5月13日(土):
192ページ 所要時間3:00 古本270円+税
著者59歳(1956生まれ)。
物語りの佳境を過ぎて、静かに団円に向かっているようだ。穏やかな団円に…。うまくまとまるといいなあ。
【目次】「同じ月を見ている」「パンと女子と海日和」「あの日の青空」「遠い雷鳴」
【紹介】中学最後の年を迎えたすずに、静岡の高校から舞い込んだ"サッカー特待生"の誘い。受けるかどうかなかなか決められず悩むすずに、寄り添う風太だが・・・。一方、すずの姉たち3人も、それぞれ恋の悩みを抱えていて・・・!?初夏の風が吹く鎌倉の街を舞台に繰り広げられる。
佳乃(よしの): 間違ってなんかいないわ/あなたは間違ってなんかいない ありがとうって言ったその人の言葉もうそじゃない/でもそのことと死ぬことは きっと別なの/姉が言ってたの 患者さんの話を聞いていてわかったことがあるって/生きることの先に死があるんじゃなくて 死はいつも影みたいにそばにいるんだって/もちろんそんなこといつも意識して生きてはいけないわ/病気になったり心が弱くなったりした時に それは突然顔を出すの/その人はついその顔を見てしまったのよ/その人は覚悟して出ていったのかもしれない/でも家を出る時はいつもの散歩のつもりだったのかもしれないわ/それは誰にもわからない/答えはないのよ。
坂下課長 : ぼくの/…そばに いてくれませんか/ぼくは――
佳乃(よしの): いたじゃない/ずっとそばにいたのよ 128~129ページ
◎俺にはとても書けない「書評」が、「アマゾンのレビュー欄」に載っていたので、以下に転載させて頂きます。本当に良いレビューです。「ああそうそう」と何度も相槌を打ちながら、「そうなんだよなあ。この人ようわかってはるわ!」と思いました。
トップカスタマーレビュー
5つ星のうち 5.0
動き出した物語 波乱の予感 投稿者 有閑子 トップ1000レビュアー 投稿日 2016/1/8
形式: コミック
ちょうど1年半ぶりの第7巻、表紙絵は第2巻以来の四姉妹勢ぞろい、そしてバックは江ノ電に鎌倉の海、青い空、素敵な絵で期待感十分です。この絵は第1巻の表紙絵と同じ場所をアングルを変えて描かれています。ネタバレになるので詳細にはふれませんが表紙絵の和やかさや穏やかさとは裏腹に本巻は今までにないくらい物語が大きく動き出します。穏やかな予定調和に見えたこの作品ですがすずにも姉たちにも大きな変化と決断が訪れます。まるでたまっていた夏休みの宿題を一気に片付けるかのように、そしてまた新たなより大きな宿題を波乱の前兆のように残して物語は次巻へと続いていきます。こんなにもお話が動き出すなんて、あの人物のいつにない表情はそういうことだったのかと、この人にはこんなことがあったのかと物語の展開にそれでそれでとぐいぐいと引き込まれて一気に読み通してしまいました。
いろいろなお話が交錯しますが「海街diary」は大まかに分けると3つのテーマが並行している作品だと思います。
1、 四姉妹の絆
2、 すずを中心とするオクトパスのメンバーの成長
3、 姉たちの恋愛の進展
それぞれのテーマの骨格をなす話が、
1)「蝉時雨のやむ頃」第1巻第1話
2) 「二階堂の鬼」第1巻第3話
3) 「誰かと見上げる花火」第3巻第2話
以前からそうではないかと思っていましたが第6巻でそれぞれが回想シーンとして使われていたので確信しました。もう一話補足的に挙げるとしたら第4巻第2話の「ヒマラヤの鶴」でしょうか。1が物語全体を支える縦糸、2と3が横糸で両者を組み合わせることで着物の美しい絵柄が描かれるような構成です。
本作品が描かれている舞台の空気を実感したくて鎌倉を訪れ、鎌倉が鎌倉であると感じさせる隠し味三つに気付きました。江ノ電、トンビ、サーファーの存在です。何気にこの街に溶け込んでいますがほかの街では見当たりません。本作品を読み返してみると、どれも作中にきちんと描き込まれているのです。そして本巻の最後に描かれている場所、あそこも鎌倉に実在する場所ですね。まさに「海街diary」は鎌倉以外を舞台にしては成り立たない作品、流石に作者はこの街をよく理解していると思いました、幼い頃育った街ですものね。
作画上のテクニックにも感心させられるものがあります。ここぞという場面では敢えて大胆にコマの枠をはずして重ね合わせることでストーリーの盛り上がりに効果的なインパクトを与えています。また、コマとコマを作中人物のセリフでつなぐようにして読者を次のコマに誘導していく描き方など作者独特でなかなか他では見られない手法だと思います。場面の切替えのタイミングの絶妙さ、キャラの使い方もすごい、ここでこの人出してくるか~だけどこれは既話のデジャヴなんだと今回は完全に脱帽です。複数の人物の視点で多面的にお話を進めるのもこの作品ならでは、そして時としてその視点や思いを交錯させたりシンクロさせたりする絶妙さ。第1話の風太のタンカにグッときました、すごいなと感じたのは第4話ですずが雨に打たれる場面、彼女の頬を伝っていたのは雨粒だけではなかったはず、そんな彼女を見つめる風太、すべてを絵だけで語らせる作画の繊細さに唸ってしまいました。伏線の張り方も絶妙、既話のあのエピソードがここに繋がってくるのかとその手際の鮮やかさは脱帽もの、手練れの作者ならではのなせる技です。
そしてサブキャラにいたるまで人物の背景設定が深くなされていて、誰を主人公にしてもちゃんとひとつの短編が出来上がるのではないかと思いました。本巻のサブタイトルになっている第3話では山猫亭のマスターや坂下課長にここまで深い過去や背景があったとは、これで完結した一話が描けるではないかと唸ってしまいました。しかもそれぞれが同じお題(タイトル)で括られていて不自然さが全くない。いやはや恐れ入るばかりです。作中人物それぞれに意味があるタイトルというマルチミーニングはこの作品を通して使われる手法ですが、ここまで洗練された描き手というのは作者以外にはちょっと見当たりません。
作中人物のひとつひとつのセリフも練りに練りさらに練り込んだと思われるほど言葉に過不足なく、これだけ完成度の高い作品はいつもながらですがそうそう見当たりません。ユーモアも適度に織り込みながらシリアスなシーンはきっちり締めるバランスのとり方も絶妙です。目下のところ現在のコミックの最高峰のひとつ、粋の極みと言って過言ではないでしょう。小説を原作にしたコミックは山ほどありますが原作の映画化を契機に小説が後からできたという作品は本作以外にあるでしょうか。コミックでありながらコミックを超えてしまった作品と言えるのでしょう。意味深長なエンディングで終わる第7巻、もう続きが気になって仕方ありません。次巻までわれわれ読者はどれだけ待つことになるのだろうと思い入るばかりです。
コメント 147人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
※突然ですが、もみ追記(上の有閑子さんのレビューを読んで、転載した後、半日後にふと思ったことを書き足します):
本作品には、確かに多くの繊細な表現、練り込んだ表現、微妙な表現が出てきます。雑に読めば、「何言ってんの…?」で済まされる描き方です。だからこそ、著者は著者の作品の読者を信頼してるのだ。「(自分の読者なら)きちんと読み取ってくれるはずだ」と読者を敬してくれている。表現者と、それを受け取る者と相互の幸せな信頼関係があって初めて名作は成立するのだ、とふと思った。
192ページ 所要時間3:00 古本270円+税
著者59歳(1956生まれ)。
物語りの佳境を過ぎて、静かに団円に向かっているようだ。穏やかな団円に…。うまくまとまるといいなあ。
【目次】「同じ月を見ている」「パンと女子と海日和」「あの日の青空」「遠い雷鳴」
【紹介】中学最後の年を迎えたすずに、静岡の高校から舞い込んだ"サッカー特待生"の誘い。受けるかどうかなかなか決められず悩むすずに、寄り添う風太だが・・・。一方、すずの姉たち3人も、それぞれ恋の悩みを抱えていて・・・!?初夏の風が吹く鎌倉の街を舞台に繰り広げられる。
佳乃(よしの): 間違ってなんかいないわ/あなたは間違ってなんかいない ありがとうって言ったその人の言葉もうそじゃない/でもそのことと死ぬことは きっと別なの/姉が言ってたの 患者さんの話を聞いていてわかったことがあるって/生きることの先に死があるんじゃなくて 死はいつも影みたいにそばにいるんだって/もちろんそんなこといつも意識して生きてはいけないわ/病気になったり心が弱くなったりした時に それは突然顔を出すの/その人はついその顔を見てしまったのよ/その人は覚悟して出ていったのかもしれない/でも家を出る時はいつもの散歩のつもりだったのかもしれないわ/それは誰にもわからない/答えはないのよ。
坂下課長 : ぼくの/…そばに いてくれませんか/ぼくは――
佳乃(よしの): いたじゃない/ずっとそばにいたのよ 128~129ページ
◎俺にはとても書けない「書評」が、「アマゾンのレビュー欄」に載っていたので、以下に転載させて頂きます。本当に良いレビューです。「ああそうそう」と何度も相槌を打ちながら、「そうなんだよなあ。この人ようわかってはるわ!」と思いました。
トップカスタマーレビュー
5つ星のうち 5.0
動き出した物語 波乱の予感 投稿者 有閑子 トップ1000レビュアー 投稿日 2016/1/8
形式: コミック
ちょうど1年半ぶりの第7巻、表紙絵は第2巻以来の四姉妹勢ぞろい、そしてバックは江ノ電に鎌倉の海、青い空、素敵な絵で期待感十分です。この絵は第1巻の表紙絵と同じ場所をアングルを変えて描かれています。ネタバレになるので詳細にはふれませんが表紙絵の和やかさや穏やかさとは裏腹に本巻は今までにないくらい物語が大きく動き出します。穏やかな予定調和に見えたこの作品ですがすずにも姉たちにも大きな変化と決断が訪れます。まるでたまっていた夏休みの宿題を一気に片付けるかのように、そしてまた新たなより大きな宿題を波乱の前兆のように残して物語は次巻へと続いていきます。こんなにもお話が動き出すなんて、あの人物のいつにない表情はそういうことだったのかと、この人にはこんなことがあったのかと物語の展開にそれでそれでとぐいぐいと引き込まれて一気に読み通してしまいました。
いろいろなお話が交錯しますが「海街diary」は大まかに分けると3つのテーマが並行している作品だと思います。
1、 四姉妹の絆
2、 すずを中心とするオクトパスのメンバーの成長
3、 姉たちの恋愛の進展
それぞれのテーマの骨格をなす話が、
1)「蝉時雨のやむ頃」第1巻第1話
2) 「二階堂の鬼」第1巻第3話
3) 「誰かと見上げる花火」第3巻第2話
以前からそうではないかと思っていましたが第6巻でそれぞれが回想シーンとして使われていたので確信しました。もう一話補足的に挙げるとしたら第4巻第2話の「ヒマラヤの鶴」でしょうか。1が物語全体を支える縦糸、2と3が横糸で両者を組み合わせることで着物の美しい絵柄が描かれるような構成です。
本作品が描かれている舞台の空気を実感したくて鎌倉を訪れ、鎌倉が鎌倉であると感じさせる隠し味三つに気付きました。江ノ電、トンビ、サーファーの存在です。何気にこの街に溶け込んでいますがほかの街では見当たりません。本作品を読み返してみると、どれも作中にきちんと描き込まれているのです。そして本巻の最後に描かれている場所、あそこも鎌倉に実在する場所ですね。まさに「海街diary」は鎌倉以外を舞台にしては成り立たない作品、流石に作者はこの街をよく理解していると思いました、幼い頃育った街ですものね。
作画上のテクニックにも感心させられるものがあります。ここぞという場面では敢えて大胆にコマの枠をはずして重ね合わせることでストーリーの盛り上がりに効果的なインパクトを与えています。また、コマとコマを作中人物のセリフでつなぐようにして読者を次のコマに誘導していく描き方など作者独特でなかなか他では見られない手法だと思います。場面の切替えのタイミングの絶妙さ、キャラの使い方もすごい、ここでこの人出してくるか~だけどこれは既話のデジャヴなんだと今回は完全に脱帽です。複数の人物の視点で多面的にお話を進めるのもこの作品ならでは、そして時としてその視点や思いを交錯させたりシンクロさせたりする絶妙さ。第1話の風太のタンカにグッときました、すごいなと感じたのは第4話ですずが雨に打たれる場面、彼女の頬を伝っていたのは雨粒だけではなかったはず、そんな彼女を見つめる風太、すべてを絵だけで語らせる作画の繊細さに唸ってしまいました。伏線の張り方も絶妙、既話のあのエピソードがここに繋がってくるのかとその手際の鮮やかさは脱帽もの、手練れの作者ならではのなせる技です。
そしてサブキャラにいたるまで人物の背景設定が深くなされていて、誰を主人公にしてもちゃんとひとつの短編が出来上がるのではないかと思いました。本巻のサブタイトルになっている第3話では山猫亭のマスターや坂下課長にここまで深い過去や背景があったとは、これで完結した一話が描けるではないかと唸ってしまいました。しかもそれぞれが同じお題(タイトル)で括られていて不自然さが全くない。いやはや恐れ入るばかりです。作中人物それぞれに意味があるタイトルというマルチミーニングはこの作品を通して使われる手法ですが、ここまで洗練された描き手というのは作者以外にはちょっと見当たりません。
作中人物のひとつひとつのセリフも練りに練りさらに練り込んだと思われるほど言葉に過不足なく、これだけ完成度の高い作品はいつもながらですがそうそう見当たりません。ユーモアも適度に織り込みながらシリアスなシーンはきっちり締めるバランスのとり方も絶妙です。目下のところ現在のコミックの最高峰のひとつ、粋の極みと言って過言ではないでしょう。小説を原作にしたコミックは山ほどありますが原作の映画化を契機に小説が後からできたという作品は本作以外にあるでしょうか。コミックでありながらコミックを超えてしまった作品と言えるのでしょう。意味深長なエンディングで終わる第7巻、もう続きが気になって仕方ありません。次巻までわれわれ読者はどれだけ待つことになるのだろうと思い入るばかりです。
コメント 147人のお客様がこれが役に立ったと考えています. このレビューは参考になりましたか?
※突然ですが、もみ追記(上の有閑子さんのレビューを読んで、転載した後、半日後にふと思ったことを書き足します):
本作品には、確かに多くの繊細な表現、練り込んだ表現、微妙な表現が出てきます。雑に読めば、「何言ってんの…?」で済まされる描き方です。だからこそ、著者は著者の作品の読者を信頼してるのだ。「(自分の読者なら)きちんと読み取ってくれるはずだ」と読者を敬してくれている。表現者と、それを受け取る者と相互の幸せな信頼関係があって初めて名作は成立するのだ、とふと思った。