5月1日(金):
413ページ 所要時間8:40 古本市場86円
著者54歳(1958生まれ)。大阪府出身。
年齢、仕事、体力、視力、子育て、いろいろ重なって本を読む習慣の維持が難しくなってきている。しかし、本から遠ざかると座標のない状態で日々を生きている気分になり、気持ちが折れそうになる。最近は、一日で一冊を読み切ることを諦める代わりに、せめて一日に一時間は本と向き合おうと思って、それを続け始めている。そんな中で本書と出合った。
3日で読んだ。初日がいきなり3:45、昨日が2:00、今日が2:55、計8:40は最近では珍しい長い時間のかけ方である。暇ではなかった。連日遅くまで仕事に追われていたのに、長時間読書を重ねているのは当たり前ではない。俺にとって、これこそが「ナミヤ雑貨店の奇跡」である。
東野圭吾の作品は久しぶりだが、相変わらずというべきか、読みやすくて面白い、その気にさせてくれる作風だ。義務感で8時間以上かけて本を読むことはできない。本書の場合、「読まさせられた」というべきかもしれない。それなりの読み応えと読みやすさによって疲労を忘れて長時間読んでいたのだ。
楽しい読書が終わった時に感じたことは、「円環」という言葉と、「誰が主役かわからない」ということだった。大きな背景に浪矢雄治と皆月暁子の悲恋と所縁(ゆかり)がある物語りだが、皆月暁子が創設した児童養護施設「丸光園」に関わる人々を中心にしたさまざまな物語りが、浪矢雄治を店主とする「ナミヤ雑貨店」という地点を介して、数十年の時の隔たりを一足飛びに飛び越えて結び付けられる。いくつもの良い「円環」を形成し、最後は冒頭登場した「丸光園」出身のコソ泥3人組が、「ナミヤ雑貨店」を通じて、32年の時を超えて「丸光園」所縁の武藤晴美を人生の成功者(大金持ち)に導き、「丸光園」の危機を救うことになる。
主役は「ナミヤ雑貨店」という仕掛けである、と言ってしまえば、それだけかもしれない。しかし、腕の良い職人を思わせる著者のストーリー展開は常に達者で安定感があり、時に絶妙であり、表現を抑えて余韻を楽しみ、洒落た気分にもさせてくれる。(感想4は、当初は4+だったが、最後まで読み切って何となく4になった。面白くなかったのかといえば、既に述べたように非常に楽しい読書であった。作品のせいなのか、俺の読み取り能力のせいなのか、今はもうひとつわからない。次回読んだ時には、感想は上がるかもしれないが、4より下がることは絶対にない。)⇒やっぱり4+にします。
⇒一晩おいて、やっぱり5にします。(5月2日)
この作品がどんな映画作品になったのか、俺は録画を持っている。今は、主演の西田敏行も含めて映画視聴が楽しみである。ちなみに本書のアマゾンのレビュー数が398というのはただ事ではない数字である。俺の知らないところですごく盛り上がっている世界があったのを一つ見つけた感じである。こんな作品を読んでると、橋下徹やホリエモンのクズどもがキャンキャンうるさく鳴いてることの下らなさが落ち着いてわかる。ホッとする。
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分厚い便箋の束を丁寧に畳み直し、貴之は封筒に戻した。/「よかったな。親父のアドバイスは間違ってなかった」/雄治は、いやいやと首を振った。/「さっきもいっただろ。大事なことは、本人の心がけだ。わしの回答で誰かを不幸にしたんじゃないかと悩んでいたが、考えてみれば滑稽な話だ。わしのような平凡な爺さんの回答に、人の人生を左右する力なんぞあるわけがない。全くの取り越し苦労だった」/そんなことをいいながらも顔は嬉しそうだった。189ページ
【目次】第一章 回答は牛乳箱に /第二章 夜更けにハーモニカを /第三章 シビックで朝まで /第四章 黙祷はビートルズで /第五章 空の上から祈りを
【内容紹介】
あらゆる悩み相談に乗る不思議な雑貨店。そこに集う、人生最大の岐路に立った人たち。過去と現在を超えて温かな手紙交換がはじまる……張り巡らされた伏線が奇跡のように繋がり合う、心ふるわす物語。 ///
悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが…。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?