「北斎とジャポニズム展」を見終わったあと、前庭のベンチでロダンの彫刻を見ながら一休みした。
そもそも、国立西洋美術館はル・コルビュジエ(1887-1965)の設計で1959年に竣工した(写真、前庭西からの眺め)。ル・コルビュジエはフランク・ロイド・ライト(1867-1959)、ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)とともに近代建築の巨匠として知られる。巨匠ル・コルビュジエの設計だから建設当時から話題になった。建築に興味を覚えて間もなく見学に行ったし、上野の森に行くたびに整った佇まいを眺めた。ル・コルビュジエが近代建築の5原則としてあげたピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面のすべては満たされていないが、5原則の片鱗はうかがえる。日本のモダニズム建築としての評価は高く、2007年に国の重要文化財に指定された。2016年には7カ国17資産で構成された「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献」の一つとして登録された。
もう一つの魅力は、前庭に展示されているオーギュスト・ロダン(1840-1917)の作品である。「地獄の門」「考える人」「カレーの市民」はいずれも教科書で学んだ記憶がある。
前庭西に展示された「カレーの市民」は、フランスとイングランドとのあいだの王位継承を巡る百年戦争(1337-1453)時の1347年、フランスの重要港であるカレーがおよそ1年にわたりイングランド軍に包囲され、町の有力指導者6人が死を覚悟して敗北を認めた光景の群像で、1888に完成したロダンの代表先の一つである。12体が鋳造され、その一つが西洋美術館前庭に展示されている。衣服はぼろぼろでやせ衰えているが、誇りを失わないカレーの市民の気高さが感じられる。
前庭東に威容を誇る「地獄の門」もロダンの代表作である(写真)。名前からもフィレンツェ出身・ダンテ・アリギエーリ(1265-1321)の代表作「神曲」を主題にしていることが推測できる。神曲は地獄編、煉獄編、天国編で構成されるから、ロダンは地獄の門に続いて煉獄の門?、天国の門?も構想したのかも知れない。1880年、パリの装飾美術館の入口の門扉を依頼され、試作を続けるうち、解説によれば、・・ダンテの神学的秩序は失われ次第に渾沌たる世界に変わっていき・・ダンテに取材したモチーフは「パオロとフランチェスカ」と「ウゴリーノと息子たち」の2つに限られ・・タンパンの中央に坐って墜ち行く人々を凝視する男は「考える人」に変わり・・門の頂に立つ「三つの影」はアダムに由来し・・夕ンパンの右端に「立てるフォーネス」と「瞑想」、左手に「オルフェウスとマイナスたち」のマイナス・・右扉の下部に「フギット・アモール」、左扉中央に「ネレイスたち」、左の付け柱に浮彫「美しかりオーミエール」、その柱の上に「うちひしがれたカリティード」、右の付け柱の上部に「私は美しい」の浮彫があり、この二人の男女を離したものが「考える人」の左の「うずくまる女」と左扉の上部から身をのけぞらせる男・・だそうだ。解説を読んでも実物の「地獄の門」の全容を把握しにくいほど、高さ5.4m、幅3.9m、厚み1mの躍動的な浮き彫りは鑑賞者を圧倒する。
ロダンの助手の一人にカミーユ・クローデル(1864-1943)がいる。才能にあふれた彫刻家でロダンの愛人になったが、破局を迎え、精神を患ってしまった。一説には、地獄の門もカミーユ・クローデルの力が大きいそうだ。地獄の門にはカミーユ・クローデルの怨念が刻まれているかも知れない?。それほどの迫力を感じる。
原型のが完成は1917年・・ロダンの死によって終了?・・だが、鋳造は1930年代になってからで、現在世界に7つの「地獄の門」が展示されている。その一つが前庭の展示になる。
「考える人」は「地獄の門」の上部に飾られているが、1904年に拡大され、独立して展示されるようになった。世界に26体あるそうで、その一つが西洋美術館前庭の西側に展示されている。独立した展示としても、思索にふける?、悩み抜いている?その思いの深さを感じる。
名作を鑑賞しながらの一息で、気分は爽快である。オープンカフェがしつらえられているともっとくつろげると思う、贅沢な希望かな。
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