11月8日(木):
205ページ 所要時間4:45 古本市場86円
著者66歳(1937生まれ)。鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業。専門は解剖学。95年東京大学医学部教授を退官し、96年より北里大学教授。東京大学名誉教授。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞
1ページ30秒、2時間程度の<縁結び読書>読書のつもりで目を這わせていた。文章がどうも書下ろしではなく、語り下ろしのようで、しきりに「何々、ですな」調で書かれていく。真ん中辺までは「今回は養老さんの本としてはアカンなあ。敬意を表し、良くしても感想4がせいぜいかな」と思っていたのだが、いつの間にか俺の感性のツボに入ってきて、付箋しまくり、ラインマーカーまで出して、線引きまくりになってしまった。一日働いて、嫌な思いもたくさんして疲れてるはずだったが、本書は休憩なしで一気に終わりまで読むことができた。
最後まで読み終わると感想5以外は考えられなかった。養老孟司という著者を、「現代の賢者」だと思うようになっていた。元々、著者に対しては、少し癖はあるが、非常に中味のある、安定感のある論者として評価、支持をしていたが、今回の読書は思わぬ再発見をした印象である。
本書の真骨頂は、後半にある。福岡伸一氏の動的平衡論や山中伸弥氏のiPS細胞の発見を連想させる「人間をシステムと捉える」論などは、2003年という時点から見れば、東大名誉教授として医学・生物学の進むべき方向性をしっかりと捉えていると感心した。そして、何よりも著者の文明論、社会(共同体)論、人生観、歴史観などがとても興味深かった。歯切れの良さと、微妙な問題に対する配慮と距離の取り方が著者の賢明さをよく感じさせてくれた。しばらくは本書を持ち歩き、内容を反芻していきたいと思う。
・そういうわけで、自分探しに意味はありません。略。現にここにいるこの自分、それがいつでも自分なんです。/ただしそれはひたすら変化する。どう変わるかなんて、そんなこと訊かれたってわかりません。だから人生は面白いんでしょうが。自分探しが生じたのは、間違った前提の上で考えたら、間違った問題が出たという典型です。問題が間違っているから、答えがありません。153ページ
【目次】第1章 現代人の大きな錯覚ー“逆さメガネ”の教育論/第2章 都市化社会と村社会ー脳化社会の問題/第3章 身体感覚を忘れた日本人ー都市化と身体/第4章 大人の都合と子どもの教育ー問題は親にあり/第5章 変わる自分、変わらない自分ー心と身体の関係/第6章 人間が幸福にならない脳化社会ー意識的世界の限界/第7章 ふつうの人が幸福に暮らせる社会ー共同体を生きる/エピローグ 男と女は平等かー人間を分割してしまうもの
【内容情報】「世の中おかしくなった」と誰もがいう。教育の荒廃、凶悪犯罪、環境破壊、金銭汚職…。ことあるごとに「誰かのせい」がはじまる。政治家が、役人が、教師が、そして会社が悪い。そうじゃない!あなた自身の見方・考え方がまちがっているのだ。「都市こそ進歩」「個性は心にある」「バリア・フリーの社会を」…。現代人のその価値観は、大きな錯覚である。本書では、「都市主義」「脳化社会」のゆがみを鋭く指摘。これまでの常識にしばられず、本質を見抜けるか。養老流の“逆さメガネ”を披露。
【内容情報2】*視野の上下が逆転する特殊なメガネがある。「逆さメガネ」だ。人間の知覚や認知を調べる実験道具で、このメガネをかけてしばらく慣らせば、普通に行動できるようになるという。それほど、人間の脳の適応力は大きいわけだが、この「逆さメガネ」をかけて世の中を、特に教育の世界をのぞいてみたのが本書だ。逆さメガネをかけるのは、『唯脳論』、『バカの壁』などで独自の知の地平を切り開く解剖学の第一人者、養老孟司である。/著者はいう。人間は刻々と変わっている。ところが、いまの社会は「変わらない私」を前提にしている。「変わらない私」と思い込むのは、いまの世の中の見方をそのまま受け入れているからだ。だから、世の中の大勢の見方と反対を見ることができる「逆さメガネ」をかけなければ、本当の姿は見えてこない、と。そして、人が変わらなくなった社会で、最も苦労しているのが子どもたちだと指摘する。なぜなら、子どもは一番速やかに変化する人たちだからである。そのことに気付かなければ、教育の本質を見失うことになる。/ではなぜ、私たちは「変わらない私」と思い込むようになったのか。原因は都市化社会にあった。都市的合理性、多数決による社会常識が、いつの間にか「逆さメガネ」になっていたのだ。著者は本書で、「あまり一つの見方でこり固まってしまうと危険だということです。ときどき、私のように『逆さメガネ』で見る視点を持ってくださいよ」とメッセージを送っている。(清水英孝)
*世間の常識は傾いているのに、それに気づかないことがある。著者は時々、世間を“逆さメガネ”で見ることが必要だとして、そのための見方、考え方のヒントを提供する。/現代の間違った常識の1つが「自分」のとらえ方。自分という確固とした実在があって、そこに知識が積み重なるという感覚があるが、生きて動く人間は、刻々と変わるもの。その感覚が消えたから教育はおかしくなった。/人が変わりゆくものならば、「個性」とは何かというと、体そのものだという。心には他人と通じる共通性が必要だ。「体は個性、心は共通」なのに、逆にとらえている人が多い。/「都市化」「脳化」社会の歪みを鋭く指摘しながら、1つの見方で凝り固まってしまう危険性を指摘する。
205ページ 所要時間4:45 古本市場86円
著者66歳(1937生まれ)。鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業。専門は解剖学。95年東京大学医学部教授を退官し、96年より北里大学教授。東京大学名誉教授。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞
1ページ30秒、2時間程度の<縁結び読書>読書のつもりで目を這わせていた。文章がどうも書下ろしではなく、語り下ろしのようで、しきりに「何々、ですな」調で書かれていく。真ん中辺までは「今回は養老さんの本としてはアカンなあ。敬意を表し、良くしても感想4がせいぜいかな」と思っていたのだが、いつの間にか俺の感性のツボに入ってきて、付箋しまくり、ラインマーカーまで出して、線引きまくりになってしまった。一日働いて、嫌な思いもたくさんして疲れてるはずだったが、本書は休憩なしで一気に終わりまで読むことができた。
最後まで読み終わると感想5以外は考えられなかった。養老孟司という著者を、「現代の賢者」だと思うようになっていた。元々、著者に対しては、少し癖はあるが、非常に中味のある、安定感のある論者として評価、支持をしていたが、今回の読書は思わぬ再発見をした印象である。
本書の真骨頂は、後半にある。福岡伸一氏の動的平衡論や山中伸弥氏のiPS細胞の発見を連想させる「人間をシステムと捉える」論などは、2003年という時点から見れば、東大名誉教授として医学・生物学の進むべき方向性をしっかりと捉えていると感心した。そして、何よりも著者の文明論、社会(共同体)論、人生観、歴史観などがとても興味深かった。歯切れの良さと、微妙な問題に対する配慮と距離の取り方が著者の賢明さをよく感じさせてくれた。しばらくは本書を持ち歩き、内容を反芻していきたいと思う。
・そういうわけで、自分探しに意味はありません。略。現にここにいるこの自分、それがいつでも自分なんです。/ただしそれはひたすら変化する。どう変わるかなんて、そんなこと訊かれたってわかりません。だから人生は面白いんでしょうが。自分探しが生じたのは、間違った前提の上で考えたら、間違った問題が出たという典型です。問題が間違っているから、答えがありません。153ページ
【目次】第1章 現代人の大きな錯覚ー“逆さメガネ”の教育論/第2章 都市化社会と村社会ー脳化社会の問題/第3章 身体感覚を忘れた日本人ー都市化と身体/第4章 大人の都合と子どもの教育ー問題は親にあり/第5章 変わる自分、変わらない自分ー心と身体の関係/第6章 人間が幸福にならない脳化社会ー意識的世界の限界/第7章 ふつうの人が幸福に暮らせる社会ー共同体を生きる/エピローグ 男と女は平等かー人間を分割してしまうもの
【内容情報】「世の中おかしくなった」と誰もがいう。教育の荒廃、凶悪犯罪、環境破壊、金銭汚職…。ことあるごとに「誰かのせい」がはじまる。政治家が、役人が、教師が、そして会社が悪い。そうじゃない!あなた自身の見方・考え方がまちがっているのだ。「都市こそ進歩」「個性は心にある」「バリア・フリーの社会を」…。現代人のその価値観は、大きな錯覚である。本書では、「都市主義」「脳化社会」のゆがみを鋭く指摘。これまでの常識にしばられず、本質を見抜けるか。養老流の“逆さメガネ”を披露。
【内容情報2】*視野の上下が逆転する特殊なメガネがある。「逆さメガネ」だ。人間の知覚や認知を調べる実験道具で、このメガネをかけてしばらく慣らせば、普通に行動できるようになるという。それほど、人間の脳の適応力は大きいわけだが、この「逆さメガネ」をかけて世の中を、特に教育の世界をのぞいてみたのが本書だ。逆さメガネをかけるのは、『唯脳論』、『バカの壁』などで独自の知の地平を切り開く解剖学の第一人者、養老孟司である。/著者はいう。人間は刻々と変わっている。ところが、いまの社会は「変わらない私」を前提にしている。「変わらない私」と思い込むのは、いまの世の中の見方をそのまま受け入れているからだ。だから、世の中の大勢の見方と反対を見ることができる「逆さメガネ」をかけなければ、本当の姿は見えてこない、と。そして、人が変わらなくなった社会で、最も苦労しているのが子どもたちだと指摘する。なぜなら、子どもは一番速やかに変化する人たちだからである。そのことに気付かなければ、教育の本質を見失うことになる。/ではなぜ、私たちは「変わらない私」と思い込むようになったのか。原因は都市化社会にあった。都市的合理性、多数決による社会常識が、いつの間にか「逆さメガネ」になっていたのだ。著者は本書で、「あまり一つの見方でこり固まってしまうと危険だということです。ときどき、私のように『逆さメガネ』で見る視点を持ってくださいよ」とメッセージを送っている。(清水英孝)
*世間の常識は傾いているのに、それに気づかないことがある。著者は時々、世間を“逆さメガネ”で見ることが必要だとして、そのための見方、考え方のヒントを提供する。/現代の間違った常識の1つが「自分」のとらえ方。自分という確固とした実在があって、そこに知識が積み重なるという感覚があるが、生きて動く人間は、刻々と変わるもの。その感覚が消えたから教育はおかしくなった。/人が変わりゆくものならば、「個性」とは何かというと、体そのものだという。心には他人と通じる共通性が必要だ。「体は個性、心は共通」なのに、逆にとらえている人が多い。/「都市化」「脳化」社会の歪みを鋭く指摘しながら、1つの見方で凝り固まってしまう危険性を指摘する。