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地下鉄道


 コルソン・ホワイトヘッド  谷崎由依訳 早川書房

 アメリカはえらそうなことをいってるけど、昔はこんなひどいことをしていた。奴隷制度のこと。アフリカからアフリカ人を拉致して強制労働させていたのである。特大の拉致問題である。
 時は南北戦争の前、アメリカ、特に南部は奴隷制度が厳格にしかれていた。そこでは黒人は人間ではない。農園主の「所有物」だ。しかし、「所有物」であることを断固拒否、自由な人間であること求めて逃亡する黒人も多くいる。この逃亡黒人の逃亡を助けること、かくまう事は法律で禁じられていた。賞金目当てに逃亡奴隷を追跡捕まえる賞金稼ぎもいる。かような人もいるが、心ある人たちもいる。その人たちは奴隷黒人の逃亡を助ける秘密組織「地下鉄道」を作った。この言葉は比喩だが、実際に地下に鉄道を走られて黒人を逃亡させる人たちがいた。と、いうのがこの話である。
 15歳の黒人少女コーラは南部の綿農園で奴隷生活を送っていた。母親はコーラを置いて一人で逃げた。農園主や監督は残忍で黒人を人間扱いしない。ちょっとしたことで、すぐしばり首。
コーラは黒人少年シーザーにいっしょに逃げないかと誘われる。最初は断ったが、結局二人で逃げる。地下鉄道の「駅」に着く。そこには黒人に同情的な白人がいて、自由黒人になれる北部への汽車に乗せてくれる。そのコーラたちを奴隷狩り人リッジウェイが追う。プロ中のプロのすご腕ハンターのリッジウェイが追う。つかまれば南部へ連れ戻されしばり首だ。コーラは逃げおおせるか。
 アメリカの恥部をこくめいに描写した南部の綿農園のようすは、読んでいて痛みすら感じる。奴隷制という歴史上の黒い真実を描きつつ、地下を走る蒸気機関車という虚構を加えることで、読者の興味をそそり、それに逃げる者と追う者、サスペンスがページをめくらせる。重く暗いが一級のエンタティメントに仕上がっていた。 
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