平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

ある大晦日の夜の記憶

2023-12-31 11:11:44 | 短歌・詩

その夜は粉雪がふってゐた、
わたしは独り書斎の机の前に坐って
遠い除夜の鐘を聴いてゐた。

風の中に断続するその寂しい音に聴き入るうち、
わたしはいつかうたた寝したやうに想った、
と、誰かが背後からそっと羽織を着せてくれた。

わたしは眼をひらいた、
と、そこには誰もゐなかった、
羽織だと想ったのは
静かにわたしの軀に積った一つの歳の重みであった。


(西條八十)


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