ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ワイルダー「危機一髪」

2012-07-17 15:22:51 | 芝居
6月11日俳優座劇場で、S.ワイルダー作「危機一髪」をみた(劇団昴公演、演出:鵜山仁)。
2時間45分かかる大作。
氷河期・洪水・地震・戦争。数々の困難を、知恵を武器に危機一髪で乗り越えてきた人類の歴史を、悠久の日々を生き抜いてきた
アントロバス(人類)夫妻を軸に描く。

ジョージ・人類氏と妻マギー、息子ヘンリー、娘グラディスの4人家族とメイド兼ジョージの愛人(!)サビーナが暮らす家。
ヘンリーの額にはC の緋文字が記されており、以前はカインという名前だった(!)という。

八月だというのに氷河が南下しつつある米国ニュージャージー州。メイドのサビーナ(米倉紀之子)が観客に向かってこの一家
のことをあれこれ説明していると、吹雪の中、郵便局員が電報を届けに来る。窓からマンモスと恐竜が顔を出す。どちらもサイズは
ごく小さく、人間位。片方はフレデリックという名前までつけられてて2頭共半ば飼われている様子。2頭が寒がるので彼らは中に
入れてやる(!)。暖炉に当たる彼らは何とも可愛い。
ジョージ(金子由之)が帰宅。彼はアルファベットと数字と車輪を発明した人で、いつも何か発明している。窓外に難民のような人々
が押し寄せる。彼は家族を説得して彼らを中に入れる。彼らの正体は、哲学者孔子、ホメロス、医者(ヒポクラテス又は野口英世)、
そして3人の白髪の老女たち(それぞれ楽器を奏する。つまりミューズだが9人は多過ぎるので3人にしたらしい)だった。
息子ヘンリーがパチンコですぐに人を攻撃するため両親は苦しむ。マギー(姉崎公美)は死んだ息子アベルを追想する(!)・・・。

海辺にやって来た一家。警報の目玉の標識が1つ出ている。1つだと大雨注意報、2つだと暴風雨、3つはハリケーン、そして
4つになったら世界の滅亡だという。妻はレインコートを4人分買いに行く。美人コンテストで優勝した若い女(名前は
ノーテンキ)がジョージに接近。彼女は「サビーナによく似ている」。夫は彼女の色仕掛けにメロメロになるが、娘グラディスが
赤いストッキングをはいていると激しく怒り、責める。
警報がレベル4になり、箱舟にあらゆる動物がひとつがいずつ乗ることになる・・・。

元の家の中。長く続いた戦争が終わったらしい。サビーナがマギーとグラディス母娘と再会する。娘は赤子を抱いている。
3人と入れ替わりに息子ヘンリーが登場。そこに父が帰宅すると、息子は憎しみをむき出しにして襲いかかるが・・・。

とまあストーリーを追うだけでも、これがいかに奇想天外な、壮大な規模の芝居か分かっていただけるだろう。しかも、途中で
いきなり役者が芝居をやめて、なまのセリフを語り出す。これも例の異化効果というやつか。
最後に何人かの役者によって古今東西の名セリフが朗読される。その前にリハーサルをやるのだが、旧約聖書の冒頭の数節
「初めに、神は天地を創造された・・」だけはリハーサルを省略。つまりその珠玉の数節は一度しか舞台に響かない。そこに
いたく感銘を受けた。たった一回しか語られないからこそ、胸に染み入るのだ。

劇団昴と言えば、2005年の「ゴンザーゴ殺し」(ヨルダノフ作)、そして2007年の「うつろわぬ愛」(チェーホフ原作)
がいずれも強烈な印象を与えた。米倉紀之子は前者では旅回りの一座の若手女優役で、この時から独特の低い声が魅力的だった。
後者では次男の年上の妻リーナ役で、勝ち気で、ついには一家を乗っ取ってしまう怖い女を迫力たっぷりに好演。
今回はますますパワーアップして(?)舞台上で芝居を引っ張る(引っ掻き回す?)。
他の役者たちもみな熱演。

「わが町」で知られる作者ワイルダーは、こんな芝居も書いていた。この作品で3度目のピューリツァー賞を受賞した由。







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