雫石鉄也の
とつぜんブログ
五匹のコリドラス
コリドラス。ナマズ目カリクティス科コリドラス亜科コリドラス属に分類される魚である。南米の河川に生息する小型のナマズ。ナマズとしては非常に小さく、最大で10cm、多くは6cmほど。水中を遊泳することはなく、常に水底をはい回って、口のひげで餌をあさっている。底に沈んでくる他の魚の食べ残しを食べるので、水槽の掃除屋さんである。
人気のある熱帯魚で、小さくて可愛く、非常に多くの種類があるから、コリドラスのコレクションをして楽しむ熱帯魚マニアも多い。
きょうの仕事はきつかった。国道の中央分離帯の草刈りだった。このとしで野外の仕事は寒風が骨身にしみる。60を越すと市のシルバー人材センターの仕事ぐらいしかない。
きのうは個人のお屋敷の庭の草刈りだったから楽だった。大きな庭だった。温室があって、観葉植物やサボテン類といっしょに熱帯魚の水槽が置いてあった。120センチの大きな水槽だった。少しの間、仕事の手を止めてその水槽をながめていた。
帰りがけに、コンビニでおにぎり2個と漬物のパックを買った。それにきょうは賃金の支払いがあったから、小さい紙パックの酒を買った。月に一度の贅沢だ。
コンビニの袋をぶら下げて階段を上がる。今日は疲れた。足が重い。最近、疲れがたまっているようだ。いまどき珍しい文化住宅の2階、廊下のつきあたりが私の部屋だ。
鍵を開けて入る。待っている人はいない。私はひとり暮らしだ。暗い部屋の隅に明かりが有る。45cmの小さな水槽が置いてある。
「いま、帰ったよ。きょうはこんなモノが手にはいったよ」
小さなビニール袋をあけて中身をプラスチック容器に入れる。水の中で赤い糸くずがかたまってうごめいている。きょう、国道の横の溝で見つけた。糸ミミズだ。
糸ミミズを割り箸でつまんで水槽にいれる。5匹いるコリドラスが、喜んで食べ始めた。いつもはコリドラス専用のタブレット型の人工飼料を与えているが、やはり生餌を好む。昔は近くの観賞魚店でも糸ミミズを売っていたが、最近は売ってない。
水槽の底をチョコマカと泳ぎまわり、ヒゲで砂の間を探る。ヒゲに糸ミミズが触れると、吸い込むようにミミズを口に入れる。モグモグと口を動かし味わうように食べる。やはり人工飼料より美味しいらしい。
口をモグモグさせ目をクリクリと動かす。実に天真爛漫で可愛い。一日の疲れが取れる。家族のいない私は、この5匹のコリドラスが家族だ。
私の果物屋は繁昌していた。果物屋に、フルーツパーラーもやっていた。郊外に、きのう行ったお屋敷ぐらいの自宅を持っていた。そのころは120cmの水槽を三つ持っていた。一つはネオンテトラ、ラミノーズテトラ、プリステラといったカラシン科や、ダニオ、ラスボラといったコイ科の小型魚、一つはディスカス、エンゼルといったシクリッド科、そして、もう一つはアロワナを飼っていた。
人を信用してはいけない。2軒の店と屋敷を手放して、多額の借金を背負い込んだ。妻にも去られ、子供がいない私は、無一文の一人暮らしとなった。
借金を全額返済した時には60を超えていた。熱帯魚の飼育はけっこう金がかかる。温度管理が必要で冬はヒーターで水温を25度前後に保ってやらなければならない。エアレイションを欠かせないためポンプは止められない。
ほんとうは60cmの水槽を置きたいが、6畳一間には難しい。それに私の収入では電気代もバカにならない。45cmの小型水槽を一つだけ置いて、大好きなコリドラスを5匹飼っている。
コリドラス・パレアトス、コリドラス・アエネウス、コリドラス・ジュリイ、コリドラス・エクエス、コリドラス・アガシジイ。この5匹。全部で1000円でお釣りがくる。
国道の仕事は終わった。きょうから公園の掃除だ。いつものように帰ってきてすぐやることは餌やりだ。
「すまんな、糸ミミズはきのうでおしまい。いつもの人工飼料だよ」
タブレットを水槽に入れる。5匹のコリドラスがヒゲをふるわせながら動く。ヒゲが餌に触った。
突然、後頭部をぶん殴られるような痛みが襲った。スーと意識が遠くなっていく。身体が縮んでいく。細長い赤い糸のようになった。気がつくと回りは水だ。身体にじゃりじゃりと小石が当たる。これは小石ではない。大磯砂だ。水槽の底砂だ。横にある樹木は、水草のアマゾン・ソードプラントだ。
上からひもが降りてきた。ひもの先が私に触れた。スーと上に身体が持ち上がった。大きな空洞に吸い込まれた。
市の民生委員がその文化住宅を開けると。老人が一人で亡くなっていた。小さな水槽の底で小さな魚が5匹死んでいた。
人気のある熱帯魚で、小さくて可愛く、非常に多くの種類があるから、コリドラスのコレクションをして楽しむ熱帯魚マニアも多い。
きょうの仕事はきつかった。国道の中央分離帯の草刈りだった。このとしで野外の仕事は寒風が骨身にしみる。60を越すと市のシルバー人材センターの仕事ぐらいしかない。
きのうは個人のお屋敷の庭の草刈りだったから楽だった。大きな庭だった。温室があって、観葉植物やサボテン類といっしょに熱帯魚の水槽が置いてあった。120センチの大きな水槽だった。少しの間、仕事の手を止めてその水槽をながめていた。
帰りがけに、コンビニでおにぎり2個と漬物のパックを買った。それにきょうは賃金の支払いがあったから、小さい紙パックの酒を買った。月に一度の贅沢だ。
コンビニの袋をぶら下げて階段を上がる。今日は疲れた。足が重い。最近、疲れがたまっているようだ。いまどき珍しい文化住宅の2階、廊下のつきあたりが私の部屋だ。
鍵を開けて入る。待っている人はいない。私はひとり暮らしだ。暗い部屋の隅に明かりが有る。45cmの小さな水槽が置いてある。
「いま、帰ったよ。きょうはこんなモノが手にはいったよ」
小さなビニール袋をあけて中身をプラスチック容器に入れる。水の中で赤い糸くずがかたまってうごめいている。きょう、国道の横の溝で見つけた。糸ミミズだ。
糸ミミズを割り箸でつまんで水槽にいれる。5匹いるコリドラスが、喜んで食べ始めた。いつもはコリドラス専用のタブレット型の人工飼料を与えているが、やはり生餌を好む。昔は近くの観賞魚店でも糸ミミズを売っていたが、最近は売ってない。
水槽の底をチョコマカと泳ぎまわり、ヒゲで砂の間を探る。ヒゲに糸ミミズが触れると、吸い込むようにミミズを口に入れる。モグモグと口を動かし味わうように食べる。やはり人工飼料より美味しいらしい。
口をモグモグさせ目をクリクリと動かす。実に天真爛漫で可愛い。一日の疲れが取れる。家族のいない私は、この5匹のコリドラスが家族だ。
私の果物屋は繁昌していた。果物屋に、フルーツパーラーもやっていた。郊外に、きのう行ったお屋敷ぐらいの自宅を持っていた。そのころは120cmの水槽を三つ持っていた。一つはネオンテトラ、ラミノーズテトラ、プリステラといったカラシン科や、ダニオ、ラスボラといったコイ科の小型魚、一つはディスカス、エンゼルといったシクリッド科、そして、もう一つはアロワナを飼っていた。
人を信用してはいけない。2軒の店と屋敷を手放して、多額の借金を背負い込んだ。妻にも去られ、子供がいない私は、無一文の一人暮らしとなった。
借金を全額返済した時には60を超えていた。熱帯魚の飼育はけっこう金がかかる。温度管理が必要で冬はヒーターで水温を25度前後に保ってやらなければならない。エアレイションを欠かせないためポンプは止められない。
ほんとうは60cmの水槽を置きたいが、6畳一間には難しい。それに私の収入では電気代もバカにならない。45cmの小型水槽を一つだけ置いて、大好きなコリドラスを5匹飼っている。
コリドラス・パレアトス、コリドラス・アエネウス、コリドラス・ジュリイ、コリドラス・エクエス、コリドラス・アガシジイ。この5匹。全部で1000円でお釣りがくる。
国道の仕事は終わった。きょうから公園の掃除だ。いつものように帰ってきてすぐやることは餌やりだ。
「すまんな、糸ミミズはきのうでおしまい。いつもの人工飼料だよ」
タブレットを水槽に入れる。5匹のコリドラスがヒゲをふるわせながら動く。ヒゲが餌に触った。
突然、後頭部をぶん殴られるような痛みが襲った。スーと意識が遠くなっていく。身体が縮んでいく。細長い赤い糸のようになった。気がつくと回りは水だ。身体にじゃりじゃりと小石が当たる。これは小石ではない。大磯砂だ。水槽の底砂だ。横にある樹木は、水草のアマゾン・ソードプラントだ。
上からひもが降りてきた。ひもの先が私に触れた。スーと上に身体が持ち上がった。大きな空洞に吸い込まれた。
市の民生委員がその文化住宅を開けると。老人が一人で亡くなっていた。小さな水槽の底で小さな魚が5匹死んでいた。
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