ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「ベルファゴール」

2017-03-16 23:00:54 | オペラ
2月5日新国立劇場中劇場で、レスピーギ作曲のオペラ「ベルファゴール」をみた(演出:馬場紀雄、指揮:時任康文、オケ:東京オペラ・
フィルハーモニック管弦楽団)。
日本初演。
悪魔ベルファゴールが地獄から使命を帯びて地上へやって来る。悪魔はミロクレートをうまくたぶらかし、彼の3人の娘のうち末娘カンディーダと
結婚することになるが、貞操を奪えない。カンディーダにはすでにバルドという恋人がおり、母親の助けを得て駆け落ちに成功する。しかし
悪魔はバルドを揶揄し、いかにも貞操を奪ったかのように振舞う。娘は証拠が見せられないので悩み、神に祈る。その時、それまで鳴らなかった
教会の鐘が鳴り響き、彼女の貞操を証する奇跡が起きる(とこれだけ読むと、何それ?!だが・・・)。

第1幕
バルドが窓の下でカンディーダを呼ぶ。二人の長い会話。バルドは船乗りか?仕事に出ると寂しい、と互いに言い合う。ちと退屈。
彼女の父の前に悪魔が現れ、妻となるべき女性を探していると言う。父が「昨夜飲んだのはラクリマ・クリスティ(キリストの涙)というワイン
で」と言うと悪魔が苦しみ出して倒れるのがおかしい。そこに母と姉娘二人(黒髪と金髪)が現れ、娘たちは悪魔にしきりに自分の存在を
アピール。彼らが去ると悪魔は手下を呼び、一時間で料理を用意するよう命じる。そしてメニューを列挙するが、それがなかなか珍しくて面白い。
手下はメモ帳に羽根ペンで懸命にメモする。
長女が手袋を忘れた、と戻って来て悪魔と話していると、次女もお祈りの本を忘れた、と戻って来る。二人を相手に悪魔はカタログを出し(!)、
これまで関わった女たちの絵を見せながら「過去の女たちを忘れたい」と歌う。二人といちゃついていると、父が戻って来る。
悪魔は末娘カンディーダに会いたがり、いやがるカンディーダと二人きりになると彼女に言い寄り、宝石の名を列挙して多くのものをあげると
約束しながら彼女の手を取ると、カンディーダは驚いて悪魔の頬をひっぱたく。
すると悪魔は狂喜し、この人だ!と燃え上がる。
戻って来た父たちにそう宣言すると、父も受け合う。カンディーダは悲しみと困惑からバルドの名を呼び、母は「かわいそうな娘」と歌い、姉
二人は落胆を、父と悪魔もそれぞれの気持ちを歌う。

第2幕
悪魔に大金をもらい?父と姉娘たちは楽しげに飲み食いしている。カンディーダは純白のドレス姿。悪魔の手下が上着を着せようとするのを
カンディーダはまた平手打ちし、手下は怒って去る。悪魔も困り果てる。式を挙げたのに7日間も寝室に入れてもらえない、と父母に訴える。
バルドが父母のところに来て「娘を金で売った」と怒る。特に母親は二人の気持ちを知っていたのに、とも。
母が「正式に結婚してしまったからねえ」と言うと、カンディーダ「私はまだ誓っていません・・・」と言う。実は式の間、一心に聖母に祈って
いたのだと言う。その意味はよく分からないが、ここの音楽がいい。
カンディーダと話してバルドの怒りはようやくおさまる。二人は駆け落ちの約束をする。
カンディーダが一人でいると、悪魔が来る。カンディーダは初めて彼に笑顔を見せ、なびくような期待させるような甘い言葉をたくさんかけて
喜ばせる。ただし、今すぐでなく、身支度をするから15分待って、と言って去る。
悪魔は有頂天で待っているが、次第に疑いの念が湧いてくる。音楽が彼の心を描写して見事だ。しまいに階段を上り、カーテンを開ける仕草。
そこにカンディーダはいない。がっくりとうなだれる悪魔。
カンディーダとバルドは夜中に密かに聖職者を訪れ、話を聞いてもらおうとする。

場面は変わって、ボロをまとった老人と子供がどこかで手に入れたパンとニシンの食事を取ろうとしていると、近くで寝ていた男が目を覚ます。
やはりボロいコートを着ているので仲間かと思った二人は一緒に食事を、と招くが、実はこれは企みに失敗した悪魔の姿だった。
この町に悪魔が一人うろついているらしいという噂を聞いた、と子供が言う。教会の鐘が鳴らなくなったのはそのせいだとか、嫁さんをもらった
らしいとか、醜いらしいとか。それを聞いてむくれる悪魔がおかしい。
そこにバルドが来る。悪魔は彼に向かって、7日も一緒にいて何もないわけないだろう?悪魔は絶倫だぞとか何とか言って彼を嫉妬に狂わせ、
立ち去る(ここで初めて人間を苦しめるという悪魔らしいことをしたわけだ)。
カンディーダが来るとバルドは彼女を嘘つき呼ばわりし、カンディーダはバルドが自分を信じてくれないなら人生は終りだ、と言う。
ここで評者の感想:バルドはひどい奴だ。地獄に落ちればいい。少なくともカンディーダに土下座して謝るべきだ。こんな男にカンディーダに
愛される資格はない。
さて、バルドは更に、何もなかったのなら証拠を見せろ、と迫る。カンディーダは聖母マリアに救いを求めて祈る。ここの音楽がいい。
と、ついに鐘の音が聞こえて来る。バルドはカンディーダの手を取る。二人は抱き合う。幕。

すぐに分かるように、モーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」に似ている。カタログの歌とか、手下に料理の指図をするところとか。

台本がとにかくまずいが、音楽は素晴らしい。これはオペラではよくあること。
今回、演出がまずい。チラシの「あらすじ」の文章もひどい。
字幕もよくない。日本語としてさっぱり意味不明な文章があって困った。
ヒロイン・カンディーダ役の大隅智佳子は声はいいが、演技が下手。
このオペラ、悪役のはずの「横恋慕する悪魔」があまりに魅力的で人間的で、それに感情移入してしまうのが問題。それに比べてヒロインの
恋人が情けないのも困る。こんな男のどこがいいのか?やめなよ、と言いたくなる。

レスピーギのオペラは、2013年に見た「ラ・フィアンマ」(日本初演)が強く印象に残っている。
今回も(ツッコミどころは多かったが)素晴らしい経験ができた。



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