平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

ニュージーランドの地震被害に関する雑感

2011-02-25 15:20:40 | 耐震構造


はじめに、被害に遭った学生とそのご家族の皆様に心よりお見舞いを申し上げる。
以下、CTVビルの倒壊に関し、耐震構造を専門にしている技術者として見解を述べてみたい。

耐震工学の専門家は、偏心率が大きかったために捩れ振動を起こし倒壊につながった、と分析していた。私はその解釈は少し違うのではないかと思う。平面的な剛性のアンバランスは捩れ振動を励起するが、あくまでも二次的な要因であり、倒壊を誘発した主原因は剛性と強度の不足であると推測する。CTVビルには壁がほとんど見られない。壁を多く配置して剛に設計していれば、パンケーキ破壊は防げたはずである。中低層の鉄筋コンクリート造建物は、壁を多く配置し、すべからく剛に設計すべし、と私は思っている。

TVに放映された加速度波形には、1~1.5秒の周期成分が卓越しているように見えた。神戸の地震動によく似ている。神戸では、キラーパルスと呼ばれる長周期の大振幅速度パルスが発生した。倒壊した構造物はみなこの波にやられたのだ。

壁がほとんどないラーメン構造は固有周期が長く、耐力もないので、長周期の大振幅速度パルスを受けるとひとたまりもない。

ニュージーランドの耐震規準は、建物を柔構造にして地震動の衝撃を緩和する設計思想のもとに定められていると聞いている。もしもそれが本当であるとすれば、誤った設計法であると言わざるを得ない。柔構造の考え方は高層ビルにのみ適用できるのであって、中低層の建物に適用してはならない。

さて、ここで日本の耐震設計法について考えてみる。日本では、大規模地震動に対しては、部分的な損傷を許し、塑性化させることで得られる履歴減衰に期待して、構造物の耐力の低減を許容する設計法が採用されているが、これも間違っていると思う。詳細は略すが、現行の設計法の根底にはニューマークのエネルギー一定則がある。これが諸悪の根源である。K-NETなどが提供している地震波を使って計算してみれば即座に分かるが、エネルギー一定則は成り立たない。エネルギー一定則のカーブの上に乗らないのだ。ニューマークが試した地震波がたまたまそうなっただけである。ニューマークを盲信して、エネルギー一定則を金科玉条のようにしている日本の耐震設計法はまだまだ改善の余地があると思う。