ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「ルル」

2021-09-07 11:11:15 | オペラ
8月31日 新宿文化センターで、アルバン・ベルク作曲のオペラ「ルル」を見た(東京二期会オペラ公演、演出:カロリーネ・グルーバー、指揮:マキシム・パスカル、
オケ:東京フィル)。

かつて貧民街で暮らしていた少女ルルは、新聞社の編集長シェーン博士に拾われ、彼好みの女性として成長する。次第にルルは妖艶な魅力を放つようになり、
シェーンは彼女と関係を持つ。ルルと愛人関係を続けるシェーンだが、彼は高級官僚の娘と交際を始め、ルルを初老の医事顧問と結婚させてしまうのだ。
ある日、ルルの肖像画を描いていた画家が彼女に魅了され、言い寄り始める。事の次第を知った夫の医事顧問は心臓発作で死んでしまう。ルルは画家と
再婚するが、ルルの汚れた過去の真実を知り、彼もまたショックで自殺する。
ルルはついに望み通りシェーンと結婚する。しかし男女を問わず怪しげな信奉者たちとの関係を続けるルルに、嫉妬で常軌を逸したシェーンは、ルルに
拳銃を持たせて自殺を強いるが・・・(チラシより)。

現代音楽は苦手だった(特に無調の曲)。しかもこのオペラは、ストーリーが、何と言うか身も蓋もないので、今まで見たことがなかった。
今回も、改めてあらすじを読んで、なんでまたこんな話に曲をつけたくなるのかと思ったが、演奏を聴いて、ようやく分かった。
コケットな女、femme fatale と、その魅力に何とかして抗しようとあがくが、結局抗しきれずに滅びてゆく男たちというのは、素材としてそそるに違いない。
冒頭からラストに至るまで続く音の豊かな響きと深く多彩な表現力に、この作品が20世紀オペラの最高峰と称えられていることが、やっと納得できた。

初演は1937年。ベルクは2幕までしか完成させておらず、1978年にツェルハという人が3幕を補筆完成させた由。
今回は、2幕の後、ベルク自身が書いた Variationen という部分を演奏し、その間、ルルとルルそっくりの人形が絡み合う演出だった。
原作はヴェーデキントの戯曲「地霊」と「パンドラの箱」で、台本は作曲者自身による。
原語(ドイツ語)上演、日本語と英語の字幕付き。日本語の字幕は左右両サイドに縦書き、英語は上方に横書きで表示された。
例によって目が忙しかったが、楽しかった。
この日はシェーン博士役が宮本益光から加耒徹に変更された。ルル役は森谷真理。

ルルの二人目の夫は原作では画家だが、今回はなぜかフィギュア作家という設定。
それもあり、演出はマネキン(フィギュア)をたくさん使う。冒頭、一体の真っ赤なニーソックスと白い下着のような恰好の、ルル役の歌手と同じ恰好をした人形が
いる。そのうち、それと同じ人形が6体も出てくる。中には本物の人間も混じっている。ただ、その意味するところは不明・・。

見ていてドストエフスキーの「白痴」を思い出した。そこでもやはり、貧しいが美貌の少女が裕福な男に拾われ、育てられ、愛人にされる。彼女は男に結婚話が
持ち上がると、それを阻止するために押しかける(ただ「白痴」の場合、女は特に彼との結婚を望んでいたわけではなく、若い頃に踏みにじられた尊厳への恨みを
何とか晴らしたい一心なのだが)。

途中、音楽だけの場面が長いが、映像を使ったりダンサーが踊ったりして間を持たせるように工夫している。

ラスト、ルルに献身的な愛を捧げるゲシュヴィッツ伯爵夫人のセリフ(歌:ここはツェルハ作曲)があるのに夫人が登場せず、歌声だけが聞こえ、ダンサーが
夫人の代わりにルルと抱き合う。
どうしてこういうことをするのか。またしても意味不明。

演出には若干違和感があったが、この日は久し振りのオペラを堪能できた。しかも20世紀の音楽なのに、心地良く耳に響いてびっくり。私の耳もようやく
ベルクの音楽に慣れてきたらしい。オペラ「ヴォツェック」を2回も見てきたお陰かも。


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