ある大晦日の夜の記憶
その夜は粉雪がふってゐた、
わたしは独り書斎の机の前に坐って
遠い除夜の鐘を聴いてゐた。
風の中に断続するその寂しい音に聴き入るうち、
わたしはいつかうたた寝したやうに想った、
と、誰かが背後からそっと羽織を着せてくれた。
わたしは眼をひらいた、
と、そこには誰もゐなかった、
羽織だと想ったのは静かにわたしの軀に積った一つの歳の重みであった。
(西條八十)
よい年をお迎えください。
その夜は粉雪がふってゐた、
わたしは独り書斎の机の前に坐って
遠い除夜の鐘を聴いてゐた。
風の中に断続するその寂しい音に聴き入るうち、
わたしはいつかうたた寝したやうに想った、
と、誰かが背後からそっと羽織を着せてくれた。
わたしは眼をひらいた、
と、そこには誰もゐなかった、
羽織だと想ったのは静かにわたしの軀に積った一つの歳の重みであった。
(西條八十)
よい年をお迎えください。