は1968年、メンバーはジョン・マクラフリン(g)、ジョン・サーマン(bs,ss)、ブライアン・オッジス(b)、トニー・オックスレー(ds) というカルテットで、演奏そのものは極めてアコースティック! 普通の正統派モダンジャズの響きが大切にされています。
A-1 Extrapolation
A-2 It's Funny
A-3 Argen's Bag
A-4 Pete The Poet
A-5 This Is For Us To Share
A面は一応、上記の曲が演じられていますが、ひとつひとつがモダンジャズとしては比較的短いトラックであり、それがLP片面をブッ通して聴かれるように構成されています。つまり曲間が無いというか、実際には独立して演奏されたかもしれない曲が違和感無く、ひとつの流れになっているのです。
まず冒頭の「Extrapolation」は所謂新主流派がモロ出しとなった幾何学的なテーマメロディ、そして絶えず変化していく4ビートか暗黙の了解的に演じられ、それはモードやフリーに近い中身なんでしょうが、ジョン・マクラフリンのギターは既成の概念から外れています。なんというか、メロディの楽しみを否定しているような、それでいて実にビート感がはっきりしたフレーズは音譜過多症候群に加え、セロニアス・モンクと共通するようなアブナイ雰囲気のコードワーク!
はっきり言えば、あくまでも正統派から抜け出せないジョン・サーマンが気の毒になるほどです。
それが一端収束し、穏かなムードの中で聞こえてくるのが、続く「It's Funny」という仕掛けなんですが、これがチャールズ・ミンガスの「Goodbye Pork Pie Hat」のようでもあり、チッコ・コリア系のスパニッシュモードのようでもあり、生真面目にそれを解釈していくジョン・サーマンのソプラノサックスが不思議な「泣き」を演じています。
しかしジョン・マクラフリンのギターは全く容赦無し! 一定の文法に基づいているのは感じられますが、ロックもジャズも関係ねぇと主張する無戸籍なアドリブが強烈です。それゆえに演奏を上手く纏めようとするジョン・サーマンのラストテーマの吹奏が結果オーライというわけですが……。
その静かなムードの中に響くのが、全くジョン・マクラフリンとしか言えないギターのコード弾き♪♪~♪ ようやく一番にジャズっぽい演奏となるのが「Argen's Bag」です。そしてジョン・サーマンのバリトンサックスが熱く咆哮すれば、ジョン・マクラフリンのギターはディープな思索に没頭し、ベースとドラムスはジャズのビートを大切にしながらも、その本音はロックに傾斜して良い感じ♪♪~♪
それが何時しか高速4ビートへと転換し、実にテンションの高い演奏となるのが「Pete The Poet」ですが、ここではトニー・オックスレーのドラミングが、ほとんどトニー・ウィリアムスというのが意味深でしょうねぇ~。それゆえにジョン・マクラフリンも疑似ライフタイムを演じていますし、ジョン・サーマンの自虐的なバリトンサックスや唯我独尊のペースワークに専心するブライアン・オッジスも好演だと思います。
こうして突入するクライマックスはトニー・オックスレーのドラムソロ! いゃ~、本当にトニー・ウィリアムスですよっ! ですから続く「This Is For Us To Share」の導入部のインタープレイを聴かされると、マイルス・デイビスが出てきそうな錯覚に襲われるんですが、実際に聞こえてくるのは、ジョン・コルトレーンが演じそうなスピリッチャルなメロディ♪♪~♪ もちろんバックが厳かに盛り上げる中、ジョン・サーマンが内側からこみあげてくるが如き、魂の叫びです。あぁ、この重厚な響きこそが、1960年代末期のモダンジャズだと思います。実際、これで身体に力が漲ってくるのは、その当時を体験した世代でしょうねぇ。
B-1 Spectrum
B-2 Binky's Beam
B-3 Really You Know
B-4 Two Piece
B-5 Peace Piece
さて、そうしたA面の構成はB面にも引き継がれ、つまりこちらもLP片面をフルに使った演奏として聴かされてしまいます。
それはアンサンブル主体の短い演奏という「Spectrum」に始まり、そのテンションの高い4ビートが、このアルバムでは一番に長いトラックの「Binky's Beam」に引き継がれますが、その場面転換の自然なムードが、もう最高です。ほとんど「In A Silent Way」の予行演習という感じさえするんですよ♪♪~♪ 暗黙の了解に基づいて躍動するブライアン・オッジスのペースに煽られるように燃え上がるジョン・マクラフリンのギターからは、青白い炎のようなクールで熱いフレーズが溢れ出して止まらず、またジョン・サーマンのバリトンサックスが煮詰まりを逆手に活かした名演を聞かせてくれますから、もう、辛抱たまらん状態! それがクールダウンして始まる「Really You Know」の優しい雰囲気も用意周到です。
そして中盤からの正統派4ビートは、まさに安心感でしょう。実に上手いと思いますねぇ~♪ イヤミが無いといえば嘘になりますが、憎めないのも事実です。
さらにそんな諸々をブッ壊して爽快に突っ走るのが、続く「Two Piece」の大熱演! テーマが提示された直後に乱れ打ちされるジョン・マクラフリンのコード弾きの大嵐には溜飲が下がりますよ。そしてバンドが一丸となってフリーに接近していくアドリブパートの物凄さは、筆舌に尽くし難いものがあります。う~ん、それにしてもトニー・オックスレーのドラミングは、セッションを通してトニー・ウィリアムスにクリソツなんですが、名前が同じだからといって、それで良いのか!? いや、これで良いんですねぇ~~~♪
こうして迎える大団円は、ジョン・マクラフリンならではインド趣味というか、生ギターの音色が逆にハイテンションという独演会が短くあって、感動の余韻が何時までも漂うのでした。
ということで、何度聴いても凄さに圧倒されるアルバムです。
おそらくこの時代では、最もブッ飛んだジャズだったんでしょうねぇ、これは!?
主役のジョン・マクラフリンのギタースタイルも、この時代では誰の真似でも無い、独自のスタイルが既に完成されていると思いますが、ちなみに原盤裏ジャケットにはアコースティックボディのセンターホールにアタッチメントを装着してエレキ化したギターを弾く本人の姿があり、これは当時のフォークやロックでは既に一般的な使用法でしたが、これを堂々とジャズに使っていたとしたら、なかなか画期的だったかもしれません。
う~ん、斬新なスタイルは、こういうところにも要因があるのですねぇ。
我が国の推理作家、島田荘司の書く名探偵・御手洗潔は1960年代からジョン・マクラフリン系のギターを弾いていたそうですが、きっとこんな感じなんでしょうか?
まあ、それはそれとして、ここで聞かれる演奏は原則として4ビートが主体とはいえ、ジョン・マクラフリンのアドリブパートに限っては、もしバックがそのまんまロックビートだったとしても、何ら変わらない方法論で押し通すように思えます。
ジョン・マクラフリン、やっぱり凄くて最高!
コメントありがとうございます。
お返事が遅れて、申し訳ございません。
私も以前から、お名前だけは存じておりましたが、なにとぞよろしくお願い致します。
さて、ジョン・マクラフリンが本格的に登場した1970年前後の話題性は、ロック系ギタリストにも新風を巻き起こしたという意味以上に大きなものがありましたですね。
特にマハビシュヌの衝撃は、ビリー・コブハムのドラミング共々に、強烈でした。
マクラフリンのダブルネックも、まず、存在感が凄かったっ! 当時のライブを堪能されたとは、羨ましいかぎりです。
ちなみにレポートしていただいた大阪公演は、公式のライブ音源が残されているらしいですよ。
残念ながら全盛期のライブに接することが叶わなかったサイケおやじは、発掘を希望しているのでした。
ひし美さんのサイトではご常連メンバーであります
サイケおやじさんのお名前を存じるHOOPと
申します。
ジェファーソン・エアプレインの件で
ググっておりましたところ
偶然こちらへお邪魔させて戴くことになったんですが、
アップされます珍しいEP盤のジャケ写に加え
その記事の内容の面白さに引き込まれてしまいました。
早速ブックマークを入れさせて戴き
これからもちょこちょこ参らせて戴きたいと
思いますので、
どうぞ宜しくお願い致します。
ちなみに僕が初めて見た洋楽アーティストの
コンサートがマハビシュヌ・オーケストラでした。
今は閉鎖されました大阪厚生年金大ホールでの
ライヴになりますが
ステージと客席が近いこのホールの利点により
セッティングされた愛用の楽器群を
間近に見て鳥肌を立たせ、
生の演奏を見て更に鳥肌を立たせたのを
憶えています。
最初のライヴ体験がマハビシュヌだったのは
本当に幸運でした。