もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

3 077 阿部彩「子どもの貧困Ⅱ―解決策を考える」(岩波新書;2014/1) 感想5

2014年03月20日 01時59分25秒 | 一日一冊読書開始
3月19日(水):

254ページ  所要時間 2:30    図書館

著者 歳(  生まれ)。専門は、貧困、社会的排除、社会保障、公的扶助論、社会保障論である。活動家ではないので、あくまでも統計の分析・解説を行う学者?・アナリスト?である。しかし、批評家に多い数値を弄んで高みの見物の卑しさは微塵もない。統計・数値の分析を通じて、現代日本の危機的状況に対する「何とかしなければいけない」という志・まなざしを感じる。早い話が、熱いハートを感じさせてくれる人である。

俺の中では、湯浅誠、堤未果と比肩すべき注目すべき著者である。

2年前の2012年2月18日に読んだ「156冊目 阿部 彩「子どもの貧困―日本の不公平を考える」(岩波新書;2008) 評価5」の続編である。前著よりは随分読み易かった。

前著では「日本の貧困の現状」深刻な状況に陥っていることに警鐘を鳴らす内容になっていたが、その後、貧困への認識が急速に進み、2013年に「子どもの貧困対策法」が成立した焦りつつ著者は「今の問題は、略、何をすれば、子どもの貧困が解消できるのか、その解決の道筋を示すこと」、<具体的解決法>を提示することに問題の中心が移っていると述べている。

*「何をすればよいのか」の解答については、全然、煮詰まっていない。焦りに焦りながらも、とりあえず、自分の中の知見をさらけ出したのが本書である。/本書が「解答」となっていないことは、私自身、痛感している。あまりにも不十分なので、今の状況で人前にこれを出すのは恥ずかしいという気持ちも多々ある。しかしながら、この問題と日々闘っている数少ない研究者の努力だけでは、とうてい足りないところを、岩波新書の大勢の読者の方々と共有しながら一緒に考えることで、解答に一歩近づくことはできるかもしれない。略。その社会的議論のカタリスト(触媒)として、本書が機能してくれればよいとの判断で、あえて、本書を出すこととした。234ページ

著者は、謙虚に上のように述べているが、分析は非常に幅広くゆきとどいた視野で問題提議が満載され、それぞれに何が問題なのか、良い点、問題点が丁寧に指摘されている。詳しい説明を通じて、「子どもの貧困」を打開する支援の在り方を模索するが、現実にはそれぞれに一長一短があり、本当に効果的な支援策は何なのか、考えれば考えるほど出て来ないと正直に告げている。でも、我々は、その中からより良い。より効果的な支援策を選ばねばならない。容易ではないが、問題の深刻さを考えるとまごまごしてられないのだ。

「これが答えだ!」というのは示されないが、その分多様な視点と奥行きのある考察が提示されているので、「子どもの貧困」問題を考える上で、とても良いテキストになっていると思う。

例えば、支援策として、「現金給付」がよいのか、「現物(サービス)給付」がよいのかが具体的なプラス・マイナスが論じられる。

■目次: はじめに
第1章 子どもの貧困の現状 : 1 どれほどの子どもが貧困なのか/2 貧困が子どもに及ぼす影響/3 貧困の社会的コスト/4 景気回復は貧困対策となり得るか
第2章 要因は何か : 1 連鎖の経路/2 どの経路が重要なのか/3 経路研究を政策につなげるために
第3章 政策を選択する : 1 政策の選択肢/2 政策の効果を測る/3 政策の収益性を見る/4 日本への示唆
第4章 対象者を選定する :1 普遍主義と選別主義/2 的を絞る/3 年齢を絞る/4 タ-ゲティングの罠
第5章 現金給付を考える : 1 「現金給付 対 現物給付」論争/2 現金給付の利点/現物給付の利点/3 現金給付の現状/4 現金給付の設計オプション
第6章 現物(サ-ビス)給付を考える : 1 子どもへの支援/2 親への支援
第7章 教育と就労 : 1 教育費の問題/2 学力格差の縮小/3 学校生活への包摂/4 教育のセ-フティネットの強化/5 教育から就労への移行支援/6 子どもと接する大人たちへの教育・支援
終 章 政策目標としての子どもの貧困削減 : 1 子どもの貧困対策法/2 子どもの貧困を測る/3 優先順位/4 さいごに
あとがき/ 主要引用・参考文献
参考資料 子どもの貧困対策の推進に関する法律

*「景気対策」「経済成長」を目指すトリクルダウン理論は先進国ではナンセンス34ページ
*支援における普遍主義と選別主義の是非。101ページ
川上対策と川下対策の是非。102ページ
*どの年齢の子どもを貧困対策の対象とすべきか。123ページ
*「児童手当をもらって、パチンコをする親」の事例を過大評価するかどうか。133ページ
*定時制高校・通信制教育・夜間中学校の教科の必要。207ページ
*「帰れる家」の提供。182ページ
*現代の貧困は、みえにくい。たとえ、子どもを相手とする専門家であっても、目の前に貧困の子どもがいても気がつかないということがある。子どもの六人に一人が相対的貧困であるという事実さえも知らない教師や保育士が多い。214ページ
*筆者の考える現金給付の優先順位は二つである。一つは、貧困率の逆転現象(再分配の逆転現象は日本だけで、恥ずべきこと!)を解消すること。「子どもの貧困率の逆転現象」を解決することは、福祉国家の名において必要であろう。そして、逆転現象を解消する戦略の中には、是非、ひとり親世帯貧困率の削減を組み込むべきである。/母子世帯の貧困率は、OECD諸国の中でも最悪であり、五割を超えている。父子世帯の貧困率も三〇%以上である。まさにもっとも不利な状況におかれている子どもたち」の中に、ひとり親世帯に属する子どもたちは含まれる。ここをタックルしない限り、日本の子どもの貧困対策が進んだとはいえない。232ページ

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