FOOTBALL LIFE

~サッカーを中心に日々の雑感など~

日めくり万葉集(67)

2008年04月11日 | 万葉集
日めくり万葉集(67)は作者未詳の歌からの抜粋。選者は古代史・服装史の歴史学者・武田佐知子さん。

【歌1】
にほひよる
児(こ)らが同年児(よち)には
蜷(みな)の腸(わた)
か黒(ぐろ)し髪(かみ)を
ま櫛(くし)もち
ここにかき垂(た)れ

巻16.3791   作者未詳

【訳1】
輝くばかりの皆様方と同じ年頃には、わたしも黒くつややかな髪を上等の櫛で梳(と)いて、このくらい迄垂らしたりしてね。

【歌の抜粋2】
さ丹(に)つかふ色なつかしき
紫(むらさき)の大綾(おおあや)の衣(きぬ)住吉(すみのえ)の
遠里(とおさと)小野(おの)のま榛(はり)もち
にほほす衣に
高麗錦(こまにしき)紐(ひも)に縫(ぬ)ひ付(つ)け・・・

【訳2】
赤みがかった色に似合う紫の大柄模様が付いた、住吉の遠里小野の榛(はん)の木の実で渋く染め上げた衣をまとい、ハイカラな高麗錦を飾り、紐に縫い付けたものさ・・・。

【歌の抜粋3】
稲寸娘子(いなきおとめ)が妻(つま)問(ど)ふと
我(われ)におこせし彼方(こちかた)の二綾裏沓(ふたあやしたぐつ)・・・

【訳3】
稲寸娘子が旧交の証にわたしにくれた彼方で作られた“段(だん)だら縞(じま)の靴下”をはき・・・

【歌の抜粋4】
飛(と)ぶ鳥(とり)の明日香壮士(あすかおとこ)が
長雨(なかめ)忌(い)み縫(ぬ)ひし黒沓(くろくつ)
刺(さ)し履(は)きて庭(にわ)にたたずめ・・・

【訳4】
明日香男が長雨の湿気を避けて、黒の皮靴をさあーっと履いて、庭にたたずんでいたら・・・

【歌の抜粋5】
罷(まか)りな立(た)ちと禁(いさ)め娘子(をとめ)が
ほの聞(き)きて我(われ)におこせし
水縹(みはなだ)の絹(きぬ)の帯(おび)を引(ひ)き帯(おび)なす
韓(から)帯(おび)に取らせ・・・

【訳5】
いっちゃ駄目と引き止めていた禁め娘子が、稲寸娘子(いなきおとめ)の贈り物のことを小耳に挟んで、引き帯のように韓帯に取り付けてくれたものさ・・・

【歌の抜粋6】
古(いにしへ)ささきし我やはしきやし
今日(けふ)やも児(こ)らにいさにとや
思(おも)はれてある・・・

【訳6】
その昔、こんなにも華やかにもてた私だというのに、あー惨めなものよ。今日はかわいいあなた方に本当かしらと思われている。・・・

【歌の締めくくり7】
古(いにしへ)の賢(さか)しき人も
後の世の鑑(かがみ)にせむと
老人(おいひと)を送りし車(くるま)
持ち帰(かへ)りけり
持ち帰りけり

【訳7】
年を取るとこんな風にされるから、昔の賢い人も後の世の戒めにしようと、老人を山に捨てに行った車を持ち帰ったとさ。持ち帰ったとさ。

【選者の言葉】
昔はとてももてた男が、若い娘たちに笑われているのだが、昔いかにもてたかという話を延々とする。着物尽くしで、いろんな衣服が出てきておもしろいということで注目した。

“紫の大綾の絹”。紫の着物のというのは最上級の人しか着られない衣服で“大綾の衣”というのは、昔、機織をするときに模様を大きくするというのが一番困難なことだった。“高麗錦”という舶来の錦に紐が付いているというように、話がドンドン豪華版になっていく。

靴下を履いている、ソックスみたいなものを履いているとか、靴を履いているとか。きわめて高度な技術を結集した、さまざまな服飾品、織物、等々を身にまとっていた彼がもてないわけがない。こんな服装をしていれば(笑)・・・。

【檀さんの語り】
昔、翁(おきな)がいて名を竹取の翁といった。この翁が春の末の3月、丘に登っていくと、この世のものとも思えない美しい9人の乙女が鍋を煮ていました。乙女たちはからかい半分に「おじいさん、ここへ来て、火をふいてくださいな」

ところが翁がその座に加わると、乙女たちは「誰がこんなおじいさんを呼んだの?」と言い出す。そこで翁は「こう見えても昔はね」と詠いだす。

【感想】
かなり長い歌!だったが、当時の服装や靴下、靴などが紹介され、興味深い写真が出てきたりした。ただこれはかなり高級感が漂うファッションなのだ、ということが武田さんの説明でわかった。

武田さんの語り口は、職業を持つ女性のサバサバした感覚が伝わってきて、見ている側も小気味がいい。こんなに最先端の豪華な服を着ていれば、そりゃあ、もてるはずよ、という感じのお話には、こちらまでおかしくなって思わず一緒に笑ってしまった。

3月に掲載されていた朝日新聞の「女と男」エピローグという生活面の記事には、男女が近づいてきて、女性が男性化し、男性が女性化しているというTVプロデューサーのインタビューが載っていた。

女性が意思を持ち始め、結婚をバネにさらに仕事に頑張るといった選択肢が増えて、それを実行する人が増えている。一方の男性はむしろロマンチストになってきていて、一生懸命に男女関係を美しいものにキープしようとしている。そういう話が多かった、という内容だった。

【調べもの】
○みな【蜷】
ニナの古名

○にな=ニナ【蜷】
巻貝の一群の総称。カワニナ・ウミニナ・イソニナなど。

○み・はなだ【水・縹】
藍の薄い色。みずいろ。