3 086 本郷和人「戦いの日本史 武士の時代を読み直す」(角川選書；2012) 感想３＋

４月６日(日)：

244ページ　　所要時間 3:50　　　　　図書館

著者52歳(1960生まれ)。東大教授。日本中世史。佐藤進一・石井進、五味文彦の系譜。「権門体制論」に批判的な「二つの王権論（東国国家論）」に立つ。

歴史学者も、随分読者や視聴者を意識してわかりやすく、ソフトな説明を心掛ける人が増えてきたようだ。著者もその一人だろう。本書は、高校の日本史に＋αした内容だが、多くの通説に忌憚なく異を唱えて見せる醍醐味がある。しかし、通説批判が強過ぎて「それはどうかな…？」「そんなに簡単に切って捨てていいものかな？」と、俺のような素人でも思ってしまう部分もたくさんあった。また、無理に変な通説を言挙げした上で、その通説を批判して見せているように感じる部分もあった。もちろん、アカデミズムの本流を走る東大の先生が言うことだし、近い将来の通説になるのかもしれないが、やっぱり納得できない部分もあった。読んでいて、違和感を感じてしまうと高い評価をつけにくい。

裏表紙：「武士の時代、その闘争、そして武家政権とは何だったのか？平清盛と源頼朝の対立から、鎌倉、南北朝、室町、戦国の世を経て、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の進めた天下統一事業まで。鎌倉幕府・北条家による撫民の思想と謡曲「鉢木」の真実、山名宗全の復讐劇に始まった応仁の大乱、戦国における「天下」の意味と信長の思想…史実の刮目すべき新解釈を鮮やかに示す。」

目次：第１章　平清盛と源頼朝―治承・寿永の内乱／第２章　後鳥羽上皇と北条義時―承久の乱／第３章　安達泰盛と平頼綱―霜月騒動／第４章　足利尊氏と後醍醐天皇―南北朝内乱／第５章　細川勝元と山名宗全―応仁の乱／第６章　今川義元と北条氏康―駿東地域の争奪戦／第７章　三好長慶と織田信長―戦国の畿内争奪の諸相／第８章　豊臣秀吉と徳川家康―小牧・長久手の戦い

・日本には諸外国と比べると、驚くほどたくさんの文字資料が残っています。略。資料の質量が劣るヨーロッパでは、哲学の成果を借りて「歴史哲学」というジャンルを形成し、歴史を語る。社会学の成果を取り入れ、「社会史」を推進していく。資料を並べるだけでは空白が多くなってしまうので、それを埋めるべく、様々に「考える」試みをしているのです。略。日々方法論の深化を模索している。これに対して日本のとくに中世史は史料を並べるだけ、配置するだけ。歴史事象の解明の方に重点があり、それを統合して「考える」段になると、さっぱり。13ページ

・「鉢木」の佐野源左衛門常世の佐野は栃木県ではなく、群馬県の佐野である。佐野常世は御家人であると同時に御内人である。即ち、霜月騒動における御家人代表安達泰盛、御内人代表の平頼綱という図式は成り立たない。むしろ日本全体の統治を重んじる撫民の「統治派」(安達泰盛)と幕府の利害を優先する御家人優先の「権益派」(平頼綱)の対立と見るべき。87、98ページ

・犬追物：中・高の教科書などでは残酷なので明記しませんが、集められ柵の中に放たれた犬たちは、馬上から射られて容赦なく殺された。125ページ

・応仁の乱の本質は、義満時代の「負け組」（土岐、山名、大内)によるリベンジ。勝者は、東軍、細川氏である。141、156ページ

・桶狭間の戦いの今川2万5000(４万5000とも)対織田2000は間違い。1598年検地で、駿河15万石、遠江25万石、三河30万石で計70万石。今川2万5000は妥当。統一された尾張は57万石！しかも、津島や熱田は商業拠点！織田2000はありえない。おそらく1万を超える兵を用意していた。あとは時の運！180ページ

・戦国大名たちが、「天下の覇権を握るために上洛する」「天下の覇権を握るためには、どうしても上洛しなくてはならない」という従来の通説は全くの誤りである。これは頼山陽に由来する。193ページ
　　※著者の説が正しいのかどうか俺にはかわからない。

・[国人―地侍―本百姓―脇百姓―下人]のうち、三好長慶が掌握したのは国人領主どまりだったが、信長の支配は地侍(小領主)にまで及び、武士のサラリーマン化が始まっている。畿内を治めていても三好長慶は所詮守護大名段階であり、天下人とは全く異質である。204ページ

・信長は天皇を必要としなかった。信長があと5年生きていたならば、日本の天皇は深刻な危機を迎えたのではないか。220ページ　　※……。

・秀吉の権力は、ヨーロッパの16/17世紀に各国に出現した絶対王政と比較するのが適当である。天皇はイングランドのカンタベリー大司教。232ページ　　　※絶対王制は違うと思う…。

・徳川家の当主は絶対的な君主であり、例えれば絶対王政下のイングランド王なのです。天皇はカンタベリー大主教で、征夷大将軍への任官は、王冠の授与に他なりません。239ページ　　※ちょっと…変。

3 085 田中卓「愛子さまが将来の天皇陛下ではいけませんか」（幻冬舎新書；2013/12）感想３＋

４月３日（木）：　　副題「女性皇太子の誕生」

279ページ　　所要時間 2:50　　　　図書館

著者90歳(1923生まれ)。皇學館大學学長を経て、同名誉教授。平泉澄の皇国史観の正統継承者。本人は「皇国護持史観」と呼ぶ。

本来であれば、死ぬまで手にすることのない著者であるが、本書の表題を見て、興味本位で、すぐに借りることにした。俺の思いも全く同感だったのだ。正反対の立場の権威がどのような論理を展開しているのか。

男女平等なら、愛子内親王が、皇太子になるべきだ。しかし、女性天皇はともかく、女系天皇はダメ！と強く言われると、どこかで腰が引けてしまうのも事実なのだ。

1ページ30秒をめざしたが、すぐに諦めた。疲労と満腹感で強烈な睡魔に襲われ、ただでさえ遅い読解力が、ふっと気が遠くなったりするのだ。途中、読むのを諦めかけたが、「諦めても、ページは最後まで繰れ」を守って、ページをめくり続けた。

まず考えさせられたことは、遠くない将来に現皇太子が天皇に即位すれば、それは同時に誰かが皇太子になることでもある。その候補として、“男系男子固執派”の推す秋篠宮の息子の悠仁と、皇室の現状を踏まえて“女性・女系容認派”の推す皇太子の娘の愛子内親王が並立している。どちらにするかは、重大な選択だが、＜焦眉の急＞である。

意外なことに、著者は、世に溢れる“男系男子固執派”の無知と不遜傲慢を指摘し、側室制のない現在の皇室の血統が絶えるのは時間の問題であり、あまりに無責任過ぎる。と指弾する。その上で、女性でも女系でも問題はない！という論拠を、そもそも天皇家には＜姓＞が無いのだから、天皇家の家系が変わるという心配は要らない。また、男系の血筋に拘ること自体、シナ(ママ；中国)の古くからの社会習慣の影響によるものであって日本の文化でも何でもない！と述べる。

さらに、最後に、2013年10月19日に催された渡邉允(まこと)前侍従長・現宮内庁参与の講演会記録が紹介される。
「皇位継承との問題の関係で、要するに後継ぎの方がなくなるのであれば、いわゆる旧皇族、終戦後親戚降下された旧皇族の方に復帰していただいて、その中から将来の天皇もあれしたらいいじゃないかと議論される方があるんですけれども、私はやっぱり、そういうもんじゃないと思うんです。と言うのは、「血の一滴が繋がっている」ことが大事なのか、それとも「陛下がずっと毎日毎日やってこられたことをお近くでずっと見て来られている」ことが大事なのかの問題に結局なるんじゃないかと思うんです。何もしない天皇で、血のつながりだけが、意味があるということであれば、それは要するにすごく長い遠い遠い親類の方をもう一遍持ってきてすると言うのは意味があるかもしれないけど、今、現在それから将来にわたっての天皇と皇族のお役割というのは、そういうただ名前だけで、私の先祖はこうだったと言っていることではだめなのです。客観的にそれじゃどうなんだと言われても困るんですけれど、私はまさにそういう背中を見て育っていないのですが、そういうことでなければいけないと思います。
それからさらに言えば、女性の天皇は日本に八人おられたのであり、皆さん立派にやってこられたわけだし、女性の天皇ができないことはありえないのであり、女系かどうかと言う話は、これは勿論歴史的な事実として１２５代男系で続いたと言うことがあるけれど、それはその時の社会情勢がそうしたのであり、京都のお公家さんの世界の中の話であるし、それから何と言っても、いわば一夫多妻というと変だが、正妻以外の女性を子どもを産ませるために近付けたことを許していた社会の話ですから、全然状況が違う訳ですね。だから本当に皇室の将来を現実的に考えるならば、私はそういうことを考えるべきじゃないかと思っております。ただこれは一寸あれなので、私の個人の意見を、言わば独り言として申し上げたということで、聞いていただきたいと思います。278～279ページ」

本書は、著者の年齢から想像もつかないほど、エネルギッシュで冗舌である。その中で“男系男子固執派”の竹田恒泰や安倍晋三を批判している。特に竹田恒泰がよく言う明治天皇のヤシャゴと言うのについては、彼が明治天皇から見れば女系のヤシャゴであり、彼の主張と論理的に破綻していると皮肉っている。

裏表紙：「次代の皇太子」問題が日々切迫している。現在の皇室典範のままでは“皇太子不在の時代”がやってくる。平成17年に一旦は開かれかけた「女性皇太子・天皇への途」が＜男系男子絶対固執派＞のゴリ押しによって閉ざされた。そもそも皇室の祖神である天照大神は女性であり、歴代８人１０代の女帝が存在する。にもかかわらず＜男系固執派＞が「皇室の危機」といいながら女性天皇を否定するのは、明治以来の皇室典範に底流する単なる“男尊女卑“思想によるものではないのか。天皇をいただく日本の国体を盤石にするため必読の一冊。

140402 近況：「蜘蛛の巣が 好み捕える 冬の蠅(＊我がバイク）」；NHK「太平記」DVDは最高傑作！

４月２日（水）：

年度の変わり目は、時間があるようで落ち着かない。愛別離苦、怨憎会苦他、四苦八苦の日々が続く。実際にはそれなりに時間があるのだろうが、何か微妙にリズムがずれている。帰宅して本を読む前に晩酌のビール付きで夕食をすませると結局睡魔で居眠りしてしまい本を読む時間を失う。

本を読めないのに、ブックオフや図書館に行くのだけが、一番の楽しみの日々である。3/31月には職場を早く出て、少し離れた中央図書館に行く途中で、警察のネズミ捕りに引っ掛けられてしまった。キープレフトの安全運転中に「左折車優先の車線に入った」というのだ。全く訳がわからない。「１点減点、反則金6000円」である。1/6月に「一旦停止」違反という訳の分からない理由で「２点減点、反則金6000円」捕まったばかりである。こんなことは１０年来記憶がない。ついてないのか、警察の弱い者いじめが強化されたのか…。

断っておくが、俺は、ゴールド免許所持者である。スピードは抑制的だし、常に安全第一で運転している。しかし、警察は、俺みたいな「冬の蠅」に似たとろいバイクに限って狙い撃ちしてくるのだ。まあ、捕まえやすいのだろう。別に、お上と喧嘩をする気はない(若ければやったかもしれないが…）が、「もっと取り締まるべき奴らが他にいるだろう！」と思ってしまう。正直、人間不信に陥りそうだった。すぐ郵便局に飛び込み、6000円を支払った。ちくしょー、このお金があれば、我慢している本を何冊買い込めただろうと思うと、無念の極みである。

まあ、悪いことばかりではない。中央図書館では、ドラマ「仁」の原作コミックを見つけて、気分転換に2冊を読み流した。西郷隆盛の虫垂炎手術の辺である。良いドラマの原作は必ず優れている、と思った。さらに、「いつもしないことをしよう」と思って、ＡＶ(オーディオ・ビジュアル)コーナーを見回ったところ、ＮＨＫ大河「太平記(1991)」ＤＶＤの５巻(28～35)・７巻(44～49最終回)があった！　驚くほどの幸運である。俺の歴代大河ドラマの評価で1位の「花神(1977)」に次ぐ、２位が「太平記(1991)」である。即、借りることにした。以来、3/31、4/1、4/2と三日連続で「太平記」三昧の日々である。これからもしばらく続くだろう。何度見ても飽きないし、むしろすべてを頭に焼き付けておきたいのだ。

所持する総集編ＤＶＤは、擦り切れるほど見返している。あらすじは完璧に頭に入っているので、たとえ途中からであろうと意味がわからなかったり、迷子になることは全くない。最高に堪能できている！　真田広之の足利尊氏、高嶋政伸の足利直義、片岡孝夫の後醍醐天皇、武田鉄矢の楠木正成、柄本明の高師直、陣内孝則の佐々木道誉（特に、陣内さんは華があって良い！）、そして当時最も美しかった三大女優（沢口靖子・後藤久美子・宮沢りえ）を登用。他の配役も名優が適役を与えられて奇跡のキャストになっている。そして、何より南北朝時代という日本史のタブーを敢えて大河ドラマに取り上げたＮＨＫスタッフの気概が毎回画面に溢れている。妻と一緒に観賞する時間は、俺にとってまさに至福である。

読書については、「完全主義による挫折」という“甘え”に陥ることなく、もう一度、1ページ15秒～30秒でストレスの溜る「縁結び読書」の徹底を図って＜一日一冊読書＞の励行、立て直しを図っていくつもりである。読者の皆様におかれては、まことに恐縮ですが、お見捨てなくご来訪を頂けますよう、お願い申し上げますｍ(_ _)ｍ。

寝ます。