yaaさんの宮都研究

考古学を歪曲する戦前回帰の教育思想を拒否し、日本・東アジアの最新の考古学情報・研究・遺跡を紹介。考古学の魅力を伝える。

「藤原宮大嘗宮跡」と「長岡宮西宮跡」報道にみる考古学による都城研究の現状を憂う-1の条

2010-12-29 18:09:16 | 歴史・考古情報《日本》-1 宮都
 2010年も終わろうとする時期に相次いで都城に関する重大な発表があった。一つは奈良文化財研究所による訂正発表、もう一つは財団法人向日市埋蔵文化財センターによる新発見報道であった。

 前者は今年の夏に同研究所が大々的に発表した藤原宮朝堂の朝庭から大嘗宮跡が発見されたという発表が間違っていたという報道であった。後者は発見された遺構が過去の調査成果と合わせて検討した結果「西宮」という長岡宮初期の内裏跡だったという報道であった。後者については次回詳述する。

 前者の報道に関してはネットのニュースでみたような記憶があるだけで、当時超多忙で見に行こうとする元気もなく聞き流していたところである。「ま、あるべきものが見付かったと言うことか?」という程度だったのかも知れない。

 ところが、これが調査担当の誤認で、溝を柱穴と間違って認識し、朝庭に柱穴があれば大嘗祭をやった跡に違いないと決めつけて発表したものだったというのである。溝を柱穴と間違うとはどういうことなのか?ニュースを聞いただけではよく判らなかったのだが、上層にある石敷きを外したところ、下から出てきたのは溝であって、柱跡ではなかったというのである。報道はそれだけなのでなぜこんなことが起こったのか未だに私にはよく判らないのだが、では、下から見付かった溝とは何なのか?上層にあった石敷きは外してしまうべきものだったのか?その事実関係がさっぱり判らないのである。どんな調査にも誤解や間違いはあると思う。複雑に錯綜する地層を時間もない中で発掘調査させられる緊急調査ではそれなりに起こりうる事態である。しかし、藤原宮朝堂院と言えば国の特別史跡である。国宝なのである。だから調査は慎重に、丁寧に、時間をかけて、日本一優秀な調査担当者が調査してきた。遺跡を護りながらの調査だから、上層に重要な遺構が見付かれば、どうしても下層の調査は十分にはできない。

 しかし、遺跡は永遠に残るのだから、研究が進み、下層をどうしてもみる必要があれば再調査することができるので、一旦は上層の調査で終わることになる。実際これまでにもそうした再調査はここ数年で何度かなされている。だから本来なら今回もそうすべきだったに違いない。しかし、下層に「見付かった」遺構が大嘗宮となるとこれは大ニュースである。文献史料を裏付けることになるからだ。ならば上層を飛ばしてしまおう!ということだったのかも知れない。事実は不明だが、結果的にはその様に上層の石敷きは外され、消えてしまった。ところが、結果として出てきた下層の遺構は溝だったという。溝をどうしたら幾つもの柱穴に間違えることができるのか?私にはこの点も不可解だが、事実はそうだったらしい(後日、奈文研を最近退職された先輩研究者と話すと「遺跡破壊だ!何でそんな下手くそに掘らすんや!」と怒っておられた)。

 これについてある新聞社から感想を求められたが、その時は事実関係もよく判らなかったので曖昧な意見しか述べられなかった。しかし、今改めて考えてみると、やはり、「功を焦った!」と言われても仕方のないことかな、と思う。近年のマスコミの考古学報道はすさまじい。特に西日本、関西の報道は飛び抜けている。纒向遺跡での大規模建物発見以来の「固有名詞報道合戦」の体をなしている。「邪馬台国」「斉明天皇」「太田皇女」等々。それもほぼ確実と表現される。

 確かに、「大きな建物を見つけました」、「変わったお墓が判りました」、では誰も見に来てくれない。この頃は行政もいかにたくさんの市民の支持を得るか、これが問われるから、発掘調査も公費を使う限り、多くの市民に関心を持っていただかなければならない。そのために一番宣伝効果が高いのがマスコミ報道である。
 そのマスコミ取材で記者は必ず聞く

 「どこが今回の成果なんですか?日本で一番ですか?最古ですか?誰のものですか?・・・・」等々。

 最古でも最大でも、誰のものかも判らない遺跡ならせいぜい地方版に小さく出る程度である。だからといって嘘を言うわけには行かない。例の「旧石器ねつ造事件」はこのことを厳しくいさめているからだ。ではどうするのか。明確な証拠がない限り、いくつかの可能性を提示し、そのどれかが有力である、どちらかというとこちらのの考え方に分がある、等とするのである。それなりに無責任にも聞こえるが、最終的には正式な報告書できちんと資料を提示して考察するのであるから、それは仕方のないことである。後は新聞記者の「判断」に任される。

 当日大した記事がなければ大きく報道されるし、政治的な大事件とぶつかれば記事にすらならないことも度度である。実際、記事がなければ最近ではカラーで新聞の一面に載ることもしばしばである。こうなると関西では万を超す見学者が押し寄せる。

 そんな中で「藤原宮朝庭から大嘗宮跡発見」と報道するのには相当の勇気がいる。確信する材料があるからだと受け取る側は判断する。特に奈良文化財研究所の発表ならである。

 これが間違っていたと言うことになると、影響は甚大である。信用問題となる。会社なら倒産にいたる可能性もある。だから驚いたのである。

 しかし、その予兆は以前からあったような気もする。この頃奈良文化財研究所の現場を訪ねても機械的なことしか説明してくれない調査員が多いのである。いくら質問しても「さー」「知りません」「アーそうですか?」という返答が返ってくることも少なくない。昔なら聞かなくても

「この調査地の隣ではどうだ、さらに何年前の調査がこの辺りで行われてどんなものが出ているから、だからここからでたこんな遺構でもこうしてある施設の一部だと言えるのだ」

と、それくらいのことは知って見に来てるだろうな?と言われんばかりに説明して頂けたものだ。だからもちろんこちらもそれなりに勉強して出かけたものだ。それがこうも変質するのか、と最近では思わざるを得なかった。何でも職員の採用が機械的で、試験、試験、試験のその数値のみが評価されて本人の意欲など評価外だとも聞く。そんな職員だから、直ぐに別の職場での採用があると出ていってしまう新人もいるとか。寂しいことである。

 先日の木簡学会でも、平城宮東方官衙から発見された養老年間の木簡の包含されていた遺構の説明をした調査担当者は何の疑いもなく

 「木簡は整地層から出ました」

と説明した。
「アーそうなのだ、平城京造営当初に大規模な整地が行われ、初期の建物群がこの地にできたのだ。養老の改作の資料なのだ。」
と思った。ところがスライドをみるとその層は真っ黒な色をしており、なおかつ腐食物の多い地層だという。さらによく見ると「整地層」の「端」が写っていて、その端に延びる層を切って遺構がある。???この「整地層」は広い範囲に延びる大きな落ち込み(平城宮造成前からあった凹み等)ではないのですか?」と質問したが、「トレンチは限られているが、「包含層」が浅くて広範囲なので整地層だ」と。要するに浅くて広ければ整地層と言うことらしい???

 「でも普通は整地というのは何か目的があってする造成工事で、平城宮ならば、それも初期の段階ならば宮城内の官衙を建てるためのものでしょうから、こんな腐ったような土を使うことはないのではないのですか?こんな土を使ったら上にできる施設は歪みますよ。平城宮遷都段階にこの地域が低湿地で、水溜まりのような凹みとなっていて、そこに遷都後の遺物がたまっていたのではないのですか?だからこれは大きな凹み(考古学では土坑という)に入っていた遺物と評価した方がいいのではないですか?」

 こんな疑問を投げかけたのだが、芳しい回答は頂けなかった。

 ことは平城宮がどの様な形で造営されていったかを知るとても重要な事柄なのである。但し、そうした課題は一般的にはあまり関心を持たれない。つまり、「○○宮殿発見」とか「□□氏の邸宅跡!」など、説明しなくても直ぐに理解してもらえそうな遺構なら興味をもって調べるが、そうでないと大した追究もしない、まるで素人と同じ立場なのではないかと疑いたくなる。やはり、この担当者も余り平城京のことに関心がないのではなかろうか、そう思ってしまうのである。

 みんなサラリーマン化しているのである(サラリーマンに失礼な言い方だが普通こう言うらしい)。17時までは与えられた仕事をそれなりにこなすが、後は自分の世界。自分の研究に没頭する。こんな職員が増えているのではなかろうか。もしそうだとすると、藤原宮跡や平城宮跡がかわいそうである。

 試験に強い、優等生ばかりを集めた結果がこうした事態を引き起こしているとしたらこれほど寂しいことはない。何事も個人の能力や突発的な事情で起こるものではない。どこかにその原因となる事態が潜んでいるものである。研究所全体にそんな事態が進行しているとするとことは重大である。都城研究が危機に立たされていると言っても過言ではなかろう。「遷都1300年で数百万人の入場者!」、「せんと君がモテモテ」等と浮かれている場合ではない。日本の都城研究の危機が進行していると自覚すべきではなかろうか。

 そして、背景は異なるが同じような深刻な事態を呈したのが「長岡宮西宮発見」の報道であった。長くなったので次回にその詳細を論ずる。

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