<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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「三匹のおっさん」

というタイトルを読んで、「三匹の侍」というテレビ番組を思い浮かべる読者は果たしてどのくらいいるのやら。
有川浩の読者は、私の勝手な思い込みだが「三匹の侍」を知らない世代が中心のはずだ。
従って、「三匹のおっさん」と読んで多くの若い読者の頭に浮かんだのは黒沢映画の「七人の侍」の方だと私は思っている。

最近のライトノベルの人気作家、有川浩の新作「三匹のおっさん」はいつもながら軽快で、アイデアに秀で、登場人物も生き生きとしている楽しい作品であった。
とりわけ主人公である三人のおっさんが面白い。
個性の使い分けが秀逸なのだ。

いずれも60歳代。
定年を迎えた男。
店を息子に譲った男。
そして、四十代をすぎてから授かった一人娘を育てる、初老というには酷な、町工場を経営する男。

どこにでもいそうな三人のおっさんが、町で起きる様々な事件に果敢に挑み、知恵と勇気と行動力で解決する。
その、どこにでもありそうなアイデアが、これまで無かったのが不思議でならない。
有川裕という作家を待って初めて実現した、現代サムライドラマだ。

ところで、この「三匹のおっさん」というタイトルはいささか引っかけの雰囲気がなくもない。
というのも、先に「三匹の侍」を連想する人はすくないと書いたものの、やはりこのタイトルには、そういう昔の痛快時代劇を意識したセールス戦略が感じられてしまうところも否定できないのだ。
私はこの本を書店で見つけたとき、内容はともかくタイトルに引かれてしまったことは正直なところだし、その作者が「阪急電車」の有川浩だということで、必要以上に内容に対して期待した部分も少なくはなかった。

この必要以上に期待したことが、内容に若干軽すぎる部分を見つけたとき、一種の失望のようなものを感じたことも、また事実なのだ。
その失望は初期の作品「空の中」を読んだ時に感じた詰めの甘さと、不自然さと共通しているように思われる。

それでも現代版捕物帳としての楽しさは認めねばならないだろう。

~「三匹のおっさん」有川浩著 文藝春秋社刊~



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