評論家・山崎元の「王様の耳はロバの耳!」
山崎元が原稿やTVでは伝えきれないホンネをタイムリーに書く、「王様の耳はロバの耳!」と叫ぶ穴のようなストレス解消ブログ。
村上世彰氏無罪説の論点など
今日、「News GyaO」に雑誌「AERA」の記者で「ヒルズ黙示録」の著者である大鹿靖明記者がゲストとして出演した。ご覧になった方は理解されたと思うが、彼は、検察が村上世彰氏を裁判で有罪にするのは難しいかも知れないというストーリーを紹介してくれた。
議論の大筋は、こうだ。
(1)11月8日時点で、宮内被告から「ライブドアはニッポン放送を買いたいと思っている」という話を村上氏が聞いたのは確かで、彼も調書にサインしたと言っているが、これは、資金の調達も、株を売ってくれる相手の目処もない時点の話であり、この段階でライブドアの方針が決定していたとはとても言えない。
(2)ライブドアがニッポン放送大量取得を決めて村上氏に株の調達について相談したのは翌年の1月28日で、インサイダー情報が発生したのはこの時点であって、これ以後、村上ファンドはニッポン放送の株を買っていない。
従って、裁判で村上氏をインサイダー取引で有罪にするのは難しいのではないか、というものだ。
ちなみに、(2)の論点については、6日に、自宅付近でつかまったテレ朝のインタビューで、熊谷被告が、村上氏は1月28日までインサイダーの認識はなかった筈だし、自分が村上氏であっても、この日の前までは株を買っただろう、と答えているという(GyaOのスタッフの話)。これは、今後の裁判で、検察にとって痛手になるかも知れない。
つまり、考えようによっては、村上会見は、「検察の言うことは事実として認めてあげたけど、これでインサイダー取引の要件が構成できるのかい?」という挑戦である、ということなのかも知れない。
どの時点で、インサイダー情報が村上氏にもたらされたと判断すべきなのか、つまり村上ファンドが法的にシロなのかクロなのか、正直に言って、私の法律知識では分からない。ただ、上記のようなシロの可能性もあるということは頭の中に入れておきたい。これが有罪にならないとすれば、検察としては大きな落ち度となろうが、ライブドア事件も含めて、現時点で、検察が相当の無理をしている可能性がある。このことも、一方で認識しておく方が良さそうだ。
しかし、他方で、実質的にライブドアにニッポン放送の買い占めを持ちかけて、これで持ち株を高く売り抜けた村上ファンドの行為は、市場を尊重したフェアな経済行為の範疇を超えていると思う。話を自分から持ちかけてそそのかしているのだから、実質的には、「たまたま重要な話を聞いて、株取引をしてしまった」という単純なインサイダー取引よりも、もっと悪質だと思うので、法的な有罪・無罪の問題とは別の次元で、市場の倫理として、「村上氏は悪い」と私は判断する。
ただ、これは、私の価値観にあって悪いということなので、私はこの点が「好きでない」というだけのことだから、私の意見としてそう言うことは悪くないと思うが、公共の場で、この点だけをもって、彼を「非難」することは不適切だとも私は思っている。第一義的には、ルールに対する違反があったかどうか、それは有罪なのか、という点から彼の良し悪しを評価するという視点を崩してはいけない。「あいつは嫌いだから、悪い!」では、いけない。
ただ、「村上氏は悪い」という価値観の判断とは別の問題として、一連の検察の行動が、法律をフェアに執行すべき彼らのあり方として、果たして適当だったのか、という問題が同時に存在していることも確かだ。ライブドアの件も含めて、今回の物事の善悪はそう単純ではない、ということのようだ。
自社の株式取引の利益を売り上げに計上したライブドアの決算操作は姑息な錬金術だし、実質的には積極的インサイダーである村上氏も利益のためだけに動く卑怯で嫌な男だし、検察の一連の行動に「国策捜査」的な意識があるとすると、これは検察の分を超えた危険な思い上がりだ。これらの考えが正しいとした場合に、どいつが一番悪くて、危険なのか、の判断は読者にお任せしよう。
議論の大筋は、こうだ。
(1)11月8日時点で、宮内被告から「ライブドアはニッポン放送を買いたいと思っている」という話を村上氏が聞いたのは確かで、彼も調書にサインしたと言っているが、これは、資金の調達も、株を売ってくれる相手の目処もない時点の話であり、この段階でライブドアの方針が決定していたとはとても言えない。
(2)ライブドアがニッポン放送大量取得を決めて村上氏に株の調達について相談したのは翌年の1月28日で、インサイダー情報が発生したのはこの時点であって、これ以後、村上ファンドはニッポン放送の株を買っていない。
従って、裁判で村上氏をインサイダー取引で有罪にするのは難しいのではないか、というものだ。
ちなみに、(2)の論点については、6日に、自宅付近でつかまったテレ朝のインタビューで、熊谷被告が、村上氏は1月28日までインサイダーの認識はなかった筈だし、自分が村上氏であっても、この日の前までは株を買っただろう、と答えているという(GyaOのスタッフの話)。これは、今後の裁判で、検察にとって痛手になるかも知れない。
つまり、考えようによっては、村上会見は、「検察の言うことは事実として認めてあげたけど、これでインサイダー取引の要件が構成できるのかい?」という挑戦である、ということなのかも知れない。
どの時点で、インサイダー情報が村上氏にもたらされたと判断すべきなのか、つまり村上ファンドが法的にシロなのかクロなのか、正直に言って、私の法律知識では分からない。ただ、上記のようなシロの可能性もあるということは頭の中に入れておきたい。これが有罪にならないとすれば、検察としては大きな落ち度となろうが、ライブドア事件も含めて、現時点で、検察が相当の無理をしている可能性がある。このことも、一方で認識しておく方が良さそうだ。
しかし、他方で、実質的にライブドアにニッポン放送の買い占めを持ちかけて、これで持ち株を高く売り抜けた村上ファンドの行為は、市場を尊重したフェアな経済行為の範疇を超えていると思う。話を自分から持ちかけてそそのかしているのだから、実質的には、「たまたま重要な話を聞いて、株取引をしてしまった」という単純なインサイダー取引よりも、もっと悪質だと思うので、法的な有罪・無罪の問題とは別の次元で、市場の倫理として、「村上氏は悪い」と私は判断する。
ただ、これは、私の価値観にあって悪いということなので、私はこの点が「好きでない」というだけのことだから、私の意見としてそう言うことは悪くないと思うが、公共の場で、この点だけをもって、彼を「非難」することは不適切だとも私は思っている。第一義的には、ルールに対する違反があったかどうか、それは有罪なのか、という点から彼の良し悪しを評価するという視点を崩してはいけない。「あいつは嫌いだから、悪い!」では、いけない。
ただ、「村上氏は悪い」という価値観の判断とは別の問題として、一連の検察の行動が、法律をフェアに執行すべき彼らのあり方として、果たして適当だったのか、という問題が同時に存在していることも確かだ。ライブドアの件も含めて、今回の物事の善悪はそう単純ではない、ということのようだ。
自社の株式取引の利益を売り上げに計上したライブドアの決算操作は姑息な錬金術だし、実質的には積極的インサイダーである村上氏も利益のためだけに動く卑怯で嫌な男だし、検察の一連の行動に「国策捜査」的な意識があるとすると、これは検察の分を超えた危険な思い上がりだ。これらの考えが正しいとした場合に、どいつが一番悪くて、危険なのか、の判断は読者にお任せしよう。
コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )
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今すべて、メディアは検察の言うとおり鵜呑みの状態です。そら恐ろしい事です。
検察は独善的でしかも恣意的。
目障りなヤツをターゲットに徹底的に潰すって感じ。しかもウソ情報をマスコミにリーク。ライブドアの時は本当にひどかった。村上さんに関する検察の勝手なストーリーのリークもひどい。 日本のマスコミはチェック機能をはたしていない。なぜ検察の言うままをたれながしているのだろう? 検察とマスコミがつるんでるとしか思えない動きである。日本・・こんなことでいいのだろうか・・。
一体誰に聞いてわかったのか、何も書いていない場合は検察のリークなのでしょう。
田原総一郎さんはこれにかんして「今出てきてる情報は全部検察のリークであり、コレを垂れ流すマスコミは検察の情報操作に何の警戒心も無く非常に危険だ」とライブドア事件に関してはたびたび発言していました。
村上氏に関する情報もまったく同じ形での報道がなされています。
今回の山崎氏の記事は今回の騒動中に読んだ中ではもっとも公平なものであると思います。
好き嫌いと違法・適法の判断を丁寧に分けているあたりはさすがです。
村上会見を挑戦かも知れないと今回の問題を批判精神をもって冷静に分析しているマスコミはどこにもいません。
株の問題になるとなぜこんなに報道のレベルが下がるのか、非常に不思議です。
「株に関する事件の報道は冷静にする事が出来ない」というのも行動ファイナンスの亜種の一つなのかもしれません。
今後裁判も始まりますが、ライブドア事件も村上氏の問題も、立件できなかった時の検察とマスコミの恥のかきっぷりを、自分は今から楽しみにしているところです。
私は、総合的に検察が悪いとまでは考えていないのですが(LDの「株を喰う」手口は不当だし、村上Fの取引も総体として汚い)、捜査方法には疑問を感じます。
それとは別個に、且つ、多分それ以上に、検察の「リーク」というものには疑問を感じます。メディアは取材に必死ですから、検察からの「一応根拠がある」(談話が取れている)情報は欲しいでしょうし、検察は、自分たちの仕事をイメージ・アップしたい。しかし、捜査に関する情報を、メディアに洩らすのは、公務員として適切なことではありません。
また、この「リーク」が無くなって、ある程度物事がハッキリしてから記事が出回り、ニュースのとなる時期が遅くなることで失われる大事な価値があるケースは少ないように思えます。
「正義」といっても世の中の流れと無関係に決まるものではないでしょう。その意味で、世論の動向を一番気にしているのは検察なのかも知れません。
佐藤某氏の著書で有名になった「国策捜査」という概念に引っ張られて、すべての事態を見るのも疑問に感じます。
程度問題ですが。
尚、私は、佐藤優氏の「国策捜査」をまだ読んでいませんが、「国策捜査」という言葉を、「社会的に象徴的な懲罰を与える捜査・摘発」という大まかな意味で使っています。
「程度の問題」ではなく、「善悪の問題」として(そうでしょう?)、「リーク」と「国策捜査」は、そういうことがあるとすれば、それ自体が不適切なのだと思います。私は、警察にも検察にも、そんなことを期待しない方がいいと思っています。
検察はやるべきことを粛々とすればよいのであって、「メディア受け」を意識する必要はないはずだと思います。
たとえば,不動産会社が塩漬けになりそうだった自社保有地の営業をしたところ,思わぬ買い意欲を示したハウスメーカーがあったため,他社に気づかれないうちに追加の土地も入手しつつ,すべて売却に成功した。
こうした商行為は日常的ですが,悪だという人は誰もいないでしょう。なぜなら,このハウスメーカーの存在は,彼らの営業活動によって発見されたわけで,何らかの特権を用いたものではないからです。この買手の存在がすべての市場参加者に公表されるべきだというのなら,土地の営業活動はほとんど無意味になり,結果として土地利用は非効率的になるでしょう。
それでも資本市場でインサイダー取引を禁じる理由は,内部者の情報優位性に関する特権(たとえば決算内容を公表前に知りうる立場)が,つねに特定のものだけに超過収益をもたらすからだと思います。つまり,いくら自由な情報探索競争をしても,超過収益が消えないからこそ規制が必要だと。
ところで,村上ファンドがライブドアを乗せたことと,その未公表情報を利用したことが悪と判断されがちなようですが,そもそも村上ファンドはニッポン放送の大株主に過ぎず,勧誘に何らかの特権(未公表の財務内容など)を利用したという報道はない。ということは,誰でもライブドアに,ニッポン放送株のフェア・バリューを示して購入を勧誘することはできた。そうしていれば,勧誘者同士の競争になり,超過収益は情報探索と勧誘活動費用に見合う水準になるはずです。これは,そもそも規制すべき悪なのでしょうか。今でも釈然としません。