Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ヤンヤン 夏の想い出」エドワード・ヤン

2007-09-07 13:58:38 | cinema
ヤンヤン 夏の想い出 [DVD]

ポニーキャニオン

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A ONE AND A TWO
2000台湾/日本
監督・脚本:エドワード・ヤン
出演:ジョナサン・チャン、ケリー・リー、イッセー尾形、ウー・ニエンジェン、エイレン・チン


さきごろ亡くなったエドワード・ヤン(楊徳昌)の遺作(たぶん)を観る。

これは見事な映画という一言に尽き、どのような言葉もそのすばらしさを語りえないように思えてしまう。

とにかく表現や題材の引き出しの多さが尋常でなく、しかも繰り出すエピソードは全体にしっくりと溶け込んで、かつどこかで必ず発展し帰着を見る。この全体を制御する意志に感動するとともに、その意志が説話的でなくどこまでも映画的であることに驚きを感じるのです。

これはもう機会があったらぜひ観てみることをオススメするばかり。

******

儀式(結婚式)ではじまり儀式(葬式)で終わるというセンスも秀逸だし。
最後の儀式が導かれるそもそもの始まりが冒頭の儀式のなかにあったわけで、おばあちゃんの末期という物語が作品全体を一本貫いている。

が、しかし、それが作品の本筋というわけではない。
無数の物語が作品を貫いていて、どれにも中心となる特権を与えられていない。そのくせ手抜きがなく、起き上がったエピソードにはすべて発展と帰着がある。登場人物すべてに起承転結が、すなわち成長があるのだ。

村上春樹がよく「総合小説」というようなことを言うが、この映画も「総合映画」なのだと思う。
エピソードをひとつひとつ抜き出してじっくり味わいたいところであるが、とてもここで列挙することは出来ない。残念であるが、ともかく観るに若くは無しということで。

****

と、エピソードの非特権的充溢という点にのみ注目しても十分に魅力的なのだが、たとえば繰り返し現れる真っ赤なエレベータホールのアングルや、やはり繰り返しあらわれる室内の廊下を見通すアングルなどに、なんとも言いようのない映画的なセンスを感じるのです。(廊下の突き当たりにはおそらくボブ・ディランの写真が掛けてあったりするのもよし。)

隣家の少女が弾くチェロのチューニングする後姿、とか、イッセイ尾方の心地よい日本語訛りの英語、とか、熱海(たぶん)の夕暮れ朝方の非日常感、とか、脳裏にすっと入り込んで残る映像と音が心地よい。

彼らの日常が小市民的でありすぎるとか、いろいろと批判の観点はあるかもしれないが、少なくともある視点での生の全体をふわりと捉えた稀有な作品だと、わたしは思う。

*******************************

エドワード・ヤンという名は以前から気になっていたが、実際観るに踏み切るにあたって背中を押したのは、監督が亡くなったということもあるが、某所で蓮実○彦大先生に「未見の者は反省するように」とのお言葉をいただいたことが大きい。
どのようなバイアスがかかりどのような結果に陥ったとしても、蓮○先生の後ろについて行ってつまらないことはないというのが、経験的な教訓である。
ただしこの映画の謝辞に蓮実重彦の名前があったこともまた見逃せないことのであるけれども(笑)

***

余談だけれど、ヤンヤンがふと無邪気に発する哲学的な問い。(物事は表側しか見ることができないね、というような主旨だったと思う。後にラスト近くに思いがけなく彼が撮影する写真により答えが導かれる)
このエピソードは、村上龍「半島を出よ」でも北朝鮮女性兵士の幼少の頃のエピソードとして登場する。一種の儒教的世界観として通底しているのかもしれないな。

と同時に今読んでいるリサ・ランドール「ワープする宇宙」でも、われわれが3次元世界を認知するにあたって実は2次元世界しか認知していないという話が出てきていて、いや~、世の中なんかいい感じに繋がっていく。

***

あと、タイトルが・・・・
全然ヤンヤン(だけ)の物語ってわけじゃないのですのに・・
でも原題の直訳では日本語にならんしな・・・



語る言葉がないといいつつ長文になるワタシ・・

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2 コメント

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 (とらねこ)
2009-09-16 11:50:15
こんにちは、manimaniさん
パリ行きの準備は進んでますか?
念のため、雨具の準備と、正露丸と、歩きやすい靴は絶対忘れないようにしましょうね。
って私は親かw

本当、この作品に関しては、何をどう感想書いていいのか分かりませんでした。
本当に単純に一言で言うなら、「素晴らしい映画」としか言えません。
’00年の映画だと、なかなか感想を書いている方は少ないのでしょうね。
>監督が亡くなったということもあるが、某所で蓮実○彦大先生に「未見の者は反省するように」とのお言葉をいただいたことが大きい。
ごめんなさい、今頃見てしまいました。
ああ、反省することしきりです・・・。
見なければいけない映画が、どうしてこんなにあるのだろう。
返信する
 (manimani@NRT)
2009-09-16 14:28:23
☆とらねこさま☆
ネットには関わらんとかいいながら成田空港のネットカフェにいるmanimaniです^^;
この映画はほんとに「素晴らしい」のひとことでそれ以上のことばがありませんね。それでいいんだと思います。とらねこさんもこの映画を観たんだとおもうととてもうれしいです^^
蓮実氏の言う事をいちいち真に受けていると本物の映画狂になってしまい身を滅ぼすと思うので、ほどほどにいきましょう(笑)

ではまた。
返信する

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