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森内さん、竜王ご獲得おめでとうございます!

 昨日、森内竜王・名人の竜王就位式に行って来ました。私は、来賓代表挨拶を依頼されていたので、緊張して赴きました。身に余る大任で、辞退しようかとも思いましたが、将棋ファンとして生涯にこれ以上無い機会だと思い引き受けました。以下に、挨拶の原稿文を掲げます。大きな舞台で大人数相手のスピーチであり、原稿を持たずに話したので、全てこの通りに話した訳ではありませんが、話の大筋はこの通りです。

 森内さん、あらためて、おめでとうございます!

●森内竜王・名人の竜王就位式・来賓挨拶原稿

 こんばんは。(一礼)
 山崎元です。
 森内竜王・名人、このたびは将棋界最高峰のタイトルである竜王のご獲得、まことにおめでとうございます。そして、素晴らしい将棋且つ勝負を見せて頂き、まことにありがとうございました。

 私は、昨今着実に増えているといわれる「観る将棋ファン」の一人です。大学時代は将棋部に所属していました。残念ながら私自身はたいして強くはならなかったのですが、充実したメンバーに囲まれて将棋の空気を吸ったおかげで、将棋を楽しむ基礎ができました。これは、人生をより豊かにしてくれた財産の一つです。そういえば、谷川会長のお兄さんである谷川俊昭さんが一学年上にいらっしゃって、大変お世話になったことを覚えています。
 現在、ネット中継のライブで将棋を観て、小学3年生の息子の勉強用でもありますが、竜王戦と名人戦の新聞観戦記を切り抜いてノートに貼り次の一手を予想しながら読み、大きな勝負については「将棋世界」でもう一度味わう、という楽しみ方です。これだけ濃厚に楽しんでも、費用はたいして掛かりません。

 さて、観る将棋ファンの一人として、たいへん僭越ながら、森内さんの将棋に関して、感じていることを申し上げたいと思います。

 先ず、森内さんの将棋に対して「鉄板流」というネーミングを聞くことがしばしばあるのですが、私はこれに違和感があります。
 森内さんの強靱な受けを突破することは難しい。これを鉄板に喩えるのは分からなくはないのですが、「鉄板」という言葉には、ただただ手堅い、無難である、安全、リスクを取らない、といったニュアンスの、なにやら気の利かないイメージがあります。これは、森内さんの将棋にはあてはまりません。
 森内さんの将棋の魅力を挙げると、自玉と相手玉との間合いの測り方の正確さと、震えずに踏み込む勝ち方の鮮やかさです。特に、森内さんが受けから、攻めに転ずる時の切り替えがスリリングです。
 たとえば竜王復位を決められた先般の七番勝負の第5局で、受けにまわっていた森内さんが、3三桂と放り込んで反撃に転じた展開。もう一つ挙げるなら、昨年の決勝トーナメントの羽生三冠との一局で、羽生三冠の攻めを後手番の森内さんが延々と受け続けて、矢倉の中にいた森内玉が5一まで移動して、まだまだ受けたくなるような局面で、相手の玉頭の歩の前に8六桂と捨てて反撃に転じて勝った熱戦を思い出します。
 「森内さんが二度目に攻めたら、相手はもう助からない」。このぞくぞくするような感じが、森内さんの将棋の魅力です。映画でいうと我慢を重ねた主人公が、最後に正義を実現する。森内ファンになって、将棋のネット中継を森内さん側から眺めるだけで、結末が最後まで分からない最高にスリリングな娯楽大作を見ることが出来ます。しかも、主人公は大変強いので、たいていはハッピーエンドです。

 森内さんは、現在、竜王で名人です。しかも、戦った相手は9連覇の渡辺前竜王と圧倒的な勝率の羽生三冠でした。そしてスコアが共に4勝1敗です。現時点で、森内さんが、将棋界最強だといっていいのではないでしょうか。これは同時に、将棋史400年における最強を意味すると思います。
 では、どうして、そうなったのかというと、これは、森内さんがより強くなったからだ、という以外に考えようがありません。現在の将棋界の、選手層の厚さ、研究の進歩、トップグループの強さを考えると、まわりが弱くなったのだとはとうてい思えません。

 一方、森内さんは現在43歳です。お誕生日が10月10日なので、昨年は42歳から43歳にかけて偉業を達成されたことになります。
 現在、東証一部上場会社の従業員の平均年齢がほぼ40歳です。会社によって差がありますが、名前の知れた大きな会社の場合、平均年齢は42歳前後です。
 この年齢で能力自体が伸びるものなのでしょうか。

 昨年、私は、雑誌「将棋世界」の森内さんの名人在位八期を記念して作られた特別号で、森内さんと対談する機会がありました。
 この対談の中で、私は、森内さんに、近い将来の将棋は何が勝敗のポイントになるのかを質問しました。森内さんの答えは、最近多い序盤の研究勝負のような将棋から、かつてのような終盤勝負への揺り戻しがあるのではないか、という興味深いものでした。
 これは私の推測ですが、森内さんは、実は、近年、ますます中終盤が強くなられたのではないでしょうか。
 そうなのだとすると、近年、矢倉、相懸かり、角換わりといった中終盤の長い力勝負になりやすい戦型を森内さんが多く選択されることの合理性に納得できます。
 ちなみに、この対談では、森内さんとお金の運用の話もしましたが、森内さんは「平均に勝つのは大変そうなゲームだ」とゲームとしての資金運用のポイントを正確に把握されていました。竜王戦の賞金を目当てに、金融マンが森内さんを訪ねても無駄です。彼らが勧めるような商品には見向きもされないでしょう。
 私の思うに、「合理性」に対する感性とその圧倒的な実行力こそが、森内さんの強みです。

 ところで、この対談が行われたのは竜王戦の決勝トーナメントの決勝三番勝負の一局目と二局目の間でした。つまり、森内さんは先に一敗して後がない微妙な時期でした。私は「今日は、竜王戦の話はしない」と決めて対談に臨みました。しかし、森内さんは、こちらから問わないのに、郷田九段に負けた決勝第一局の内容を説明して下さいました。私は、恐縮すると共に、「ああ、十分に吹っ切れていて、自信もあるのだな」という印象を受けました。
 この時、たぶん森内さんは挑戦権を取るだろうし、七番勝負も勝つのではないかと直感しました。一般に、私のような証券マンや評論家の直感ぐらいあてにならないものはないのですが、今回の直感は森内さんのお蔭で的中しました。
 気分が切り替えられる。そして震えない。こうしたメンタル面の強さも、森内さんの将棋の強みであり、魅力です。近年は、勝負が大きくなるほど、そして相手が強くなるほど、力を出されるようにお見受けします。

 この点に関して、私が複数の情報源から得た情報によると、森内さんのご家族、特に奥様の貢献が大きいようです。僭越ながら、森内さんは、もともと鋭敏で繊細な感性をお持ちの方だと推察します。もともと生産されるストレスは小さくないはずです。しかし、おそらくは、奥様とご家庭の雰囲気が森内さんをリラックスさせて、緊張を集中に変えることが出来るような精神状態の好循環を作っているのではないでしょうか。
 良い家庭を維持し、外に向かって強く戦う。自陣を整備して、強く打って出る。思うに、これも、将棋の基本であり、合理性そのものです。

 森内さんが、将棋を通じてわれわれに教えてくれていることは、合理的であることの強みであり、その強みは、合理性を実行することにある、ということではないでしょうか。そして、合理的であれば成長出来るのです。
 森内さんを見習うなら、我々一人一人も、会社も、ひいては日本の経済もまだまだ成長できるということではないでしょうか。政府に頼まなくても、成長戦略はわれわれ一人一人の手の中にあるということです。経済評論家として申し上げますが、成長はやはりいいものです。こう考えると、今年がたいへん希望に満ちた一年であるように思えて来ます。

 最後に希望を述べます。森内さんには、遠慮することなく、更に強くなっていただきたい。そして、将棋ファンの一人として、次の七番勝負の将棋を大いに楽しみにお待ちしています。

 森内さん、このたびは、竜王ご獲得おめでとうございます!
 ありがとうございました。 (深く一礼)

 以上
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2014年のお正月

 あけましておめでとうございます。

 今年の東京の元日は穏やかな晴天で、一年がゆったり始まったような気がします。
 例年、正月は、自宅で過ごしていて、特別なことはしません。せっかく時間やスケジュールが自由になる働き方をしているのに、混んでいる時に旅行に行くのは出来高のピークに株を買うような気の進まない行動ですし、日頃から神仏とは全く親しくないので、初詣もしません。
 会社のオフィスの近くには、人気の“出会い系神社”があり、この周辺は混むので、神社の前の道を避けて、年賀状と新聞の整理に行って来ました。

 今年は、一月に講演的な仕事が幾つかあり、また、書かなければならない単行本の原稿もあるので(編集者のみなさん、お待たせして申し訳ありません)、正月にも仕事をします。
 仕事というわけではありませんが、1月20日に行われる森内俊之竜王・名人の竜王就位式でスピーチをする機会があるので、この内容をあれこれと考えており、現在、脳内を一番活発に巡っているのはこのテーマです。私でいいのかと、引き受けるか否か少し迷いましたが、一将棋ファンとしてはこれ以上無い最高の機会なので、森内竜王・名人の将棋の素晴らしさについて話したいと思っています。

 日常の延長として正月にこだわりを持たないのが大方針ですが、年の初めに気休めに少し賢げなことをしたいという気持ちはあるので、今年は哲学の本を何か一冊読もうと思っています。高校生の頃に読んだつもりになっていて、しかし、内容をずいぶん忘れているサルトルかウィトゲンシュタインの何れかを読むつもりです。
 テレビは見ない予定です。
 ボクシングは、年末に、たまっていた録画を一通り観ましたし、大晦日には、日本人チャンピオン3人が何れも強さを見せる勝ち方をしたので、当面満腹です。一番印象に残っているのは、M・マイダナとE・ブローナーの一戦です。マイダナは明らかな弱点を幾つか抱えたボクサーですが(注;ボディーが弱い、ペース配分が下手、攻めのパターンが単調、…)、持って生まれた強打に加えて気力が素晴らしく、勝っても負けても印象に残る試合をします。WOWOWの「エキサイトマッチ」の2013年総集編で1位にランキングされたメイウェザー対アルバレス戦は、アルバレスがメイウェザーに付き合ったようなよそ行きのボクシングをした試合に見えたので、個人的には不満の残る試合でした。もっと、一途な馬力勝負をして欲しかった。
 将棋と囲碁は、いつもの新聞の切り抜きの他は、息子と娘の指導を一日に一局ずつやる予定です。1月号の「詰将棋パラダイス」が先ほど着き、表紙の問題が1分で解けたので、気分を良くしました。囲碁は、パソコンで「天頂の囲碁」をやってみたいと思っています。日本棋院の子供囲碁教室の先生にお勧めの囲碁ソフトを教えて貰いました。なかなか強いらしい。
 将棋は、息子(小3・4級、私とは四枚落ち)が「今年は初段を目指す」と意気込んでいます。囲碁は、息子・娘共に入門レベルなので、筋が良くなるように依田紀基九段「石の効率がぐんぐん良くなる本」をテキストにして、「良い形」を教えています。自分の子供にものを教えるのは感情面で簡単ではありませんが、初心者レベルの子供は教えると進歩が目に見えるので、大学生に金融を教えるよりは張り合いがあります。
 そういえば、正月休み中に、大学の「金融資産運用論a,b」の試験問題を作らなければならないことを思い出しました。出題は事前公開するので、考え甲斐のある問題を作ろうと思っています。
 飲み食いは、十分な食材とウィスキー、ワイン、珈琲豆があるので、概ね安心です。飲むものは、珈琲→ワイン→ウィスキーをぐるぐるローテーションすることになりそうです。
 一年の最初に飲んだのは、珈琲で、豆はコロンビアでした。豆は、銀座のカフェ・ド・ランブルで買ってきた物ですが、昨年、同店で奮発して買ったコーヒー・ミルが快調で、微粉が出にくく丁度良い粗挽きが出来るので、クリアな味の珈琲を自宅で淹れています。このミルは、5万8千円と購入に迷った値段でしたが、味は明らかに改善したので、費用対効果は「よし!」でした。珈琲好きの方にお勧めしたいと思います。
 家飲みのウィスキーは、ラフロイグ(PX CASK)、マッカラン(CASK STRENGTH)、タリスカー(57°NORTH)、ラガブーリン(普通の16年物)と、オフィシャル物ばかりのラインナップです。
 食事時にはハイボール、夜中の読書と原稿書きの友にはストレートないし常温の水で水割りといった飲み方です。かつては、しばしばオンザロックで飲んでいたのですが、ロックは香りを殺してしまうので、良いウィスキーにはもったいない飲み方だという見解に傾きつつあります。

 特別な抱負や目標はありませんが、今年は、「時間を有効に使う」ことを意識して過ごそうと思っています。
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