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千年女優


監督 今敏
出演(声) 庄司美代子、小山芙美、折笠富美子、飯塚昭三、山寺宏一

 傑作。アニメにしか表現できない映像だ。時空を越え、現実と虚構が何重にも折り重なった、めくるめく映像が繰り広げられる。
 引退した大女優藤原千代子が30年ぶりにインタビューに応じる。70歳を越した千代子を訪れたのは、プロダクション社長の立花とカメラマン井田。立花は小さな箱を千代子に手渡す。その箱には鍵が入っていた。
 10代から女優として映画に出ていた千代子には生涯をかけて探していた人物がいる。若いころ、思想犯として官憲に追われている若い画家に出会った。彼はある鍵を千代子に預けて逃亡した。ほんの一瞬の逢瀬であったが、千代子にとって忘れられない人物であった。それから千代子は「あの人」に鍵を返すことが人生の目的となった。
 現実と千代子が出演した映画が、折り重なるように描写され、千代子の一途な愛が描き出される。ある時は戦国時代の姫。落ち武者となった「かの君」を追う。ある時は忍者、またある時は京の舞妓、また、敗戦直後の焼け野原の日本にたたずむ千代子、宇宙飛行士の千代子。どれが現実か、どれが映画か。もう一人の主人公たる「鍵を預けた画家」は名前すら与えられていない。
 いずれの場面にも登場する人物は、千代子はもちろん、先輩女優、官憲の顔に傷のある男。そして立花と井田。立花は必ず千代子を助ける人物として登場する。井田はどんな場面でも必ずカメラを回している。
 実は立花は若いころ、千代子が演技している撮影所で働いていた。そのころの千代子は手の届かぬ雲の上の人。千代子の想いに、立花の想いがオーバーラップしているわけだ。そして、それを冷静に客観的に見ている井田。さらに、それをもっと外から見ている、われわれ観客。何重にも入れ子構造になった、今敏の技巧の限りを尽くした傑作である。惜しいクリエイターを亡くした。
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