goo blog サービス終了のお知らせ 
goo

銀行との賢い付き合い方を一言で言えば、

詳しくは、二週間くらい先に出る、「週刊ダイヤモンド」の連載コラム(「マネー経済の歩き方」)を読んでいただきたいと思いますが、個人にとって、銀行との賢い付き合い方を一言で言うと、「銀行は、なるべく銀行員と接触しないように利用する」ということに集約されると思います。

通常の銀行でも、最近のネット・バンキングの充実は素晴らしく、口座に関する照会も、振り込みや、公共料金の支払いなども、ネットで出来ます。多くのサービスは24時間対応で、しかも、手数料が安く、待ち時間もありません。しかも、銀行員に、投資信託や個人年金保険のような手数料の高い商品(向こうが儲かる商品=こちらが損な商品!)を勧められる危険もありません。

なお、銀行の窓口で扱っている投資商品で、「まあまあ、これなら許せる。リーズナブルだ」と言えるような商品は、現在、個人向け国債(10年物)を唯一の例外として、一つも無い、といっていいと思います。銀行は、決済に使うべきもので、決して運用に使ってはいけない、というのが、私の結論です。

これまで投資信託の銀行窓販に、私は賛成でしたが、最近の銀行の何とも強引なセールスぶりを知ると、まだ基本的な意見を変えたわけではありませんが、これで良かったのか、少なからぬ疑問を感じます。

結局、カモられる顧客の側の自己責任の問題ではありますし、「貯蓄から、投資へ」という大きな流れを進めるためには、顧客たちが、それなりに大きな授業料を払わなければならないのかも知れませんが、顧客の側には、もう少し効率的に賢くなって欲しい、と思わずにはいられません。
コメント ( 24 ) | Trackback ( 0 )

「最後っ屁、利上げ?」の後の個人のマネー行動

本日の朝日新聞・朝刊は、一面トップで、14日に日銀がゼロ金利政策を解除すると報じている。13日、14日に開かれる政策決定会合の前だから、なぜ今、確信を持って報じられるのか、という問題が少々あるが、たとえば委員の多数に取材して「解除適切」との判断を得たということだろうか。

私は、そもそも新しく作る「適切な内規」に反するような判断を行った男が日銀総裁の地位に留まるべきでないと思っているので、ゼロ金利を解除して、これを花道として、福井総裁が辞任するという、「最後っ屁、利上げ」を最もありそうなシナリオと考えている。まあ、「最後っ屁」になるかどうかは分からないが、天下の朝日新聞がゼロ金利解除と言うのだから、ゼロ金利解除後の、個人のマネー行動について簡単に整理しておこう。

まず、預貯金についてだが、実は、デフレ&ゼロ金利の時代は、普通預金が総合的・相対的に見て非常に得な運用だった。長期国債金利とのスプレッドをベースに考えると、インフレ率と共に金利全体が低下したときに、超流動的な短期の金利は、マイナスでも良かったはずだが、ゼロが下限となっていた。デフレが続くなら、ここで長期の債券がいいのだが、そうではなさそうだ、という昨年くらいまでの時期では、金利上昇リスクも負わず、物価を考えると、実質的にはプラスの運用が出来る普通預金は、実は、かなりお得な運用対象だった。

ゼロ金利が解除されても、たぶん政策金利は0.25%で、低水準の政策金利を続けるというメッセージが付加されるだろう。それでも、0.25%が0.5%に上昇するかもしれないという観測は、今年の後半にも絶えず浮上するだろうから、長期金利は上昇する可能性の方が大きいし、趨勢的に上昇方向だろう。現在の1.9%~2%の長期国債利回りは、市場解説風に言うと「ゼロ金利解除と0.25%の政策金利を相当に織り込んだ」状態だろうから、ゼロ金利解除で、長期金利が直ちに大幅に上昇するとは思えないが、金利の大勢的な方向は上昇だろうから、長期国債をはじめとする固定利付きの債券や解約にペナルティーが付くような定期預金は、得な運用対象ではない。個人向け国債の5年型も今ひとつだ。

また、住宅ローン金利は、中期・長期の金利に連動することが多いから、変動金利型の住宅ローンは将来の金利上昇リスクを抱え込むことになるので、止めておきたい。5年後、10年後というのは、予想の付きにくい世界だが、一つのケースとして、日本のインフレ率や金利がドルやユーロに徐々に近づいてゆくようなイメージを持つことが可能だ。そもそも、住宅ローンを背負って住宅を購入するという行為自体がオススメできないが、やむを得ず住宅ローンを持つ人は、なるべく固定金利にしておくべきだろう。

長期金利はやや上昇傾向・上昇リスクあり、という判断であれば、貯蓄用にベストに近い金融商品は個人向け国債の10年型になるだろう。半年おきの変動金利で、長期国債利回り-0.8%という利息の決まり方は、「民業圧迫で反則!」といいたいくらい好条件である。理論的には「証券市場線の上」にあるかも知れない、超有利な条件だ。リスクを取った投資ではなく、貯蓄を主体に考えるなら、何はともあれ、個人向け国債だ。

なお、個人向け国債をどこで買うかだが、私が勤める楽天証券(個人向け国債を扱っていない)ではないのが残念だが、ネット証券では、個人向け国債を取り扱っており、しかも、商品券で手数料の一部(国から購入額の0.5%が販売者に払われる)を顧客還元してくれる会社がある。

来週月曜日に配信予定のJMMの原稿にも書いたが、ここのところ、銀行の投資商品(いずれも手数料の高い、投資信託や個人年金保険)販売の強引さには、顧客の立場に立つと「危険」をすら感じるので、一案として、銀行に預けてあるお金の長期貯蓄部分は、ネット証券で個人向け国債にしてしまうことをオススメしたい。

リスクを取った投資としては、相対的には、最近株価が下がったことでもあり、国内株式が「まあまあ」なのだが、これから長期金利が上昇する公算が大きく、米国の金融引き締めが効いてきて景気がスローダウンするリスクもあり、「今こそ、株式投資だ!」と言うのは、株式投資が好きで、近年個人投資家に勧めてきた私でも、さすがに、筋が良くないというべきだろう。いつが良いタイミングだと自信を持って言える局面は少ないので、結局、長期にわたって投資して貰うよりないのだが、今は、「特に、積極的」にはなりにくいと理解しておくべきだろう。

また、外貨預金は、そもそも、金融商品として「最低」に近いダメ商品(為替の手数料が大きすぎる)だが、内外の金利差がこれから縮む可能性があるとすると、やはり止めておく方がいい。

さらに、これまで利回りが良かったREITは、もともと胡散臭いところのある商品だが(結局、不動産屋が、自分では持ちたくない程度の在庫整理用に立ち上げたのではないか・・)、金利の上昇は、REIT自身の借り入れコスト増大、不動産価格へのマイナス要因、他の金融商品(たとえば国債)とREITとの利回り格差が不利に動く、ということを通じて、「三重苦」に陥る商品なので、止めておく方がいい。

結局、金融が引き締め方向に動き、長期金利が上昇するような環境は、大まかにいえば、安全資産の相対的魅力度が高まり、また、投資に向かうマネーは縮小方向に変化するのだから、リスクを取った商品への投資にとって適した環境ではない。

まだミニバブル気分から抜け出ていない人は、要注意だ。
コメント ( 22 ) | Trackback ( 0 )

福井総裁の年金

福井総裁の年金が昨年778万円あったことが話題になっている。資産を公開し、さらに収入の明細まで説明し、と些か気の毒な気もしなくはないが、これはなかなか大した年金だ。

日銀の年金は、厚生年金基金や確定拠出年金といった企業が通常導入しているものとは異なる独自の自社年金のようだ。そして、福井総裁の場合、厚生年金の支給額(国民年金分を含む)に加えて、日銀独自の加算部分(いわゆる「三階部分」であり通常の会社では企業独自の加算部分に相当)が300万円以上ある。しかも、これが終身続くというのだから、かなり手厚い。

また、ここが面白いところなのだが、この企業年金は、本人の給与から積み立てて運用するような通常の年金ではなく、人件費として、日銀が支出しているものだという。新聞によると、その理由がふるっていて、日銀は「中央銀行が、巨額資金を株式市場などで運用するわけにはいかない」と説明している。日銀にも、多少の常識はあるようだ。

もちろん、金利その他に関する重要情報を持つ日銀が、株式などで自分たちの年金を運用することはマズイ。これは当然だ。しかし、日銀マンの中でも、とりわけ豊富で早い情報を持ち、自分の発言のニュアンスで市場に影響を与えることさえ出来る福井総裁は、個人として株式や投資信託で少なからぬお金を運用していたということなのだ。

これは、笑える事態ではないか。もっとも、マジメな日銀マンは、福井氏に呆れて、且つ怒っているだろう。普通の会社なら、匿名のインタビューなどで怒りの声が報じられるところだが、そうした声が外に出てこないのが、いかにも日銀らしい。

福井総裁は、事ここに至るも、「職責を全う」するという態度を変えていない。「世間を騒がせた」事は結果的に悪いが、自分自身は悪くない、と本当に思っているのだろう。人間は、自分に都合のいい理解を持つ動物だ。

現在の日銀法では、法令違反でもない限り、政府が総裁をクビにすることは難しいとの見解が新聞などには出ている。確かに、ルール上はそういうことだが、しかし、このまま行くと、2月の村上ファンド解約の運用行為(レッドカード相当だろう)に関して、なぜそのような行動を起こしたかの経緯がリークされれば、さすがに、もう保たないだろう。村上氏やオリックス方面からの情報なのか、捜査当局・政府方面からの情報だったのか、相場判断だったのか、何れでもまずいが、検察を含めた政府は、何らかの情報を持っている公算が大きい。つまり、政府は、福井総裁を辞めさせるスイッチを持っていると考えるべきだろう。

なお、大した株数ではなかったが、奥様が持っていた株が阪神電鉄と高島屋という"村上好み"のものであったこともかなり面白い。ヒラの職員なら、クビとか降格ではなかろうか。もちろん、民間の金融機関や証券会社でもそうなる。

さて、現在、「政府の圧力を受けてゼロ金利解除が出来ない」という説と、「日銀の独立性を示す必要があるので、ゼロ金利解除は早期に行わざるを得なくなった」という説と、二説あるようだが、今後、日銀が何をやってもクリーンには見えないということは不幸だ。敢えて、今後を予想すれば、7月に「最後っ屁利上げ」を行って、これを花道(?)に福井氏が辞任する、というようなことか。
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )

福井総裁の資産公開を見て

福井日銀総裁が、自身の金融資産と収入について追加的な情報を公開した(あるいは、公開に追い込まれたというべきか)。

「村上ファンドの利益は寄付」→「元本も含めて寄付」→「寄付に加えて3割×半年の減給」→さらに資産も公開と、あたかも政策金利を小刻みに引き下げるがごとき、ご本人の小出しの対策の拙さにも大きな責任があるとは思うが、何とも下手な応対だ。だが、公開された内容は、なかなか興味深かった。

公表された情報によると、福井総裁の金融資産は、奥様(阪神株などを含む約5千万円)と合わせて約3億5千万円だった。不動産を含まない金融資産だけで、平均的なサラリーマンの生涯年収くらいの金融資産がある、ということだ。資産をお持ちのこと自体は、それだけでは別段悪くないのだが、世間から一層の反感を買うのではないかと想像される。

どこかの週刊誌の見出しで、福井氏のこれまでを、「ごっつぁん人生」と形容したものがあったが、これまでの厚遇振り、さらには、飲食費を始めとして多くの費用に関して、ご本人が負担せずに済んだ、「プリンス」ぶりが、このような資産形成を可能にしたのか、とも思われ、「こんなものか」とも思うが、世間的にはいかにも同情しにくい。

尚、現段階で、私の意見は、福井氏は、(1)総裁就任後も株式や投信等の資産を自分で運用していた、(2)特にこの2月の村上ファンド解約はインサイダー情報を持った人物の運用行為だ、(3)収益分配金の報告などに嘘があった、というこれまでの事実だけで、十分辞任に値するし、この問題がこれだけ政治問題化したので、彼の留任は、日銀の金融政策の独立性と信頼性にとってもマイナスだ、というものだ。

本来、彼がお金持ちであること自体は、何ら問題にされるべきことではない!

ただし、この資産の中で、投信、ファンド、株式の合計が、時価の合計で現在、9千万円(普通の世帯の貯蓄の4倍くらいだ)を超えるような状況(数字は何れも、27日段階のNews GyaO調べ)は、前記の(1)が、無視し得ない規模であったことを意味していると思う。金融政策を客観的に決めなければならない立場と、自身の個人資産の運用の利害との間の「利益相反」が無視し得ない大きさだった、と思わざるを得ない。福井氏が、なぜ、自分の場合は拙くないと思ったのか、全く不思議だ。「ごっつぁん」だけでなくて「ゆるふん」でもあったのか。

また、その他に、昨年、年金として7百数十万円の収入を得ていたことが、明らかになった。この中の約300万円は、ご本人の積み立てによるものではなく、日銀の経費として支払われる形の、年金としては「三階部分」なのだそうだ。何と、ゴージャスな! これは、「日銀の過剰な厚遇」として問題にされそう内容であり、場合によっては、福井氏は今回、彼の後輩たちの年金の条件が下方改訂されるきっかけを作ったかも知れない(どちらにも同情はしないが)。

「国民にはゼロ金利を強いていたのに、本人は儲けていた(あるいは、そこそこにお金持ちだった)」という低級メディア好みのストーリーは、本質(あるいは真の急所)から外れているので、これを日銀総裁の辞任の理由にすることは、本来好ましくないと思うが、さりとて、ことここに至ると、福井氏が辞任しないと、今後の金融政策に無用の憶測を呼ぶことになった。つまり、今後ゼロ金利政策をどうしたとしても、「政府に借りがあるからゼロ金利解除を先送りしたのか」あるいは「政府への借り、と言われたくないから、意地になって、早期にゼロ金利を解除したのか」と言われる。これは、日銀の信頼と独立性の両方を損なう事態である。

福井氏以外に日銀に金融政策が分かる人物がいない、ということではあるまい(福井氏も含めて、誰もいない、という厳しい意見もあり得るが・・)。世間やメディアの反応もほめられたものばかりではないが、それ以上に、福井氏の行動と、加えてその後の対処は拙かった。やはり、辞任されるのが良いのではないかと思うが、さて、どうなるだろうか。

尚、問題発生の当初、恥ずかしながら、私は、事態の本質を直ぐには見抜けなかった。同僚との話で、私は「辞任には至らないだろう」と予想し、我が同僚は「たぶん辞任せざるを得ないでしょう」と予想した。福井氏が辞任した場合、私は、かなり高い酒を同僚に奢らなければならないのだが、ここまでの事情が分かると、そうなった場合には、喜んで特別に美味しい酒を選ぶ(私も一緒に飲む)所存である。
コメント ( 12 ) | Trackback ( 0 )

成功/失敗と投資のヤル気

脳学者のアントニオ・ダマシオを含む数人の"Investment Behavior and the Dark Side of Emotion"という論文を読んでいて、面白いデータを見つけた。

この論文は、「感情」が投資の意志決定にどう影響しているか、脳科学の方面から調べてみたもので、(A)脳の器質的損傷(脳腫瘍や卒中などによる)で感情の反応に関わる障害を持っている患者、(B)健常人、(C)比較対象のための(A)以外の脳に障害のある患者、の三グループに対して、期待値+25%の賭を20回やらせてみたものだ。20ドル配って、一回に1ドル、20回の賭に参加(investと表現されている)するかどうかが問われる。当然のことながら、20回全てに参加すると期待値が高い。結果は、各グループの終了時点での富の平均が、(A)25.70ドル、(B)23.40ドル、(C)20.07ドルだった。感情の影響を受けない患者さんたちは、高い率で賭に参加し続けて富を増やしたのだ。

例の設定の仕方が「歴史的に株式の方が債券よりもリターンが高いのに、債券・預金を好む人が結構多いのはなぜか」→「投資教育で変えてやらねば」、というような、米国の運用業界的な押しつけがましさを感じるが、面白い結果ではある。

さて、私が興味を持ったのは、この最終結果もさることながら、賭の前回の結果(勝ち・負け・不参加)の後に、彼らがどう行動したかだった。論文に載っている表の数字を拾うと以下の通りだ。表の数字は、次の賭に参加した割合だ。

前回    (A)感情障害患者  (B)健常人  (C)感情障害以外の脳障害患者
-------------------------------------
投資せず    74.2%     70.2%  63.4%
投資&負け   85.2%     46.9%  37.1%
投資&勝ち   84.0%     61.4%  75%

この結果で面白いのは、健常人が、投資して勝った次には61.4%次の賭に参加するのに対して、投資して負けた次には46.9%しか参加しなくなることだ。負けた後は、勝った後に対して、「意欲」といっていいのかどうか分からないが、ともかくヤル気が23.6%ほど落ちるのだ。

これは、投資として解釈すると、「順バリの心地よさ」、「前年のリターンがマイナスだとリスク拒否度が上がる」、などと解釈することが出来るかも知れないし、それを利用すると幾らか有利な投資が出来るかも知れない、といった現象につながっているのかも知れない。

ただ、何れにせよ、トライして負けると23.6%ほどヤル気が落ちるという現象は面白い。
コメント ( 17 ) | Trackback ( 0 )

ファンドマネージャーの、自分のファンドへの投資

福井総裁の村上ファンド問題に関連して、利益相反について考えていたら、トーレスさんという方から、ファンドマネジャーが自分のファンドに投資するのは、どうなのか、という質問を頂きました。

先ず、私自身に関する事実から報告しておきますと、まだ二十代の頃、野村投信という会社に勤めていてファンドマネジャーをやっていた時代に、自分の運用するファンドを十万円ほど買ったことがあります。当時は、「少額とはいえ、自分のお金を投資して、ファンドの受益者と共通の利害を持つ、麗しい行為だ!」と思っておりました。若気のいたりでありますが、そんなことがありました。

現時点での、私の意見は、「ファンドマネジャーは他人お金を運用するプロに徹するべきであり、運用に、自分の個人的利害が絡むようなことは避けなければならない」というものです。

たとえば、私が投信のファンドマネジャーだとして、自分の資産の8割を自分が運用する株式ファンドに投資したとしましょう。この場合、たとえば、運用が好調であれば、「相場が悪くなると困るから、少し組み入れ率を落としておきたい」と自分の懐具合との兼ね合いで考えないという保証はありません。投資家の利害と、自分の利害とが対立することはあり得ます。仮に、ここで、自分の資産の8割が3割ならいいのかというと、対外的にそれを証明することは不可能です。やっぱり、自分のお金は混ぜるべきではありません。

ところで、成功報酬付きのヘッジファンドのようなものの場合、「私もリスクを取っていますよ!だから真剣に運用しますよ!!」というデモンストレーションのために、自己資金がファンドに含まれていることを強調するマーケティング手法がありますが、ハッキリ言って、こんな子供だましに感心するような顧客は、ヘッジファンドのいいカモです。

成功報酬付きヘッジファンドは、成功報酬というオプション価値を顧客から半ば只取りする、限りなく金融詐欺に近い、運用者側にとって"美味しい商品"ですが、そこまでやるかどうかはケースバイケースですが、このオプション価値だけを確実に実現しようとすると、自分が負っているファンドのリスクに関して、ファンドの外にポジションを作ってヘッジすればいいのであって、いわば「自分でボラティリティーを拡大することのできるコールオプション」である成功報酬のオプション価値を実現することは難しくありません。

そういえば、かつて英国系の運用会社に勤めていたときに、ロンドンに出張して、私の教育係の英国人(仮にZ氏としておきましょう)と議論したことがあります。Z氏は親切な紳士で、この会社の社員が個人的に買っている株式など(一応、家族分も含めて報告が必要になっいた)の投資リストを見せてくれました。

以下二人の会話です。
Z氏「ウチの社長は、このリストをよく見ていて、自分の投資でも儲けているようなファンドマネジャーこそ、客を儲けさせることが出来るファンドマネジャーだと常々言っている。個人投資にこそ実力が現れるからねえ」
山崎「私のディフィニション(定義)では、他人のカネを運用するのがプロのファンドマネジャーで、一緒に自分のカネを運用しているような奴はアマチュアだと思って軽蔑して(look down)います」
Z氏「なんで?いい株を見つけたら、自分よりも前にファンドで買って、ファンドで売ってから自分の持ち株を売るなら、何の問題もないじゃないの」
山崎「では、たとえば車を買いたいと思って、自分の持ち株を売りたいとすれば、ファンドとしてはまだ持っていた方がいい場合でも、ファンドの株を売ることになるのですか。コンフリクトがない、と思っているのは、鈍感なだけでしょう」
Z氏「なるほど、一つの意見だね」

ファンドマネジャーは、自分のファンドに投資しない方がいいでしょうし、「手張り」(=自分でする投資のこと)はしない法がいいというのが、私の結論です。疑われる余地のない身ぎれいさが必要な職業だと思います(もちろん、日銀総裁も・・)。

そういえば、全くの余談ですが、先のZ氏は親切な人で、私には気づかない重要なアドバイスをくれました。私が出張でロンドンにいた当時、たしか、サッカーのヨーロッパ選手権をやっていたのですが、オフィスでこの話題を出したところ、Z氏は、後でひっそりと、「ミスター・ヤマザキ、フットボールの話はオフィスではしない方がいいよ。我々も関心がないわけではないのだけれども、フットボールは、ロウワー・クラスの娯楽だから、我々のような会社の中で話題にすることは、君にとって得ではない」と教えてくれました。
コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )

福井日銀総裁はどうするべきなのか?

福井日銀総裁が村上ファンドに運用資金1000万円を、村上ファンドのスタート時である、2001年から、預けていたことが判明した。これに対して、違法でもないし日銀の内規にも反していないからいいのではないか、という意見と、あの村上ファンドをバックアップして育ててきた道義的責任を取って日銀総裁を辞するべきであるという意見とが出ている。

まず、彼が、少なくとも日銀総裁になった時点で村上ファンドとの関係を清算しておかなかった点は、完全に自覚が足りない。金融政策に関わる立場で、ファンドになら投資していてもいい、という日銀の内規(ほんとかね?)があるとすれば、これ自体が、日銀が金融政策に関わっているという自覚を欠いている。

今回の件に今後解決しなければならない問題があるとすれば、この点だろう。日銀にも内部管理体制その他の厳しい検査が必要かも知れない。福井氏は「1000万は、私にとってはした金だから、意志決定には影響しない」と言いたいのかも知れないが、では、日銀の幹部が1億円、何らかのファンドに(投資信託でも)投資していたら、どうなのか。10億円ならどうなのか。それは彼の仕事の方向性に影響しないとは言えまい。

今回、「あなたは、自分の投資しているファンドが儲かるように、金融緩和を続けたのですか?」と問われる余地があるということは、彼が、利益相反を問われる立場にあったということだ。この点、福井総裁は情けないくらい自覚が乏しいし、勘が鈍い。あまり利口な人ではないのかも知れない。

処世の常識というレベルまで考えると、将来、日銀総裁のポストまで狙おうかという男は(女も)、有象無象を身辺に近づけるべきではないし、特定企業の広告塔のようなことには関わらない方がいいし、お金の問題はきれいにしておくべきだ。福井氏は、たぶん、世間的には「脇が甘い男」なのだろう。

尚、たとえば、役人はファンドや株に投資すべきでないと言うと、「株式や投資のことを悪者扱いするのはけしからん」と妙な議論をする人もいるが、ここでの大きな問題は利益相反であって、株式や投資のイメージの次元の問題ではない。市場に影響する仕事(ファンドマネジャーも、法律を作る役人も)に関わる人間は、やはり、自分の仕事に関わりのある商品には投資すべきではないと思う。

では、村上ファンド事件の責任を、福井氏が取るべきかというと、それも違うだろう。村上氏の当初の意図に賛同して、運用資金を預けるくらいのことは個人として許されることだろう。福井氏は、少なくとも、インサイダー問題が起こったその最中に村上ファンドに役員を出していたオリックスほどには悪くない。

ただし、ニッポン放送株をめぐる村上ファンドのインサイダー取引(実質的には、自分から仕組んだ、「積極的インサイダー取引」)が露見した以上、少なくとも、これによって得た利益は「不当な利益」である。泥棒に出資して分け前にあずかっていれば、自分で泥棒していないなくても、何らかの責任はある。「その時は、分からなかった」という言い訳はあるとしても、「分かってしまってからどうするの?」という問いは消えない。

この「不当な利益」をどうするか、という点については、福井氏個人の判断が問われる。いわば彼の器量が問われるのである。

たとえば、(1)2004年度分以降にファンドから得た利益の不当利益相当分か、(2)2004年度以降のファンドからの利益の全額(税前・税引き後、二種類あり)か、これを反省を込めて寄付するといった選択はいかがなものか。どのくらいケチなのか、そうでないのかまで晒して、不当利益と縁を切るのだ。個人のお金なので、株主代表訴訟の心配もなく、安心して寄付できるはずだ。

あるいは、先手を打って利益相反の分まで猛省するなら、(3)日銀総裁就任後の利益を全額寄付してもいいし、男らしくやるなら、「このお金は、今度こそ正しい志に使われて欲しい」とでもいって、解約で戻ってくるお金の全てを、地震の被災者とか、アフリカの貧しい子供にでも寄付する手もある。

「個人の行動として、村上ファンドに投資したことは悪くないと今でも思う。しかし、日銀総裁就任から後については、自覚が足りませんでした。まことに申し訳ありません」と素直に謝って、投資したお金を全額寄付すると表明してみる。それでも許されないようだったら、よほど国民的人望がないのだから、本当に身を引くことを考えてもいいのではなかろうか。

尚、野党・民主党は、村上ファンドとの関わりをもって福井総裁の辞任を求めているようだが、そこまで迫るには、総裁就任後にも村上ファンドをバックアップしたというような具体的事実が必要だろう。それ無しに、道義的責任の問うのは、やり過ぎだろうし、方向がずれている。かえって民主党が変に見えるのではないだろうか。責任を問うべきは、たとえば規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦氏のようなもう少し明白に悪い人の方だろう。

<補足>
実は、14日の午後にあるマスコミ関係者からこの件で取材を受けたが、その時には、利益相反のポイントに気づいていなかった。この点は、投資対象が村上ファンドであることとは関係なく、大きな問題だ。日銀の内規とやらにも問題がある。

「この点に直ぐに気づかず、申し訳ありませんでした!」。この場を借りて謝って置きます。

コメント ( 46 ) | Trackback ( 0 )

村上ファンドとオリックスその他の責任

今週号のJMMに村上世彰氏に対する批判と共に、村上ファンドの出資者の責任について書いたところ、ある雑誌から取材があった。オリックス社の責任、宮内義彦氏の責任について、引用できるコメントが欲しくて、電話を掛けてきたようだ。

オリックス及び同社の宮内義彦氏の責任に関しては、是々非々で考えねばならないと思うが、少なくとも、ニッポン放送株を巡る村上ファンドの手口については、村上ファンドの出資者であり、役員を派遣していたオリックスは、詳しく知りうる立場にあっただろうし、その時に知らなくても、その後に詳しい経緯を知ってどう判断するか、という問題がある。オリックス社が資本提携を解消し、役員を引き上げたのは、村上氏逮捕の少し前だから、もちろん、事件当時には、同社は村上ファンドに深く関与していた。

いくらか判断に迷う点はあるのだが(法律を詳しく知らないので小さな躊躇がある、という程度の迷いだ)、村上ファンドが不当な利益を得ていたとすると、ファンドの運用資金の出資者も責任ゼロではない、と私は考える。直接自分で盗みを働かなくても、泥棒にカネを渡して、盗品から利益を受け取っていれば、責任がないということはない。少なくとも、オリックスや農林中金など、ファンドに資金を預けていた会社は、その応分の不当利益について、どう考え、どう処分するつもりなのか、事実と立場を明らかにすべきだろう。

不当な利益の処置については、たとえば寄付というような考え方もあるだろうし、あるいは、株主から預かっているお金なので、寄付など出来ない、しかし、道義的には申し訳ない、といった言い分もあり得よう。頭ごなしに「君らは悪いから、謝罪し、不当利益を返還せよ」と言いたいわけではない。公企業なら、立場を明らかにせよ、と言いたいだけだ。付け加えて言っておくと、企業の損得の立場だけを理由に口をつぐむ経営者は、「人間」より下等な、「組織人」という動物にすぎない。

なお、お金を預けている主体が、「運用の内容を知らなかった」という言い訳は通用しない筈だ。たとえば、農林中金であれば彼らなりに、投資先の運用内容を把握して資産運用を行っている建前だし、海外の大学の基金や、年金基金なども同様だ。年金基金が、運用内容を把握していないと言うのであれば、これは受託者責任違反である。

今回の件に関して、オリックスの宮内義彦氏が「コメントすべき立場にない」と言って口をつぐんでいるのは全くおかしい。彼こそ、真っ先にコメントしなければならない人物であり、こういう態度の人物が、公職に居るのはいかがなものか。反省を述べて、辞職するのが筋だろうが、自分の倫理観まで緩和してしまったのかも知れない。はっきり言って、身勝手・無責任な、卑しい人物だと思う。

取材の電話を掛けてきた記者は、オリックス及び宮内義彦氏が村上ファンドをいわば別働隊として育てたてきたことや、昭栄のTOBの資金を用意したこと、また、村上ファンドの投資銘柄の中に規制緩和でメリットを受ける銘柄が入っており、宮内→村上ファンドという規制緩和に関するインサイダー情報の流れがあるのではないか、これらも問題ではないか、と訊いてきた。

確かに、オリックスの宮内氏は、規制緩和の旗振り役をやりながら、自らがそのメリットを享受してきたような、危うい位置にいた。ただし、規制緩和自体が悪かったのかと言えば、そういうことではないし、村上ファンドにしても、初期の昭栄や東京スタイルなどへの投資では、他の主体の買いを煽って売り抜けたりしたわけではないから、この時点では悪事の側に落ちてはいないと思う。これらは是々非々で判断すべきだろうし、「村上が関わったものは全て悪い」といった議論にしない方がいいと思う。

また規制緩和関連のインサイダー情報に関しては、是非を判断できるだけの情報を持っていないので、可能性として興味深いが、残念ながら私はコメントは出来ない。ただ、村上ファンドに限らず、ヘッジファンドなども、政府筋の情報を取ろうとすることはあるし、こうした情報を仲介するブローカー的官僚OBが居たり、現実に政府の情報が流れたりすることはあるようだから、この種の情報のインサイダー取引に対しても厳しい目が向けられるのはいいことだ。

尚、ニッポン放送株をめぐる村上ファンドの一連の行動について、自分が先に見つけたいい物を、高く売ろうとすることのどこが悪いのか、という議論もあるが、2004年の秋以降に買っているニッポン放送株の数%は、ファンドが既にニッポン放送株を大量に保有している状態であり、よほど有望だという追加情報があるのでない限り、買えない状況だし、彼らは、ライブドアにだけ肩代わりさせたわけではなく、ライブドアの買い占めに反応した市場に(買った人はあまり賢くないとは思うが)向かっても売り抜けたわけだから、いわば自分でインサイダー情報を作り出して、それを活用した、「積極的インサイダー取引」とでもいうべき悪事を構成していたのだろうと思う。

見方を変えると、株を買い集めた仕手筋が、お調子者をたぶらかして筋書きに乗せて、持ち株を高く売り抜いた、という古典的な悪事だが、市場にあっては全体として悪事であることは確かだろう。

市場に関わっていると(特にマネーゲームで頭が熱くなると)、儲けるためなら何としてでも、と思いがちだが、「市場」というものは、かなり慎重に丁重に扱わなければならないデリケートな公共財だと認識すべきなのだろう。反市場主義者からの、市場で稼ぐ奴は努力をしていないとか、拝金主義だとか、市場には倫理がない、だのといった不当な批判を封じるためにも、「市場」はきれいに保たなければならない。
コメント ( 15 ) | Trackback ( 0 )

村上世彰氏無罪説の論点など

今日、「News GyaO」に雑誌「AERA」の記者で「ヒルズ黙示録」の著者である大鹿靖明記者がゲストとして出演した。ご覧になった方は理解されたと思うが、彼は、検察が村上世彰氏を裁判で有罪にするのは難しいかも知れないというストーリーを紹介してくれた。

議論の大筋は、こうだ。
(1)11月8日時点で、宮内被告から「ライブドアはニッポン放送を買いたいと思っている」という話を村上氏が聞いたのは確かで、彼も調書にサインしたと言っているが、これは、資金の調達も、株を売ってくれる相手の目処もない時点の話であり、この段階でライブドアの方針が決定していたとはとても言えない。
(2)ライブドアがニッポン放送大量取得を決めて村上氏に株の調達について相談したのは翌年の1月28日で、インサイダー情報が発生したのはこの時点であって、これ以後、村上ファンドはニッポン放送の株を買っていない。
従って、裁判で村上氏をインサイダー取引で有罪にするのは難しいのではないか、というものだ。

ちなみに、(2)の論点については、6日に、自宅付近でつかまったテレ朝のインタビューで、熊谷被告が、村上氏は1月28日までインサイダーの認識はなかった筈だし、自分が村上氏であっても、この日の前までは株を買っただろう、と答えているという(GyaOのスタッフの話)。これは、今後の裁判で、検察にとって痛手になるかも知れない。

つまり、考えようによっては、村上会見は、「検察の言うことは事実として認めてあげたけど、これでインサイダー取引の要件が構成できるのかい?」という挑戦である、ということなのかも知れない。

どの時点で、インサイダー情報が村上氏にもたらされたと判断すべきなのか、つまり村上ファンドが法的にシロなのかクロなのか、正直に言って、私の法律知識では分からない。ただ、上記のようなシロの可能性もあるということは頭の中に入れておきたい。これが有罪にならないとすれば、検察としては大きな落ち度となろうが、ライブドア事件も含めて、現時点で、検察が相当の無理をしている可能性がある。このことも、一方で認識しておく方が良さそうだ。

しかし、他方で、実質的にライブドアにニッポン放送の買い占めを持ちかけて、これで持ち株を高く売り抜けた村上ファンドの行為は、市場を尊重したフェアな経済行為の範疇を超えていると思う。話を自分から持ちかけてそそのかしているのだから、実質的には、「たまたま重要な話を聞いて、株取引をしてしまった」という単純なインサイダー取引よりも、もっと悪質だと思うので、法的な有罪・無罪の問題とは別の次元で、市場の倫理として、「村上氏は悪い」と私は判断する。

ただ、これは、私の価値観にあって悪いということなので、私はこの点が「好きでない」というだけのことだから、私の意見としてそう言うことは悪くないと思うが、公共の場で、この点だけをもって、彼を「非難」することは不適切だとも私は思っている。第一義的には、ルールに対する違反があったかどうか、それは有罪なのか、という点から彼の良し悪しを評価するという視点を崩してはいけない。「あいつは嫌いだから、悪い!」では、いけない。

ただ、「村上氏は悪い」という価値観の判断とは別の問題として、一連の検察の行動が、法律をフェアに執行すべき彼らのあり方として、果たして適当だったのか、という問題が同時に存在していることも確かだ。ライブドアの件も含めて、今回の物事の善悪はそう単純ではない、ということのようだ。

自社の株式取引の利益を売り上げに計上したライブドアの決算操作は姑息な錬金術だし、実質的には積極的インサイダーである村上氏も利益のためだけに動く卑怯で嫌な男だし、検察の一連の行動に「国策捜査」的な意識があるとすると、これは検察の分を超えた危険な思い上がりだ。これらの考えが正しいとした場合に、どいつが一番悪くて、危険なのか、の判断は読者にお任せしよう。
コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )

村上世彰氏の記者会見に一点ごまかしあり!

ついに村上世彰氏が逮捕された。メディアの報道振りから、この段階では予想された展開だが、珍しかったのは、逮捕前の罪人(ご本人も「僕が悪かった」と認めている)が記者会見を開いたことだ。

しかも、延々80分に及ぶ演説会であった。「物言う株主」と言われた人でもあるが、よほど、しゃべることが好きなのだろう。多くの企業トップの謝罪会見では、側近が書いた紙を棒読みするだけなのに、メモを見ずに整然と話せる村上氏は、ささすがになかなか聡明だ。

ただ、会見内容には、一点だけ矛盾があったように思う。2004年の11月8日に、ライブドアの堀江・宮内氏その他から同社のニッポン放送参戦の意向を聞いてから、村上ファンドがニッポン放送株を買い増したことが問題だったわけだが、これについて、村上氏は、検事の「村上さんが儲けようという気はなかったとしても」という言葉を借りながら、自分は、この時点で儲けを意図していないという印象を与えようとしていたが、これはおかしい。

なぜなら、村上ファンドはファンドであって、他人のお金を運用しているのだから、儲け以外の目的で、何十億も株を買うようなことがあってはならない。これは彼の職業的義務だ。また、この時点で、既にニッポン放送株を大量に保有しているのだから、「儲かるぞ」と強く確信できたのでなければ、これを買い増しするというのは、運用の判断として明らかにおかしい。この点については、村上氏は正直でなかったと私は思っている。当時に儲けを意図していなければ、罰が軽いと思っているのだろうか。

村上氏がこの取引で不当に稼いだ額は30億円と報じられている。この不当利益をファンドの顧客資産が払うのか、会社が払うのか、村上氏が払うのか、ということにもよるが、村上氏は生活して行くには一生困らない個人資産を形成しているだろう。村上氏は、検察および将来の裁判官の心証を良くしておけば、実刑にならずに済む(執行猶予が付く)だろうから、シンガポールで余裕の生活を送れるだろう、と考えているにちがいない。日本に居場所のなくなりつつあった彼流の「手仕舞い」だし、相続対策としても賢い。堀江被告の場合とはちがって、資産と生活の上では、彼は逃げ切りができそうだ。もっとも、シンガポールで、目立たずにじっとしていることには性格的に耐えられないかも知れないが。

なお、週刊ダイヤモンドその他にも書いたことなので内容は繰り返さないが、村上ファンドは、既に、今までの運用方法には行き詰まっていた。彼が逮捕されなくても、運用方法の転換は予想されたところであった。但し、大半の顧客は法令違反を嫌うから、4000億円といわれる同ファンドの運用資産は、相当の額、解約されることになるだろう。



コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )

村上ファンドと六本木ヒルズ型インサイダー取引

村上ファンドが立件に向けて秒読み、と見える。今のところ、報道では、容疑は、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引とされている。NHKのニュースなどでもこのように説明しているから、多分、そうなのだろう。今にして思えば、オリックスが村上ファンドとの縁を急いで切ったのは、オリックス側が(宮内氏が?)捜査に関する情報を何らかの形で持っていたのかも知れない。

容疑の詳細は、よく分からないが、ライブドアがニッポン放送株を大量に買うことを村上ファンドが事前に知っていて、それから、ニッポン放送の株を買い増ししていれば、クロ、ということになる。堀江被告なり、宮内被告、熊谷被告なりが、「村上さんにウチがニッポン放送株を買うことを話したのは○月○日だ」と供述し、証券会社が当局に任意に提出したといわれる村上ファンドの売買記録で、この日以降にニッポン放送株の買いがあれば、一丁上がりだ。

村上ファンドは、金融庁の検査で売買記録を調べられることを嫌って、シンガポールに移ったのかも知れないが、上場株式の取引は、全て証券会社で確認できるから、上場株の取引の不正は、いったん目を付けられると逃げ切れない。

ところで、A「ボクは、○○○社を買おうと思っています」、B「じゃあ俺も乗るよ」的な会話があって、Bが○○○社の株を少々市場で買った、といったやりとりプラス株の売買は、六本木ヒルズでパーティーを繰り返していた経営者連中の間で、他にも例がありそうだ。いわば、「六本木ヒルズ型インサイダー取引」と類型化できるかも知れない。Aが発行株数の5%以上を買うのなら、重要事実を事前に知って株を買った、Bはアウト、ということになる。

AもBも、お互いが黙っていれば、証拠が残らないから大丈夫と思っていただろうし、ある種のおカネ好きは、こういう情報で株を買うことが我慢できない。だが、今回のように、Aに相当する側が逮捕されて、失うものが無くなる(正確には、変質する)と、Bもリスクに晒されることになる。伝え聞くところによると、村上氏は、証拠が残るメールは重要情報の交換には決して使わず、直接話をすることを好んだ、とされているが、相手側の事情があまりに大きく変わると、それでも、十分危ない目に遭うということだ。インサイダー情報の交換に好適と言われていた六本木ヒルズの立地も、かえって危険を増やしていると言えなくもない。

うまい話には思わぬ落とし穴があるということでもあるし、付き合う相手の見極めが(A、B共にだが)重要だということでもある。

それにしても、ライブドアと堀江被告といい、村上ファンドと村上世彰氏(まだ逮捕も起訴もされていないから「氏」付きが妥当だろう)といい、もちろん、本人たちに隙があるのだろうし、無理もするからなのだろうが、急に成り上がって、ある種の突出をすると、捜査の手にかかるように見える。いわば「社会的オフサイド」を宣告されて、ボールならぬ、お金と名誉を取り上げられる(古くはリクルートの江副浩正氏もこれだったかも知れない)。これは、目に見えにくいが、確かにニッポンの「ゲームのルール」の一部のようだ。これはこれで、不気味な社会である。
コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )

村上ファンドと阪急電鉄の帳尻

阪急電鉄が、ついに阪神電鉄株のTOBを決定した。価格は930円だという。投資ファンドという性格上、結局のところ、こういった形でまとめて持ち株を引き取って貰いたい村上ファンドとしては、「これで、最低限の出口は確保した」と思ってホッとしているだろう。

なお、今回のTOB(45%以上が成立条件)にあっては、事実上、村上ファンドだけがTOBの成否を知ることになり、彼らは、非常に有利な立場に立つ。彼らがTOBに「応じるか」「応じないか」は、彼が持っているオプションだから、経済合理的には、ぎりぎりまで態度を表明せずに各種の駆け引きを行うはずだ。

巷間言われていた1200円(村上側)と800円(阪急側)の中間よりも安いとはいえ、この株価は決して安くはないと思う。阪急側は、資産査定をマジメにやった結果だというが、マジメすぎたのではないかと、他人事ながら心配だ。筆者は、阪急は、「明らかに安い」株価で(たとえば600円~700円くらいで)買うのでなければ、阪神電鉄を買うことは経営的に正当化しにくいと思っていた。

しかし、(1)国交省の意向、(2)銀行の利害、(3)関西財界の気分、を考えると、ここは少々高いお金を払っても、阪神の救世主になっておくことが得だ、という別次元の判断が、阪急電鉄の経営者には、あったのかも知れない(単なる、個人的な功名心かも知れないが)。

この推測に立つ場合に、心配なのは、ズバリ言って、阪急電鉄または阪神電鉄の鉄道料金の近い将来の値上げだ。

阪急が、これだけ高い株価で阪神電鉄を買うのは、「経営統合による利益が見込めるから」(本当かな?)ということなのだから、二、三年のうちに、料金値上げがあるということになるのはおかしい。しかし、仮に、あくまでも「仮に」だけれど、今回のTOBが国交省の意を受けたものだとすると、国交省は、見返りに両電鉄何れかの料金値上げを簡単に認める可能性がある。この場合、いわば、両電鉄の利用者が阪神電鉄株のプレミアムを払わされたことになるのだが、そうならないという保証はない。

阪急電鉄が、驚異的に素晴らしい経営を行って、利用者が上記のようなバカを見ることがないよう、「結果オーライ!」を祈りたい。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )

堀江・宮内、その2

26日に開かれた、「ライブドア裁判・部下の部」の初公判の傍聴記録(http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__2013928/detail?rd)を読むと、「堀江被告の部」で検察側が苦労するかも知れない、と思わせる動きが二つあった。

一つ目は、宮内被告、熊谷被告が、共に、決算操作を行う時点の違法性の認識を否定したことだ。「自社株売却益の売り上げ計上が認められないとの認識はなかったが、責任を逃れられるものではなく、深く反省している」(宮内被告)、「自社株売却益とされる)37億円はファンドからの分配金。リーガルチェックを受けており、法的に認められると判断していた」(熊谷被告)との両発言は、両被告にとっては、自らの罪状を軽くするためには当然の発言だし、それなりのリアリティーがあるが、これは、「ライブドア裁判・堀江の部」が勝負所であるはずの検察側にとっては、かなりの痛手になる可能性があると思う。

多くの場合、メディアは、重要な取材情報源である検察側に好都合な印象をもたらすような内容を報じることが多く、今回も、堀江被告が言ったとされる、、「そんなにもうかっちゃうの。上方修正だねえ」「いいんだよ、強気、強気。経常(利益)50(億円)のがかっこいいじゃない。50のが、大台乗ったって感じでいいじゃん」という言葉を伝えて、これを証言した「部下の離反」を強調するものが多かったように思うが、両証人が、決算操作を決める時点で違法性を認識していなかったと証言するのであれば、堀江被告の違法性の認識もまた立証するのが難しくなる。

また、宮内被告の弁護人が、「事前に開示された証拠と内容が食い違っている」と抗議して、「罪状認否を保留する」と表明したことも、検察側にとって、今後の困難を予想させる。

宮内被告の立場に立つと、(1)「違法性」→当時は認識していないとする方が罪は軽い、(2)「堀江被告の指示」→上司の指示でやむなく決算操作を行ったという方が罪は軽い、という認識が常識的だし、彼と彼の弁護人は、そうした方向で行動する公算が大きいだろう。従って、裁判の「堀江の部」で、検察側の証人に立つのは、(2)の方針との一貫性によるものだろう。しかし、検察側としては、堀江被告の指示の時点で、堀江被告に違法性の認識があった、ということを立証できないと苦しいのではなかろうか。

検察側がどんな証拠を出して、堀江被告の有罪を立証しようとするのか、興味深い展開になってきた。

尚、今の時点で、筆者は、堀江被告が有罪になるべきなのかどうかについて確定した意見や予測を持っているわけではないし、まして、彼を応援している訳でもない。ただし、裁判の帰結が分からないのは、各種のメディアも同じことだから、現時点で、この裁判をどう報じるかという点には、個々のメディアの方針や性格が表れると思う。読者には、当面、この点に注目して欲しい。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )

野村のネット証券はうまくいくのか?

ジョインベスト証券という名の証券会社が、野村グループのネット証券として、ネット証券業界に参入する。「後発」と呼んでも失礼でないと思えるくらい遅い参入だが、業界最安の株式売買手数料を掲げて、早期に50万口座程度を獲得する方針という。

野村グループとしても、ネット証券の売買シェアと利益は無視できないところまで来たということなのだろう。もともと、「最大&最強!」を良しとしたかつての野村證券の文化からして、ネット証券に個人顧客の売買シェアを取るに任せたこれまでの行動が不思議だった。シェアが落ちると自己売買の情報力も落ちるし、ひいては顧客の囲い込みにほころびが生じる。他人事ながら、規模を拡大しながら稼ぐ絵を描いて強引とも思える戦略を進めてこそ、野村らしい。

さて、他人事ながら、この参入は成功するのだろうか。最割安水準の手数料は顧客にとって確かに魅力だし、新規に参入する場合に必要な条件なのかも知れないが、ネット証券の株式売買手数料はもう下限に近い水準まで下がっているように思う。数字上まだ下げられる余地はあるが、300円とか500円といった、タクシーの初乗り料金よりも安い手数料で収益を上げるのは大変だ。超大量に取引する顧客をのぞくと、売買手数料は、もうそれほど差別化要因にならないのではなかろうか。

セオリー的には、売買代金や個人客が急増する時期なら、手数料を下げてシェアを取る作戦が成功する公算が大きいが、当面の相場は、取引量的には、むしろ「小康状態」を迎えつつあるように思う。ネット証券の主力商品である、株式売買は明らかに利潤圧迫のプロセスに入りつつあるのではないだろうか。

もちろん、カジノに開業した貸金業者のごとく、信用取引の金利や品貸し料で稼ぐことはできるだろうが、これでコストを吸収しきれるのだろうか。

また、口座獲得には、それなりのコストが掛かる。口座数を急拡大しようとするのも大変だが、ある程度の規模を早く欲しいだろうから、必然的に初期に費用がかさむことになる。

しかも、野村グループのネット証券会社であることの難しさがどう解消されるのかが、現段階では想像がつかない。

たとえば、一般のネット証券の顧客から見ると、手数料や使い勝手で大差がつかないとなると、IPOの株がどれだけ当たるのか、というあたりが期待のポイントになるだろうが、野村證券の対面の顧客もIPO株は欲しいだろうから、ジョインベスト証券だけにIPO株を回すわけには行くまい。

また、株式や個人向け国債などで顧客を集めておいて、投資信託のような手数料の稼げる商品に誘導するのは一つの戦略だが、たとえば、同じファンドが、野村證券では手数料が3%掛かり、ジョインベストだとノーロードだ、ということになると、顧客はジョインベストに流れるはずであり、野村證券のリテール部門との競合が生じる。かつての大手証券系の投信委託会社の直接販売が、親証券のリテール部門との競合を克服できずに結局立ち消えになったような問題は、本質的に解消されずに残っている。

ジョインベスト証券が、収益の充実を求めて、商品やサービスを充実させればさせるほど、野村證券のリテール部門との競合が厳しくなる。今や、下手なセールスマンよりも、ネット証券のホームページの方が、顧客にとってはよほど役に立つ。確かに、投信などは「勧められなければ買いたくないもの」だが、顧客は、同じ商品を買うなら、安く買えるところで買うようになるはずであり、資産数千万円程度以下の顧客の場合、証券会社の人間が手間をかけて、手間に見合うだけ儲けるのは難しくなるのではないか。

証券業界の発展方向としては、これまでのリテールのビジネスは、準法人向け的な取引あるいは大口客向けのプライベート・バンキング的な個別サービス(これとて、本源的なニーズがどれだけ存在するかは怪しいが)と、ネット証券の二つの方向に解体されるのではなかろうか。しかし、これまで、強力なリテール営業に支えられてきた野村證券のような会社の場合、リテール部門が強いだけに、このプロセスでは遅れを取るのかも知れない。

いずれにせよ、ジョインベスト証券には、野村グループの会社であるがゆえに何ができるのか、驚くような成果を見せて欲しい。数年後に、野村證券本体のリテール営業部門を吸収するような勢いで同社が発展するようだと、面白いと思っている。

尚、このテーマ(ネット証券の今後の発展方向)については、「週刊ダイヤモンド」の二週くらい後に発売される号の連載コラムで取り上げた。本稿は、その記事でスペース上取り上げることができなかったテーマについて、メモ的に書いてみたものだ。

もちろん、この書き込みも、週刊ダイヤモンドのコラムも、私の個人的な意見であり、勤務先の楽天証券とは何の関係もないので、楽天証券に対するご意見・ご要望などは、同社に直接言っていただけるとありがたい。
コメント ( 17 ) | Trackback ( 0 )

村上世彰はそれ自体として悪いのか?

村上ファンドが動き出した。5月2日に阪神電鉄が村上ファンドからの株主提案を開封したところ、阪神電鉄の取締役会の過半数を村上ファンド側が推薦する役員で占めたいとする提案だ。6月29日が株主総会の予定日であり、株主提案は8週間前に届いていなければならないから、この日が期限なのだった。

阪神電鉄の縄田専務は、純投資目的だと言っていたのに、経営支配目的に変えるようなことがあっていいのか、と反応したが、株式への「投資」には、経営支配権も付随しているのだから、これは、株式会社で株式を公開している以上、言うだけ恥ずかしい繰り言というべきだろう。

もっとも、村上ファンドとしては、この時点に至っては、こうせざるを得ない。阪急ホールディングが村上ファンドの持ち株を買い取るTOBの株価交渉が不調に終わって決裂した場合、村上ファンドとしては、阪神電鉄を、なるべく早く、有利に換金するために、同社の経営を掌握しておく必要がある。取締役として提案した8名も村上氏をはじめとして電鉄経営のプロではないし、投資ファンドである村上ファンドが、阪神電鉄をじっくり経営したいと考えている訳ではないだろう。不動産を証券化して売却するといった、資金回収手段に備えた、攻撃的というよりはむしろ防衛的な手段に見える。

株主総会で勝負すると、既に46%を持つ村上ファンド側の勝ちだろうから、当然、阪神電鉄の経営陣は慌てるわけだが、これで、阪急ホールディングがどれくらい慌ててくれるかが、大きな問題だ。思うに、阪急側は慌てる必要はない。たとえば、村上ファンドが阪神電鉄を掌握した場合、彼らがやることは、資産なり、ビジネスなりの切り売りだろうから、マネジメントの悪い会社を従業員ごと引き取るよりも、欲しい資産だけ後から買う方がいいくらいのものではなかろうか。

目下、株価1000円(5/2日終値)の阪神電鉄株を阪急が幾らで買うかだが、巷間言われる、阪急側800円、村上ファンド側1200円という主張が本当だとすると、阪急の呈示している株価は十二分に高い(高すぎる?)のではないかと思う。阪神電鉄の株価1000円に対する時価総額は4千2百億円ほどだが、阪神電鉄の純利益は70億円ほどに過ぎない。株式投資として考えるなら、2-3年後に利益が3倍くらいになるというのでなければ、現在の株価は高い。逆側から見ると、村上ファンドは、経営権を掌握したとして、利益を短期間に倍増、三倍増することができるのだろうか?

村上ファンド側では、阪神電鉄株は1200円の価値があるとメディアに言っているようだが、普通、1000円の株をセールスするには、最低でも1500円、大風呂敷を広げる場合には2000円、2500円といった目標株価が必要なのであって、阪神電鉄の真の価値なるものは、このようにしか言いようがないなら、いかにもみみっちい。もっとも、最初から、タイガース上場といった資金回収には迂遠な話しか出てこない案件ではあった。

こうした事情を考えると、例えば、阪急ホールディング側に立つなら、取り敢えず、自分達にとってリーズナブルと思える株価でTOBを掛ければいのではなかろうか。他の買い手が簡単に現れるとは思えないから、結局のところは、資金回収を急がねばならない村上ファンド側が、TOBをエグジットにするのが現実的ではなかろうか。

或いは、ちょっと意地悪をするなら、たとえば600円くらいの、ぐっと安い価格でTOBをかけると、阪神電鉄の株価が急落して村上ファンドも焦るだろうから、面白い展開になるかも知れない。

阪神電鉄株に関する村上ファンドの平均買値は400円台と言われているから、まあ、どんな展開になっても、彼らがこのディールで損をすることは無いだろう。今回の件で、投資家としての村上ファンドについては、転換社債と阪神百貨店株との株式交換などを通じて、あっという間に、安く阪神電鉄株を買い集めた手腕は、定石通りとはいえ、鮮やかだった(その分、阪神電鉄側の無警戒が際だつが)。また、既に儲かっている現段階で、1円でも高く売りぬけようと粘る根性もなかなか立派である(凡庸な投資家には出来ないことだ)。

ただ、大きな金額のエグジットは、ライブドアのようなお調子者の買い手が居ないこともあって、当然難しいし、村上ファンドが手掛ける案件は回を追う毎に難しく(儲けにくく)なっているように思える。また、今回は、買ったタイミングが上手かったのであって、「(大株主となって)企業価値を上げる」というお題目は、達成される気配が未だない。

思わず、ニュース解説のような文章を長々書いてしまったが、実は、書きたかったのは村上ファンドを巡る戦況ではない。

私が書きたかったのは、世間及びメディアの、村上氏に対する嫌悪感のあまりの強さについてだ。「誰が言っていた」ということを強調したいわけではないので(司会者ではないと申し上げておこう)、細かく詮索しないで欲しいのだが、今回の件で、テレビに解説に出た際に、打ち合わせや、待ち時間、さらにはオンエア中のVTRの時間(出演者はVTRを眺めながら、お互いにしゃべる時間になる)などに、出演者やスタッフなどが口にする村上評があまりにも酷かったのだ。

さすがに、オンエアには出ないが、「何とも下品な顔」、「目つきが嫌らしい」、「いかにも守銭奴」、「貧相」(村上氏は小柄だ)、「額に汗して稼いでいない」、「金への異常な拘りは、幼児的だ」、等々、相当の罵詈雑言が浴びせられていた。一般に、大人は、人の容姿や単なる印象をけなすことに対しては遠慮がちであるもので、これだけ遠慮無しに非難されるというのは、人々は余程彼を嫌っているのだろう。また、他人も嫌っているはずという安心感を持っているのだろう。

しかし、言うまでもないことだが、上場株式を買って、株主として意見を言ったり、権利を行使したり、あるいはファンドで顧客と一緒になって儲けること自体は悪いことではない。経済論理的には、むしろいいことだろう。また、少なくとも、一般市民は彼によって損をさせられているわけではない。「額に汗しないで」儲けることも別に悪くない。そのことだけで「悪い」、と言いたいとすれば、それは、むしろそう言いたい人が村上氏の儲けに”嫉妬”しているのであり、精神として卑しいのは、むしろ、そう言う側の方だろう。村上氏を鏡として、鏡に映った自分の金銭欲を醜いとなじっているにちがいない。

筆者は、村上氏とは会ったこともないし(勤め先は同じビルの1フロア違いなのだが)、彼が好きなわけでもないが、彼に対する、世間の強烈な嫌悪感には、些か驚く。村上氏のような金融的な金儲けは、そんなに悪いのか?

もっとも、村上氏の、過剰なまでの自己顕示と、余裕のない自説の主張ぶりは、金儲けの上でも彼の弱点だろう。金や力(議決権とか)を持っている側は、騒いでみせる必要はないのに、と思う(解説をする側からすると、対象の過剰な自己顕示は大いに好都合だが)。また、申し訳ないが、常識的な想像力の下では、どこからどう見ても彼はセクシーとは思えないので、同情的なファンは付きにくい。加えて、あの自意識過剰振りと余裕の無さは、いじめっ子的な感性で眺めると、いかにも「いじめてみたくなる奴」のキャラクターだ。

そうは言っても、彼の嫌われ方は、些か行き過ぎているのではないかと思う。これは、何の表れなのだろうか?
コメント ( 46 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ 次ページ »