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テレビの取材を受ける場合の基礎知識

 先日、AIJ投資顧問の事件に絡んで、幾つかのテレビ番組でコメントしたら、twitterで、取材される時の状況はどのようなものかという質問を頂いた。読者の皆さんも、殆ど全ての方が、潜在的にはテレビに取材される側になる可能性がある。取材の概要と傾向と対策について、気付いたことをメモしておこう。

 テレビに取材される場合は、先ず、生か収録かを意識することが重要だ。テレビに不慣れな場合は、生の場合により強いプレッシャーを感じるかも知れないが、取材される場合に要注意なのは、むしろVTR収録の場合だ。理由は、収録には編集が伴うからだ。収録の場合、自分が言いたいことや、自分の発言について補足したことが(本当はセットでないと誤解を招くのに)必ずしもオンエアで使われるとは限らない。

 十年くらい前のことだが、あるキー局の女子アナと話をした時に、彼女が「私が取材を受ける側なら、後で編集される事前収録の取材は受けたくない」と言っていたことを思い出す。その時は、「生でなくて、収録の方が、失言を後から削除できるから安心なのに」、「取材する側の人なのに、テレビ局の行為に否定的なのか」と少々驚いたことを覚えているが、その後、当時の彼女の気持ちが良く分かるようになった。

 取材を受ける側の理想としては、時間の余裕(少しでいいから)のある生出演ということになる(NHKの「ニュースウォッチ・ナイン」は丁寧な作りで、出演者としてはいい感じだった)。

 VTR取材の場合、取材する側からカメラマンとインタビュアーがやって来ることもあるし、テレビ局に行って会議室(こちらの方が多い)かスタジオでインタビューを受けることもある。印象をいうと、テレ朝は局の会議室が多いし、フジテレビは取材にやって来ることが多いように思うが、私はどちらでもいい。通常は、局に行く場合は、テレビ局側が交通手段(の、少なくともコスト)を手配してくれる。

 報道番組のオンエアで使われるコメントは、通常1、2分、長くても3、4分くらいであることが多い。しかし、通常、インタビューは、短くて10分、長いと30分くらいかかることが多い。そして、前述のように、使われるコメントは、話した側にとって不満足な部分であることが少なくない。

 率直にいって、言いたいこと以外の発言をオンエアされたくないと思えば、自分の言いたいこと以外には一切何も答えないというくらいの覚悟が必要だ。但し、これは、よほど強い意思を持っているのでないと難しい。常人には不可能だろう。

 たとえば、一生に一度だけテレビの取材を受ける機会で、不本意な伝わり方は絶対に嫌だという方は、収録の取材は受けない方がいい。テレビ局(が使っている人)は、初対面から信用できる相手ではない。

 それでも私が収録の取材を受けるのは、(1)プラスになる内容がマイナスになる内容よりも多く伝わればそれでいいと割り切っているから、(2)雑誌やウェブなどで自分の意見を表明できる場があるから、という理由による。相手が悪意を持っている場合まで考えると、これでは油断しすぎなのかも知れないが、大体の相手は立場と能力の制約はあっても概ね善意の取材者であるし、現在の私の価値を貶めてもこれをメリットと感じる人はいないだろうという(少し残念な!)自己評価があるからだ。私が政治家でもやっているなら、あるいは所謂「有名人」なら、もう少し用心深くなければいけないだろう。

 取材の謝礼が気になる読者がいらっしゃるかも知れない。

 基本的には、取材を受ける立場では、「取材謝礼はゼロでもいい」と認識しておくべきだ。取材の内容によっては、謝礼を払うことと取材の目的の間にコンフリクトが生じる。取材は断る権利もあるし、だからこそ、受けるからにはそれなりに覚悟が必要だ(一応の原則論として)。

 ただ、一般的な事項解説的取材では、解説に対して謝礼を払うのは自然だろうし、謝礼には、取材源が取材に使った時間と手間への対価という意味もある。

 取材謝礼に公定相場がある訳ではないし、実のところ私も金額を確認しないことが殆どなのだが、10分~30分くらいの収録取材に応じて何分かオンエアされたといったケースでは、1万円~3万円くらいのものだろう(特別な情報提供の場合はもっと多いかも知れないが、それは稀だろう)。

 タレントではない文化人(評論家、先生、作家、ビジネスマン、等。私もこの範疇)の場合、テレビ出演の謝礼には民放各局の間で「ゆるやかな談合価格」があり(NHKはもう少し安いと言われている)、局や番組の予算などで異なるが、ゲスト的な出演の場合「1時間テレビに映っていると5万円」というくらいのものだろう(但し、レギュラー出演で、MCなど重要な役割の場合、別建てになることはある)。私の場合、「報道ステーション」や「スーパーニュース」でVTR取材に答える謝礼は1回(たぶん)2万円くらいだろう。「とくダネ!」(フジテレビ、約2時間の生放送)のコメンテーターは1回、10万5千円(出演料+消費税で)だった。文化人のテレビ出演は、それ自体はそれほど儲かる仕事ではない。

 準備や移動の時間と手間を考えると、テレビ出演自体は、それほど割のいいものではない。ビジネスとして考えると、たとえば評論家の場合、テレビで顔を売って、講演(テレビよりも時間あたりの収入がいい)で儲ける、というのが典型的なビジネスモデルだろう(私の場合、少々違っていて、経済的には随分非効率的だ)。

 つらつら考えてみるに、テレビで露出することがメリットになる商売に関わっているのでない限り、ビジネス的には、テレビに出ることは、差し引きでそれほどメリットのあることではない。とはいえ、今のところテレビの情報伝達力は圧倒的だ。伝える価値のあることを発信しようとする人は、上手に付き合いながら、テレビを上手く利用して欲しい。
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