<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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「本郷の東京大学、赤門前まで行ってもらえます?」

日本橋馬喰町で流しのタクシーを拾って上司と一緒に乗り込んだ。

「すいません。東京大学への行き方がわからないんです。」

と言ったのは私ではない。
タクシーの運転手がカーナビの画面を眺めながら言ったのだった。

「なに? タクシーやってて、東京大学の場所もわかんないのかい?」

と言ったのは私の上司であった。
正直私も驚いた。

確かに東京都内でタクシーをやっていて東京大学赤門の場所もわからないというのは、わけがわからない。
これは京都で例えると、京都大学百万遍交差点を知らないことに匹敵する恐るべき地理音痴なのだ。

「すいませんね。まだ運転手になって2週間しか経ってなんいんですよ。」

これが男の運転手なら怒って降りるところだったが、運転手は20代後半とおぼしき女性であった。
したがってこちらの文句もそこまで。
しかし、

「カーナビちゃんとセッティングしてよ。」

と私の上司が言ったところ、

「今、できなんです。走っているとどうしても。」

と運転手は答えた。

「トンでもないタクシーにのっちゃったな。」
「どうもすいません。」
「車で、東京大学へは暫く行ったことがないからな~。」

東京在住歴20年の上司は日頃は、
「俺は東京には詳しいんだ」
という態度を示し、若干不快感を醸し出すこともなくはないが、いざ、こういう事態に陥ってしまうと、地理に詳しいのか疎いのか、まったく頼りにならなくなってしまうのだ。

「えーと、このまま靖国通りをまっすぐに行って、神田小川町の交差点を右折してくれます。ほんでから、また、まーすぐに行ったら正面に東京医科歯科大学病院が見えてくるよって。そのままJRのお茶の水の駅、つまり、神田川渡ったらそのまま道なりに、ぐーっと左に曲がって。ほんでそのままずーっと行ったら、右手に東京大学が見えてくるから。」

と、説明したのは大阪から出張で来ていた私なのであった。

なんで、大阪人の私が東京の地理を説明しなければならないのか。
まったくもってマヌケな話しなのであった。
日頃、訪問した街は歩き回ることをモットーにしていることが役に立った瞬間なのであった。
東京も時間的余裕があれば、出張の際はできるだけ歩くようにしているのだ。

「東京大学は中学の修学旅行で来て以来ですね。」

と運転手のオネエサンは言った。

「と、いうことは運転手さん。あなた出身は東京じゃないの?」
「はい~、青森です。」

運転手さんはほんの最近、青森から東京に出てきたばかりのオネエサンなのであった。

東北出身者にはこの運転手のオネエサンのようなキャラが少なくない。
そのキャラとは、なにかこちらにとって不都合なことがあったとしても、なんとなく怒りを感じないソフトなイメージ。
このオネエサンもまさにそういう「の~~~~~~んび~~~~~り~~~~~~~」とした癒し系(田舎系とも言う)東北人の典型的なキャラなのであった。

「右手に見えてきたあの森みたいなのが東京大学ですよ。」

と関西訛りの私が説明すると、

「ありがとうございました~。これで東京医科歯科大学病院と東大を一度に覚えることが出来ました。」
と真面目に感謝されたのであった。

首都東京。

地理を知らなくてもタクシーの運転手が勤まる不思議な街だと思ったのであった。

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