もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

4 038 内田樹「下流志向」(講談社文庫:2007) 感想4+

2015年01月18日 03時25分34秒 | 一日一冊読書開始
1月17日(土):副題「学ばない子どもたち 働かない若者たち」

277ページ   所要時間 7:05   ブックオフ108円

著者57歳(1950生まれ)。

 著者の基本的考え方は、世の中には「市場原理」を適用してはいけない分野が沢山ある。近年、何に対しても市場原理、消費者意識、その延長にある勘違いの破滅を招く自己決定・自己責任論などが支配層によって都合よく流布されて、日本社会の階級社会化が深刻化しつつある。という感じの内容かな。

 感想が、4+で、5にならなかったのは、階層社会の到来を論じているのはよいが、現在進行する貧困・格差の問題を個人の責任に帰する度合いが、俺の感覚に合わなかった。「ちょっと甘いですよ、内田先生」という感じだったからだ。やはり、神戸女学院という西日本一のお嬢様学校の先生を長年勤めてきたので、どうしても目線の高さを調節しきれないのかな。でも、保守の卓見として、読まれるべき本です。

「第一章:学びからの逃走」:
小学校の授業で、「先生、これは何の役に立つんですか?」という質問を発する子どもたちの中に、消費者意識の存在を見て、そもそも市場原理には時間の意識が無く、変化していくことを前提とする教育になじまないと指摘する。また、「知らない」ことを平然と拒否する学生の傲慢さを指摘する。他に、「自分探し」イデオロギーの無意味と、もしするなら外国ではなく、今いる場所で自分の果たしている機能を見るべきだ、と説く。
「何の役に立つのか?」の連帯保証人は、「未来の私」であり、捨て値で未来を売り払う子どもたちの大量発生を憂う。

「第二章:リスク社会の弱者たち」:
・上層家庭の子どもは「勉強して高い学歴を得た場合には、そうでない場合よりも多くの利益が回収できる」ということを信じていられるが、下層家庭の子どもは学歴の効用をもう信じることができなくなっているということです。ここにあるのは「学力の差」ではなく、「学力についての信憑の差」です。「努力の差」ではなく、「努力についての動機づけの差」」です。97ページ
・日本人がリスクヘッジという技術について考えるのを止めて「正しいソリューションだけを選択し続けなければならない」というような途方もないことを言い出したのは、「間違っても大丈夫」という無根拠な安心に全国民がのどもとまで使っていることができているからです。日本人はそれほどまで無防備なのです。略。それは戦後六十年間戦争をしたことがなかったからです。113ページ
 *護憲を平和ボケという輩(やから)どもこそが、平和ボケである!
・「個人がリスクをヘッジする」ということは原理的に不可能。略。リスク社会を生き延びることができるのは「生き残ることを集団的目標に掲げる、相互扶助的な集団に属する人々」だけです。「リスク社会を生きる」というのは、「自己決定し、その結果については一人で責任を取る」ということを原理として生きることではまったくない。それはリスク社会が弱者に強要する生き方(というよりは死に方)なのです。120ページ

「第三章:労働からの逃走」:
・学校で身につけるもののうち最も重要な「学ぶ能力」は、「能力を向上させる能力」というメタ能力です。いうなれば「物差しを作り出す能力」です。「ものさしを作りだす力」をできあいの「ものさし」で計測できるはずがない。/教育のアウトカム(成果)は数値的に評価できない。それは当り前のことなんです。188ページ
「第四章:質疑応答」:
・「師であることの唯一の条件」は「師を持っている」ことです。210ページ
・でも、アナキンに背かれたあとも、師匠のオビ=ワンの方はまだジェダイの「騎士道」につながっている。オビ=ワン自身の師匠のヨーダに対する深い敬意は少しも変わらない。だから、弟子のアナキンに離反されたあとも、オビ=ワン自身は成長を続けることができる。師を超えたと思った瞬間にアナキンは成長を止めるけれど、師は超えられないと信じているオビ=ワンは成長を止めない。/略。ジョージ・ルーカスにも「師匠」がいたんですね。/黒澤明がそうなんです。そう考えたら、『スター・ウォーズ』が黒沢へのオマージュだということがわかりました。驚かれるかもしれませんけれど、『スター・ウォーズ』の元ネタって、黒沢の『姿三四郎』なんです。/略。そのルーカスが出した結論が「師匠を持たないものは敗れる』ということでした。/師弟関係で重要なのは、略、師から伝統を継承し、自分の弟子にそれを伝授する。師の仕事というのは極論すると、それだけなんです。211~212ページ
・先生が子どもに敬語を使えば、子どもはすぐ敬語を覚えます。222ページ
ニート論がなかなか面白い。
・「オレのことはほうっておいてくれ」という人々がもたらす社会的コストを減らす方法は、「悪いけれど、ほうっておけない」という「おせっかい」しかないのです。245ページ

疲れたので寝ます。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 150116 拡散希望:安倍自民... | トップ | 150117 メモ:「長妻民主党... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

一日一冊読書開始」カテゴリの最新記事