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金融マンの適性の具体例

3月6日配信のJMM(村上龍さんが編集長の経済メルマガ)に書いた金融業界に就職する人へのアドバイスの一部に以下のような文章を書いた。

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尚、詳しい説明は別の機会に譲りますが、いわゆる金融工学的な理論の後のファイナンスの理論として今や広く普及した「行動ファイナンス」の理論は、顧客が非合理的な選択をするケースを一般化した法則として、つまり、金融業者側が儲けを作るヒントとして、金融業界では広く応用されています(顧客の側から見ると単なる「応用」より「悪用」と言いたいところですが)。強い金銭欲を持った人は、こうした原理を直感的に理解する傾向がありますし、これを「利用」するにあたって躊躇がありません。
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具体例を一つ挙げよう。

現在、日本の投信マーケットで売れ筋No.1は、外債に投資する毎月分配型ファンド(代表は通称「グロソブ」、国際投信のグローバル・ソブリン・オープン)だが、業界大手の野村アセットマネジメントは、この種のファンドに大幅に乗り遅れた(かなり後から、内容の違う妙な多分配型のファンドを出したが)。

漏れ聞いた話によれば、グロソブが大売れし始めた頃、野村アセットの経営者は、「これは運用商品として合理的な商品ではないから追随しない」と判断したという。(かなり前に関係者から漏れ聞いただけで、ご本人には確認していないので、読者は、以下の拙文をそのつもりで読んで欲しい)

投資家にとって、合理的ではないというのは経済合理性の上で正しい判断だ(プラスの利回りがあるなら、毎月分配するよりも複利で運用して1年後に分配する方が明らかにいい。もっとも、それ以前に手数料が高すぎて話にならないのだが)。証券会社から天下った運用会社の経営者の社長としては、優れた判断力を持っているといえるし、運用会社の経営者として一つの見識だとも評価できる。人間として、この人は正しい。

しかし、想像するに、毎月分配型ファンドは、非合理的でも、顧客のツボに入っているから売れる!というところに、この経営者は嗅覚が働かなかったのだろう。べつに、行動ファイナンスを勉強しなくても、これが「バカの壁」の向こう側にいる人達に売りやすい商品だ、ということについては、壁の向こうの臭いをかぎ分ける嗅覚(カネの臭いに関連する嗅覚だ)か、自分自身が壁の向こうにいると、よく分かったのではないかと思うのだが、当時の野村アセットの経営者はある意味では賢くて原理原則を尊重する方だったのだろう。また、他社が儲かっているからといって、露骨な後追いをするにはプライドが高かったのだろうし、多分、それほど金銭に貪欲ではなかったのだろう。

しかし、野村アセットマネジメントが、「稼ぎ!」を最大の価値観としていたはずの野村グループの会社であることを、考えたら、果たして、これで良かったのか。これは、この経営者が、金融ビジネスには向いていないなかった例だと理解できるのではないだろうか。

しかし、この経営者は、その後、野村グループの持ち株会社の幹部に出世された。たぶん、ある種の組織をわたる能力と対人力(自分を大物風に見せる「大人力」も)、それに地位を獲得することに対するモチベーションが大変高い方だったのだろう。(何れも、筆者の想像に過ぎないが、素晴らしい能力であり、羨ましいといってもいい資質である)

興味深い別の問題は、この経営者が出世するような土壌を育み、彼だけでなく、その他の幹部の方々も、金融ビジネスに向いていない人ばかりなのではないか(勉学欲や出世欲はあっても金銭欲は平凡な人々・・)、と思われるところに(現象としては、東大出の役員が増えた)、近年の野村グループの意外な停滞ぶりの原因があるのではないかということだ。株式市場が好調なのに、同社の株価は、過去の最高値の半分にも及ばない。

敢えていえば、これは「野村の興銀化」という病だろう(決して、褒めているのではない。興銀は実質的には潰れた会社だ)。
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週刊エコノミスト(3/7号)の東証の記事

現在発売中の週刊エコノミストの3月7日号の15ページに、金融ジャーナリスト・森岡英樹氏による「『魔の30分問題』市場の歪みを放置する東証の怠慢」と題した文章が載っている。

「魔の30分」を例の30分の間の先物の仕掛けだけによって起こる現物・先物の乖離の問題であるかのように書いている物足りなさはあるが(実際は、バスケット注文のヘッジが多く入っているだろう)、東証が市場の歪みに対して鈍感すぎるという趣旨は、その通りだ。

この記事に注目した理由は別にある。議論の本筋ではないのだが、文章の終わり近くに「・・・問題は裁定が働かない空白の30分を放置している東証にあろう。東証はライブドア株の大量売買によりシステムがダウンする懸念から現物株の取引開始時刻を30分遅らせているのが本音であれば、早期にライブドアを上場廃止にし、カジノ化している市場を正常化する必要があろう」とある部分が捨て置けない。

先ず、市場を見ている(或いは日経くらいは読んでいる)人ならご存知だろうが、目下ライブドア株の取引は14時-15時の一時間に制限されている。つまり、エコノミストの記事のこの部分は、まず事実誤認しており、従って、筆者の邪推なのだ。

筆者である金融ジャーナリスト森岡氏の他に、「週刊エコノミスト」のこの欄の担当者、同じく編集長(さすがに読んでいるだろう)の3人がこの点を見逃したか誤解していたということなのだろう。

お粗末といえば、何ともお粗末だが、経済誌に書いてあることを、簡単に信じてはいけない、ということだ、と一応言っておこう。経済誌にも信頼度の違いがあるような気がするが、「雑誌も間違うことがある」という一般論には間違いない。経済誌各誌の比較は、書いてみたい気もするが、事実を収集してから書かないと、民主党の永田議員のようになるから、今は、止めておく。

ところで、先の引用の中の、「カジノ化している」という一節だが、確かにライブドア株の売買と値動き(特に比率で見た動き)は激しいが、同株を抱えて苦労している個人投資家もいるわけで、ライブドア株の売買をカジノに喩えるのは失礼・不適切だろう。

ライブドア=悪い会社=早く上場廃止にせよ!、という観念連合があるのかも知れないが、些か視野が狭いように思う。株主の立場で考えると、ライブドアの旧経営陣がもちろん大いに悪いが、こうした会社の決算を見抜けなかった監査法人、分割その他を許してきた東証、さらに事件発生後はシステムダウンして、通常なら管理ポストでも普通に売買できるはずなのに、時間を制限し、信用取引を制限して、株を有利に売るチャンスを制約したやはり東証も「悪い」のだ。

東証は、「お客様に悪いことをした」という意識をまず持つべきだし、その罪滅ぼしに、むしろ整理ポストに入れてから(今後、上場廃止を正式に決めてから)、通常よりも長めの売買期間を設定するくらいでいいのではないだろうか。

現在のライブドアに対して、早期の上場廃止で罰を与えることに意味があるとは思えないし、「ライブドアのことを早く忘れたい」であろう東証に加担する必要もない。
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ドンキホーテの選択

24日金曜日の引け後(証券取引所が閉まってから)に、ドンキホーテが、オリジン東秀の買収を断念して、イオンのTOBに応じる意向を表明したというニュースが入ってきた。

ドンキ安田会長とイオンの岡田社長が会談して、合意したという。ニュースによるとドンキがイオンのTOBに対して応募する株数は発行株数の48%だという。

ドンキが失敗したTOB株価2800円とイオンのTOB価格3100円の差額300円の利益で計算しても、ドンキにとって25億4千万円強の利益となる。もともとオリジンの創業一族から引き取った株価からの利益も含めると莫大な利益になるはずで、上手くいくかどうか分からない経営統合に踏み込んで、大きな資金を固定するよりは、200億円以上のキャッシュが自由になる計算でもあって、ドンキにとって遙かに経済合理的だ。こんなものの当たり外れを自慢しても仕方がないが、当ブログの17日の拙稿の読み筋で良かったようだ。

ただ、ここで一つ問題を残したのは、ドンキが46%超のオリジン株を持ったことを発表して、イオンのTOBが不成立になる可能性が漂った数日間に、オリジン株は2000円台後半に2500から2800円程度の株価に低迷したが、この時に売った少数株主が少なくとも儲け損なった期待利益の喪失をどう考えるかと、この間に、ドンキが買い増しした(46→48)株数に関する利益が正当なものかということだ。

これは企業買収や株式取引に関する今後の規制の見直しに影響する可能性のある事例だと思う。

厳しくやるなら、①一定比率以上の株主が株式を追加取得する場合(この主体は他者のTOBの成否について有利な情報を持っているので)、②他の主体がTOB期間中は、③自分もTOBをかけなければならない、といったルール化だろう。

また、そこまで少数株主を(と同時に経営者も)保護する必要はない、と考えて、上場株式をマーケットで買い増しすることは誰でも原則自由だ、というルール化もあり得る。少数株主も、原則は常に自己責任だし、企業の株式価値を正しく評価していれば、損はしないはずだ、という思想になる。
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株価のボラティリティー拡大と「魔の30分」

ここしばらく、株価の動きが上下共に激しい。これは何故だろうか。

明らかになりつつあるのは、大証とサイメックスの日経平均先物は動いているが、現物の株式の売買が止まっている12:30~13:00の「魔の30分」の影響が大きいということだ。

典型的な流れは以下のようなものだ。
① 機関投資家のまとまった売り買いは前場の終値をベースに昼休みに取引されることが多い。証券会社は、「前場終値マイナス何ベーシスで売り(或いは、プラス何ベーシスで買い)」というような注文を受け、場外取引が成立する。
② たとえば「売り決め」を受けた証券会社は、株価が下がるとまずいので、12:30から開いている主に大証で日経平均先物を売って、リスクをヘッジする。
③ 東証の昼休み中に先物価格が動いているので、13:00に東証が開くと、先物と現物の株価の乖離が拡がっており、裁定取引のオーダーが入る(たとえば先物買い戻しの、現物売りの裁定)。
④ 裁定取引の現物注文が入り、現物ベースの日経平均が大きく動くと、これをトレンドと見た投資家の追随的な注文が出て、変動が拡大する。
⑤ こんなメカニズムで、株価の動きは、昼休みの機関投資家の売買注文に大きく影響を受ける。

こういったパターンで株価変動が拡大するので、アウトライトの売買でこれを利用するトレーダーや、裁定取引を仕掛けるトレーダーも、大いに儲かっているにちがいない。

全て「東証が悪い」とまではいえないかも知れないが、先物と現物でオープンしている時間にズレがあれば、裁定取引が大規模に入るのは、殆ど自明であって、容易に想像できることだ。絶対とまではいえないまでも、株価の変動を後押しするような裁定取引が入りやすい市場運営になっている。

これは、少なくとも、株式市場の運営としてはかなりまずい状態だし、東証はここでも投資家に大きな迷惑を掛けているといえるだろう。西室泰三社長は、「法律違反があれば取りしまる」というような、あまりに当たり前の、寝ぼけたことを言っているが、こうした裁定取引が誘発されて、株価変動が加速することは、当然想像できることだ。何とも粗末な市場運営といっていいだろう。
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ドンキホーテとオリジン東秀

ドンキホーテとオリジン東秀の問題が面白い局面を迎えている。

この問題は、そもそもオリジンの創業一族がドンキに株を売ったオリジンの内紛に端を発しているが、ドンキが1/3超の株式獲得を目指して2800円でかけたTOBが、ホワイトナイト役のイオンの3100円でのTOB(期限は3月1日)によって失敗して、オリジンはイオンの傘下に入るのかと思われた。しかし、2月16日になってドンキはオリジン東秀の株式を市場で買って、46%超を保有していることを明らかにしたのだ。

これで、オリジンの経営陣と共にあわてたのは、イオンのTOBを当て込んでオリジン株を持っていた投資家たちだ。ドンキがイオンのTOBに応じなければイオンのTOBが成立しなくなる公算が大きいから、彼らは持ち株の売り場が無くなってしまうかも知れない。オリジン東秀は魅力のある会社だが、3000円近辺の株価は、さすがにかなり割高だ。そんなこともあって、16日のオリジンの株価は前日比310円安の2780円で引けた。

持ち株の処理に困ると見えていたのに、一転して有利な立場に立ったのはドンキホーテだろう。理由は、彼らのみが、イオンのTOBが成立するか否かを事前に分かるからだ(自分で決めるのだから)。彼らは、あわてた投資家が投げた株を市場で買ってオリジンの過半数を確保して経営権を取ろうとしてもいいし、或いは、3100円よりも安くオリジン株を買えるだけ買って、イオンのTOBに応じて大儲けする手もある。

イオンはもともと3100円で全株買ってもいいと言っているのだからいいとして、現在、困っているのは、一般株主ということになる(オリジンの経営者にはあまり同情を感じない。注意力が足りない)。もっとも、オリジンの株式の価値が株価に見合うだけあれば損はしない理屈なのだから、この状況をもって、TOBルールの見直し等、企業買収ルールの見直しの必要性を訴えるのは、やや無理があろう。

一方、ドンキは、印象として汚いし、冷静に考えると、これでオリジン東秀を傘下に入れても、上手く経営できるとは思えない。過半数を抑えても、オリジン側の不測の抵抗を受けるリスクがある(筋のいい手は無いが、抵抗手段はいろいろある)。

私がドンキの経営者なら、オリジンの株を出来るだけ安くたくさん集めて、イオンに売って巨利を得るのがベストだと思うが、これは何とも興味深い状況だ。
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ライブドア株と外資系運用会社の力量

ライブドア・ショックで大幅に下落したライブドア株について、面白い事実が明らかになった。

フィデリティーとキャピタル・リサーチといえば、あまたある米国系の運用会社の中でもレピュテーションの高い運用会社だが、これらの日本法人がライブドアの株式をそれぞれ同社の発行株数の6%を超えて持っていたのだ。取得時期は多少異なるようだが、昨年末の時点で両社がこれだけのライブドア株を持っていたことは確実だ。

業界外の方の為に補足すると、フィデリティーは「世界最大」の運用会社だし、キャピタル・リサーチはたぶん評判を集計すれば「世界最良」(本当かどうかは知らないよ!)の運用会社と言っていいだろう(チャールズ・エリスが「キャピタル」という本を書いており、日経から翻訳が出ている。ちなみに、訳書の帯のコピーは「こんな会社にお金を預けたい!」だ)

ところが、1月末時点では、フィデリティーは保有割合0.54%までライブドア株を売却し、キャピタル・リサーチは逆に8.58%へと2%以上買い増しした。

注目点は二つある。

一つは、調査力だの運用力だのといっても、外資系の大手の運用会社でも、ライブドアの粉飾を見抜くことは出来なかったということであり、運用会社に(もちろん証券会社にもだし、プロ一般に対して、ということでもあるが)過大な期待をしない方がいい、ということだ。

年金基金などには、まだ外資(外人?)コンプレックスを持っていて、「外資系のファンドマネジャーは本当のプロだから、日系のサラリーマン・ファンドマネジャーと違う」などと半可通の運用会社グルメ的解説をしながら、外資系運用会社を偏愛する運用担当者(運用執行理事など)がいる場合があるのだが(黒船と太平洋戦争敗戦の影響は大きい!)、こういう人たちは、今回のケースをよく噛みしめて理解すべきだ。

現実を言ってしまえば、外資だろうが、国内だろうが、運用パフォーマンスにつながる「運用力」には大差がない。これは、日米の投信の運用成績で見てもそうだし、「本当に儲かられると思うなら、他人のお金なんて運用しないだろう」という身も蓋もない経済常識が正しいのだ。

詳しくは別の機会に書こうかとも思うが、外資系の運用会社で優れているのは、イメージの作り方であり、マーケティング戦略であって、且つこれと一致したマネジメントが出来ていることだ。これとて、日本の証券会社や保険会社(まして銀行)出身の素人経営者には真似が難しいことなのだが、彼我の差は「運用力」にはない、というのが運用ビジネスの現実である。

ところで、ライブドア・ショック以降のフィデリティーとキャピタル・リサーチの正反対の対応は興味深い。

結果はどっちがいいか分からないが、ライブドアをここに来て投げ売りしたフィデリティーよりも、株価よりも実態価値はあると判断して実際に行動するキャピタル・リサーチの方が、運用会社のあり方としてはサマになっている。

気楽な見物人としては(ああ、良かった!)、良し悪しではなく、好き嫌いで、キャピタル・リサーチに1票を投じたい。
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ライブドア上場廃止

報道によると、東証がライブドア株の上場廃止を決めつつあるようだ。先般来、西室社長が「上場廃止には基準があるので、これに抵触したら廃止することになると思う」と予防線を張っていたが、いよいよ現実化するようだ。この種の不祥事の場合、社長逮捕で管理ポスト、基礎で上場廃止が決まって整理ポストへ、というのがスタンダードらしいから、起訴と前後して上場廃止になるのは、市場参加者にとって、それこそ「想定の範囲内」だ。

影響が重大な粉飾(有価証券報告書の虚偽記載)が組織的に行われていたなら上場廃止、という基準に照らすと、ライブドア株を上場廃止にしないことの論理構成はかなり困難だ。カネボウや西武鉄道など、他の事例との比較からも、上場を継続すした場合に集まる首尾一貫性の無さへの批判には抗し難いということだろう。私も、今上場を廃止することについて東証を批判する積もりはない。

ただし、22万人と言われる個人株主には相当の不便を掛けることになる。また、「上場廃止では仕方がない」と見切り売りして、ライブドア株を不当に安く売ることになる投資家が多数出そうだ。

ところで、考えてみると、この事件の主な時期は2004年の秋である。ライブドアは、100分割を二度も行うなど、まことに行儀の悪い会社だったし、また、悪い噂が頻繁に流れていた会社でもある。東証も、そして、証券取引等監視委員会も、もっと早期に摘発できなかったのか。いわゆる「垂れ込み」「告発」は多数あった筈だ。なぜ、これを早期に見抜けなかったのかは、検証する必要がある。

もっとも、この点については、総選挙の時に自民党が見抜けなかったくらいなのだから、仕方がないのか。

尚、国民は、総選挙の時に、自民党が間抜けだったことを見抜けなかったのだから、他人ばかりを責められない、という皮肉な構造になっている。ちなみに、私は自民党には投票しなかったが、それは、ライブドアの悪事を見抜いていたから、というわけではないから、私も似たようなものだ。だが、プロである監視委員会と東証はもっと早く見抜いてくれないと困る。

放火犯は勿論悪いが、大火になったのは、防災体制がしっかりしていなかったからだ。

ライブドア株では、今回のショックで、ざっと6000億円の時価総額が消し飛び、それだけ投資家が損をしたということだが(TVコメンテーター風には、「3億円犯人が、2千回盗まなければ追いつかないくらいの被害をもたらした」とでも表現するか)、もちろんライブドア社の経営陣が一番悪いとしても、市場の監督者が、その用をなさなかったことで、これだけ被害が拡がったのだともいえる。

東証に関しては、多分割への対応が遅かったし、ライブドアが売買単位を余りに小さくしたことに対しても無頓着すぎた、という点の非難も受けなければならないだろう。金額だけでなく、件数という意味で、これだけ被害が拡がったことの責任の一端は東証にもある。
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ホリエモン論(部分)

勤務先の楽天証券のホームページ向けに「ホリエモン論・序説」というタイトルで、堀江容疑者について論じる小文を書いてみた。書き始めてみると、40字×300行を超える分量になった。どこかの雑誌に売り込もうかとも思ったが、一番UPが早いということもあり、会社のホームページも大切にしなければならないとも考え、会社のホームページに載せることにした。

目下問題の企業に関わる問題だし、投資の参考にもなるという体裁をとっているものの、内容は、私の自由作文なので、コンプライアンスのチェックを通るかどうか心配したのだが、案外簡単に通ったので、明日3日にUPされる(http://www.rakuten-sec.co.jp/ITS/PRNT_V_TOP_Yamazaki_01.html)。

予定通り、「容疑者ホリエモン」「社長ホリエモン」「経営者ホリエモン」「タレント・ホリエモン」「人間ホリエモン」の構成で書いた。

この中で中核になる「経営者ホリエモン」のパートを以下に抜粋してコピペします。全文をご覧になりたい方は、楽天証券のホームページをご覧下さい(無料で読めるのでご安心を)。

●<「ホリエモン論・序説」から、「3.経営者ホリエモン」>
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3.経営者ホリエモン
 会社のオペレーション関するビジネスそのものの話と、主に株式に関わる諸々の問題に対するホリエモンの行動を分けて論じる目的で、前者を「社長ホリエモン」、後者を「経営者ホリエモン」として論ずることにした。
 以下は、筆者の推測だが、経営者ホリエモンの原点は、オン・ザ・エッジの株式上場に遡るのではないだろうか。彼本人の著書なり発言なりに該当する言葉があった訳ではないが、「まだそれほど儲かっていないこんなビジネスに対して、こんなに大きなお金が転がり込むものなのか」とホリエモンは思ったにちがいない。株価=時価総額を、単に目標としてだけではなく、手段としても認識した瞬間が、きっとあったのだろうと思う。
 「稼ぐが勝ち」には、「経済は先取りする」というフレーズがあり、儲かった利益を配当するのではなく、儲かると予想される分をあらかじめ使ってしまうのだ、といった説明がある。やや単純化していえば、上場会社を持つことで、社員を搾取することによりその時その時に儲けるというヨコの方向の(空間的な)ピンハネと同時に、何十年分かの利益を現在価値にして前借りして使えるというタテの方向の(時間的な)ピンハネと両方を使うことが出来る。株式のこうした性質によってホリエモンは短期間に富を作ったし、さらに株式と株式の交換を行うことによって、富の拡大を加速する。
 その手順は、まず自社の株価を上げることに注力し、これを使って事業を買収して事業規模を拡大し、さらに報道の通りであるとすれば、買収の際に自社株ないし子会社株を投資事業組合を通じて売却して、これをライブドアの売り上げ、さらに利益として計上して、事業展開が順調であるように見せかけて、さらに自社の株価を上げる、といった拡大プロセスを辿ることになる。
 資本取引の一部を利益に計上出来るのだから、PERが数十倍あるとすると、株を使って出した利益が、使った株式の価値以上の時価総額の時価総額になって帰ってくるので、適当なサイズの買収を繰り返すことによって、時価総額を際限なく膨らませることが出来る理屈だ。ライブドアの「錬金術」といえるものがあるとすれば、その本質はこういうことだと思う。
 そして、このプロセスの中に、株式百分割といった株価を上げる仕掛けを組み入れたという構図が見える。筆者の記憶では、ホリエモン本人が、株式百分割は株価を上げる手段だという認識を口にしたことはない(そう言ってしまうと、株価操縦が立件されるのかも知れない)。しかし、状況から見て(株式市場関係者の評判は非常に悪かった)、株式百分割は株価を上げる手段として意識的に使われていた可能性が高いと思う。この点について、地検がどの程度立証できるのかは、大きな問題であり、今後の解明を待ちたい。
 加えて、最後の百分割によって、ライブドア株は数百円単位で買える株になった。その結果、ライブドアは二十万人を超える個人株主を持つに至った。この段階では、ホリエモンは、自社の株式を資金調達や株式交換のツールとしてだけでなく、宣伝にも使おうとしたのだろうと思われる。
 株式というものをとことん使ったことが、ホリエモンの経営者としての一大特色だ。通常、短期間で成り上がる経営者は、経済界の有力者に取り入るなど人間関係をフルに使うタイプが多いのだが、ホリエモンの場合は、早い時期に株式上場に至り、株式を通じた価値の拡大に手を染めたこともあって、株式の利用に特化した。昨年秋の衆議院議員選挙までは、彼が、有力者との人間関係を積極的に使おうとして大きく動いた形跡は無い。
 ところで、株価はイメージに対して形成される。企業の利益を中心に見るとしても、現在の利益もさることながら、これからの利益に関するイメージが決定的に重要だ。そして、株価を通じてイメージとイメージを交換するときに、株式に伴って、企業の実体も同時に交換される。ホリエモンは、この性質に対しても敏感だった。ライブドアの株価を上げられるように、何とか下げないように、可能なことは何でもしたように思われる。
 敢えていえば、本業の時間を削ってまで、ホリエモンがメディアに登場したのも、少なくとも彼の表向きの理解としては、ライブドアの知名度を稼ぎイメージを改善するためであった。
 当然のことながら、利益の下方修正は成長イメージを大きく毀損して、株価を下げる。この事態を避けるための努力の延長線上に、現在問題になっているような各種の利益操作があった、ということなのだろう。
 ところで、一つの重要な興味は、ホリエモンが自社の株価についてどのように認識していたのかということだ。株価の高い企業の場合、IRの席で、経営者は、ある意味では職業的な大風呂敷を広げなければならない。つまり、高い株価が正当であるかのように振る舞わなければならないし、経営計画もその影響を受ける。従って、表面の意識の上では、ライブドアの株価は適正であり、これからもっともっと上がるのだと自らが信じ込んでいなければならない。
 しかし、たとえば、昨年のニッポン放送株の大量買い付けを見ると、資金調達の際にMSCBを使って実質的に大きな手数料を払っている。時間差はあるとしても、ライブドアの大株主でもあるホリエモンが、あのディールで目指したものは、ライブドアの資産の中身を相当部分ニッポン放送の資産に入れ替えることではなかったか。大株主ホリエモンの頭の中には、ライブドアの企業価値が少なくとも頼りないものであることが感覚として忍び込んでいて、これを実体のある資産なりビジネスなりに入れ替えたいという気持ちがあったのではなかろうか。
 あのディールの結末は、ニッポン放送株の購入代金がほぼそのままキャッシュで戻り、フジテレビがライブドアに440億出資した、ということだった。440億円の出資は、ライブドアの株が見合いであるから、ファイナンス理論的に見ると、これは少なくともライブドアの既存株主の得とは言えない。そう考えると、ライブドアの株主としては、リーマンブラザーズ証券がMSCBで儲けた分だけのコストを払った、という損得計算になる。しかし、たとえば自社の株式の価値が希薄であるとの認識があれば、時価総額の一部をキャッシュの形に変えることが出来て、ホリエモンは満足だったのかも知れない。
 高い株価(特に「高すぎる株価」)を持った経営者は、自らが株主である場合に、売り上げや利益の嵩上げや、ビジネスプランの宣伝のためだけではなく、自らの保有する株式(又はストックオプション)の価値を守るためにも、M&Aを行いたくなるインセンティブを持つにちがいない。もちろん、これを効果的に実行するためにも、自社の株価をその時だけでも上げることが大事なのは論を待たない。
 ライブドアのこれまでをこのように見ると、第一義的な目標として時価総額(つまり株価)を掲げるものとしての「時価総額経営」は、適切に機能し得ないことが分かると思う。詳しくは別の機会に論じたいと思うが、経営者と投資家の間には、あまりに大きな情報のギャップがあり、経営者の側では、上記のようなインセンティブが働くとすると、経営者が自社の株価を上げようとして、情報を操作することに対する抑止を働かせるのはきわめて難しいことが分かる。
 たとえば、長期的には不適切な情報であるとしても、短期的に株価を上げられる情報を出すことが出来るとすれば、たまたまその時の株主には、歓迎すべき情報提供と言える。つまり、時価総額経営を標榜する上場企業にあって、株主は、経営者に対する有効なチェック役として十分に機能するとは期待できない。
 ホリエモンのブログを読むと、たとえば、株主からのものとおぼしき書き込みに、ホリエモンのIRミーティングが、株価上昇に寄与することを期待する内容のものが見られたことがある。たとえば、IRが株価の上昇に寄与するとした時、儲かるのは今の株主であり、損をするのは後から株を買う新しい株主だが、古い株主と新しい株主の両方に対して(付け加えると株主にならない投資家に対しても)フェアでなければならないのが、上場企業経営者の義務である。経営者が、先に定義したような意味での「時価総額経営」に走ると、企業はこの義務からの逸脱する危険が大きい。
 2000年春に崩壊したネットバブルの際にも、一部の企業で、時価総額を経営目標とする時価総額経営が標榜され、結局上手く行かなかった、という経験があったが、今回のライブドア事件も、時価総額経営が欠点を露呈したケースの一つに加えていいだろう。ホリエモンは、株価を利用しつくして成り上がった男だが、株価の重圧とこれを操作する誘惑に負けたと言えるだろう。
 こうした構造を踏まえた上で、投資家は、経営者の行動に注目することが有益だと思う。 全ての企業においてそうだとは限らないが、控えめに見ても、①過大な投資と収益計画を発表する「大風呂敷経営」、②派手なM&A、③株式の換金や株式交換によるM&A、といった行動を経営者が取る場合には、経営者は、自社の実力よりも株価の方が高いことを、なにがしか認識している可能性が大きい、ということだろうと解釈できる。
 実は、今年の楽天証券新春講演会で、私は、投資のヒントの最後に、経営者の行動を見よう、というようなことを申し上げた。もちろん、私は、あの時点でライブドアに関してこんな問題があると分かっていたわけではない。無理に見えるM&Aなどは、株価が高すぎるという意味で要注意の会社のサインとして解釈できる、というような理由で、経営者の行動に注目しようと申し上げた。米国の投資のアプローチの一つとしても、インサイダー(経営者、大株主など、企業の内部者)の株の動きと行動に着目するやり方がある。経営者をはじめとする企業の内部者が、株価に対してどのような見解なり気持ちなりを持っているのか、という視点で企業を評価するアプローチは、有効だと思う。
 尚、ライブドアのような会社を評価する場合には、事業部門毎の利益を見るべきであり、特にM&Aで嵩上げされた売り上げや利益をそのまま成長率と見るべきではない。
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ホリエモン論の構成案

ライブドアの堀江貴文容疑者について、あるホームページに小文を書いてみることにした。私が知っているのは、本人を、直接に、ということではないから、彼の対外的な通称である「ホリエモン」を論じる、ということにしたい。

大まかな構成と簡単な要旨は以下のような感じ。

<まえがき> 
なぜ、私は、ホリエモンについて書くか。今や「堀江容疑者」だが、それでも、「ホリエモン」に対する支持は皆無ではない(少なくとも森内閣の末期よりも支持率が高い)。彼は、有能だったのか? 或いは、何が魅力だったのか? 彼の経営に特別な何かがあったのか? 等について考えてみたい。但し、私は、彼を直接に知っているわけではない、ということは、私は、堀江貴文本人そのもの、ではなくて、外から理解可能な「ホリエモン」について論じていると自覚すべきだ。

<1.容疑者・ホリエモン>
個人的には、子会社でも本体でも「粉飾の指示」と報じられてからは、ホリエモンは多分無罪にならないだろうと思った。実質的には、資本取引を売り上げや利益にすり替える「粉飾」と、株価操縦やインサイダー取引の有無が重要なのだろう。子会社の「偽計」や「風説の流布」は容疑の立証に関しては手堅いのだろうが、市場から見た印象としては本件ではない。とはいえ、最近報じられるように、本人の隠し口座がスイスのPBにあるとなると、確信犯的であると共に、かなりの悪人だともいえる。但し、ホリエモンの話を離れて、メールが簡単に証拠採用されるようだと、これからがちょっと怖い。

<2.社長・ホリエモン>
ビジネスと組織を動かす社長としてのホリエモンは、ドライな合理主義者だが、考え方と経営方針は、平凡で、且つ堅実でさえある。成果主義的であり、かつケチだ。会社は人を使う仕組みだ、という彼の理解は正しいし。加えて、営業の重視など、案外シンプルな経営をしている。「稼ぐが勝ち」のメッセージはそれ自体として正しいのだろうと思われる。

<3.経営者・ホリエモン>
彼は株価を徹底的に利用した人だったが、株価を作り/維持するためには、結局、「高い株価が当たり前!」のような顔をせねばらならなかった。もちろん、堀江容疑者本人は株価をさんざん利用しているが、そのうちに、株価に合わせてライブドア・グループを経営しなければ行けなくなった。粉飾に至った理由はエンロンとよく似ている。株価を利用しつつも、最後には株価(操作)の誘惑に負けた。

<4.タレントホリエモン>
彼は、自らが広告塔であることを弁えていた。マスコミへの登場は商売のためだった。容姿に恵まれなかったことも幸いであり、かえって「ホリエモン」人気につながっていた。若者には自己投影しやすかった。また、歯切れの良さと表現の分かりやすさは、歩くビジネス書のようだった。「年寄りの説教は無駄」というのもその通りだし、「東大は入るところに(入試を通ったという事実に)意義があり、卒業は不要だ」というのもその通りだった。

<5.人間・ホリエモン>
資質的には普通の人レベルなのだろう。だが、集中力と論理性には一定の評価ができる。大学入試で頑張った成功体験がベースにあるようだ。しかし、(たぶん)幼少時代に辛い育ち方をしたためか、金を稼いで世間を見返したい、というような風情があった。彼の自己正当化は強烈なので、取り調べではなかなか簡単には落ちないだろうと思う。

一言で言うと、なんだか、寂しい奴だね。
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ライブドアショックの翌日

前場、日経平均は、310円高。マーケット全体に対するショックは、取り敢えず収まったようです。朝のテレビ(とくダネ!)では、「ライブドア以外の銘柄の業績には関係ないのだから、むしろ買いチャンスです」と証券会社のオッサン(まあ、その通りなのだけど)的なことを言って、自分では少し気が滅入っていたのですが、理屈通りリバウンドしてくれて良かった(市場の反応に「良かった」と感じるのも情けないが)。

それにしても、テレビでも話しましたが、450万件が処理の限界で、300万件に乗っていたのに、対策を取っていなかった東証の責任は重いのではないでしょうか。それなのに、東証の西室社長は「ライブドアへの強制捜査が原因であることは明らか」と責任はないと言いたげな態度でした。彼は東芝出身の民間人トップですが、もう東証の官僚的体質に染まったようです。

ところで、ライブドアの強制捜査と株価下落がショックとして波及するメカニズムの中で同社株の担保掛け目をゼロにしたマネックス・ビーンズ証券の措置の影響は大きかった。「担保としての価値を認められない」という、会社側の信用リスク管理の感覚は理解できるとしても、顧客にとっては、二重に「想定外」の事態となったわけですから、これはキツかった。顧客の側の予測可能性の問題としてどうだったのか、些か顧客に厳しすぎなかったか、ということは考えさせられました(はっきり「悪い」とまでは言えませんが)。

そういえば、マネックス・ビーンズ・ホールディング社長の松本大さんと本を出していた、眞鍋かをりさんが、「とくダネ!」のコメンテーターでこの日出演していました。何だか、マネックスの人が居るような錯覚を覚えました。

この番組で報道された内容については、「楽天証券の投資評価 A(最高)→E(最低)へ」という字が画面に出たので、これにも触れておきます。本当は出して欲しくなかったのですが、フジテレビが調べてきた事実なので、私としては敢えて削除は求めませんでした。(解説者が報道をねじ曲げてはいけませんから)

これは、楽天証券のアナリストによるものですが、事件の以前に投資評価「A」であった、と出たのは、会社としては正直なところ、何とも格好が悪かった。しかし、アナリストを弁護する訳ではありませんが、財務を分析し、会社訪問を重ねても、粉飾を見抜くのは難しい。会社側に本気でごまかされると、殆どの場合、どうにもなりません。

レポートを書いたアナリストは、外資系証券出身の一流アナリストで、かつて日経金融のアナリストランキングでトップだったこともある人です。私の知る限り、知識アイデア共に豊富ですし、人柄も誠実で、何よりもこの仕事に対して熱心な方です。それでも、ライブドアの粉飾は分からなかった、というのが現実です。

投資家としては、専門家(アナリスト、ストラテジストなど)の判断は、あてにならないものだという現実を前提として強く意識すべきだと思います。もっとも、これは、悪いことばかりではなくて、株式市場では、情報の上でプロとアマの条件は、ほぼ同等なのだということでもあります。これはこれで、象徴的、教育的なケースなので、敢えて書いておきます。
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株価が高過ぎるときに会社に何が起こるか

週刊ダイヤモンドの連載「マネー経済の歩き方」などでも取り上げたことがあるが、企業の実体価値よりも株価が高い場合に、経営者がどの様な行動を取るか、という問題は興味深い。

エージェンシー・コスト概念の生みの親であるマイケル・ジェンセンの最近の論文によると(「週刊東洋経済」の巻頭コラムで慶応大学の池尾教授が取り上げておられた)、株価が低い場合には、ストック・オプションで経営者にインセンティブを与えるなど、エージェンシー・コストを低下させる方策があるが、株価が高すぎる場合(時価総額が企業の実力よりも大きすぎる場合)、成長力を見せるための余計な投資、採算の悪いM&A、大風呂敷な経営計画、ひいては決算の粉飾など、株主にとって「最適」ではない経営が行われて、社会的にも大きなエージェンシー・コストが発生するが、これに対する適切な対策は無いという。

上記のような、一口に言って、”エンロン的大風呂敷経営”のコースの他にも、株価が高いときに行われやすいのは、①エクイティー・ファイナンスによる資金調達、②オーナー経営者の持ち株売り出し、である。

①は、株価は適切に形成されているという、伝統的な行儀のいい前提の下では既存株主も新株主も損得無しだが、株価が明らかに高過ぎる状況では、既存株主(経営者も既存株主であることが多い)は割高な企業実体の隙間を新規株主の現金で埋めることが出来て得だし、経営者は、現金を得て倒産リスクが低下し自分が安泰になるのと共に、事業拡大=大風呂敷の裏付けのための資金を得ることができる。一方、もちろん新規の株主は割高な株を買うのだから損をする。この情報非対称な損得の発生と、これを正当化する大風呂敷による効率の悪いはずの投資も、前記のエージェンシーコストに加えて良いかも知れない。

②は直接的な割高株の売り抜け行為であって分かり易い。分かり易すぎて露骨でもある。

①、②のようなメリットを、特にオーナー経営者(自身の給料の上下よりも株価の上下の方が重大な影響を持つ経営者)が、割高なうちのメリットの確保を間接的に達成する方法は、エクイティー・ファイナンスによる資金調達を行って実体のある企業を買う方法であり、ファイナンスの手間が省けるのが、株式交換によるM&Aだ。

昨年のライブドアや楽天による、地上波TV会社株式の大量取得についても、第三者的には(私は楽天グループの会社に勤めているが、楽天のTBS株には何ら関与していないし、内部情報を持っていない)、上記のような、「時価総額の一部を実体のあるビジネスに入れ替える目的かな」という推測がどうしても頭から離れなかった。借り入れで株を取得した後に、エクイティー・ファイナンスして借り入れを返済すると、出来上がりの効果は似たようなものになる。

フジテレビは実に商売が上手いし、TBSには赤坂の土地がある。地上派TVの免許やコンテンツ以外にも経済価値がある。安定した価値があるからといって、電力会社の株を買っても格好が良くないから、放送局は手頃なのか、などとも考えた(この辺まで来ると、邪推が過ぎるかな)。

ただ、今のところ、コンテンツをネットで配信するビジネスには特定TV局との資本提携よりもコンテンツの提供者と仲良くすること(支配じゃなくて)と、配信に関するビジネスモデルとインフラの確立が重要だったように見えるし(たとえば最近、Googleが発表したビデオ配信ストアの試みは面白い)、世の中のデジタル化に加えて、自身もデジタル化が予定されるときに、地上波テレビのメディアとしての相対的に有利な地位がどれだけ続くのかにも疑問がある。どうせお金を使うなら、USENのように自身でネットTVを持つようなアプローチ、さらにコンテンツの制作者を囲い込むようなアプローチの方が面白いのではないかと思うのだが、さて、どうなのだろうか。

エージェンシー・コストの話から脱線してしまったが、エクイティー・ファイナンスが予想/発表された際には株価が下がりやすく、「発行株数増によるダイリューション(希薄化)が嫌気されて」というような説明がされることが多いが、これはむしろエクイティー・ファイナンスの持つ、情報としてのシグナリング効果(ファイナンスしたくなるくらいだから、どうせ株価は割高なのだな)が投資家に見透かされているから、ということもあるではなかろうか。

資金調達は株式市場の本源的機能の一つで、成長資金の供給という理念は美しいが、世の中では他人が積極的に「売りたい」と言っているものは割高なものである、というのもまた真理だ。

株価全体が底上げされてきたことで、これからエクイティー・ファイナンスが増えるかも知れないが気をつけよう。特に、経営者の持ち株の売り出しが絡むようなケースには要注意だ。目下、多くの企業の設備投資は、キャッシュフローで十分賄える水準に収まっているのだから、資金調達に対しては、その意図を十分に読むことが大切だ。証券会社が、引受手数料ほしさに、経営者をそそのかして資金調達するようなケースが相当混じる可能性がある。
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株式市場にバブル発生

来週月曜日配信号のJMMのお題は「2006年も株価は上昇をつづけるか?」。「上昇を続ける」、「まだバブルではない」というような原稿を書こうと思って、いざ書き始めてみると、どうも説明が上手く行かない。

詳しくは来週のJMMを見て欲しいが、結局、これ以上の株価上昇はバブルであり、「買いが、買いを呼ぶ」というポジティブ・フィードバックの現象に過ぎないという結論になった。

それにしても、同じ原稿に書いたが、2000年4月の銘柄入れ替えによる日経平均の不連続性は深刻だ。日経平均が正しくつながっているとすれば、現在の株価は、大体2万2千円から2万3千円くらいの水準にある。

何れにせよ、これ以上の株価上昇に対しては、かなりの「疑いの目」が必要に思える。
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誤発注問題で一番大切なこと

みずほ証券がジェイコム株について誤発注し、300億円ともいわれる損をした問題の余震がおさまならい。主な論点として、以下のようなものがある。

① 東証の責任。システムのミスは認めたが、さて、幾ら負担するのか。
② 東証の態度。問題が生じた時の、「みずほ証券の初歩的な問題であり、東証の問題ではない」と言わんばかりの態度の感じの悪さは忘れまい!
③ プロ(証券会社の自己勘定取引)どうしでも約定の取り消しが出来ないモラルが低く、かつ不自由なマーケットは、このままでいいか。
④ みずほ証券と東証の発注・受注システムの問題。システム開発会社の責任はどの程度か(東証は富士通)。ゼロではないだろう。。。
⑤ 東証の組織のありかたと、後任の社長がどうなるか(当面は西室泰三氏会長が兼任)。たとえば上場審査部門などは分離が求められるだろう。
⑥ みずほ証券経営者の責任問題(まだトップの進退がはっきりしていない)。
⑦ 大儲けした証券会社の利益の問題。基金に拠出するのがいいか、自分のものにするのがいいかどうか(世評リスクの問題の他に、株主の利害も絡むのでややこしい)。
⑧ 個人で大儲けしたネット・トレーダー(20億円とか、5億円とか)に対する世間の嫉妬と、「働かずに儲ける」風潮への批判。

だが、この際大切なのは、誤発注した担当者の精神的なケアではないだろうか。人間は時々ミスをするものだし、今回は幸い立派な会社(ちょっと皮肉も込めて)だったから、巨額のお金を負担することができた(考えてみると、中小証券だとどうなっていたのか・・)。金額こそ少々大きいとしても、ごまかしをしたわけではないし、悪いことをしたわけではない、単純ミスでり、幸い「カネで済む問題」でもあった。

以上、来週・月曜日配信のJMM(Japan Mail Media。編集長・村上龍氏のメルマガ)のテーマがこの問題だったので、その原稿の内容を考えているうちに思ったことだ。もちろん、JMMには別の論点の原稿を書くつもりだ。
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