平ねぎ数理工学研究所ブログ

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プロの眼から見た耐震偽装事件(10)

2008-04-07 23:39:49 | 耐震偽装
前回の続きです。同じ震度7でありながら、兵庫県南部地震では被害が甚大で中越地震では軽微だった理由の説明は以下のとおりです。「地盤震動」-現象と理論-、日本建築学会、から引用します。

引用ここから---

1995年兵庫県南部地震により多大な被害を生じたいわゆる「震災の帯」は、神戸市須磨区から西宮市にかけて幅1km、長さ20kmにわたって盆地端部から約1km離れた盆地内部に生じた。その原因について強震動研究者は、六甲断層系により形成される神戸市地下の段差構造において、盆地端部で発生し水平に伝播するエッジ生成波と鉛直下方から上昇してくる直達S波が増幅的に干渉する「エッジ効果」により、周期1秒前後の速度パルスが増幅されたことによるものであることを明らかにしてきた。

-中略―

震災の帯が形成された大阪盆地北縁部はかなり複雑な三次元構造を有しており、それが地震動の強度分布に影響していることは間違いない。実際に、「震災の帯」内の被害率は一様ではなく、その中に特に被害の酷い地域が島状に点在している。

-中略―

上記の強震動シミュレーションにより神戸市域の強震動が面的に推定されたが、それは「やや短周期を中心とする大振幅パルス」として特徴づけられるものであった。ここで「やや短周期」とは後述するように0.5秒~2秒の周期帯をさす。これは従来からある「構造被害はランダムな大振幅加速度の繰り返し入力による」という想定とは大きく異なっている。したがって、果たしてこのような地動が実際に神戸市域で観測された多大な被害を構造物に与えることができるかどうかという問題となる。実は震源域の大被害はこの大振幅パルスによってのみ生じる。

-中略―

これらより、最大加速度も最大速度も大きな「1秒を中心とする短周期域に卓越周期をもつ波形」では一般構造物の固有振動数2Hz~6Hzの範囲で大きな弾塑性応答が生じることが確認された。すなわち、「やや短周期を中心とする大振幅パルス」は大きな構造物被害をもたらすのに十分な構造物破壊能を有しているといえる。逆に、最大加速度は大きいが最大速度はあまり大きくない観測波では、5Hz以上の短周期構造物は破壊できても、兵庫県南部地震で見られたような木造構造物から中層RC構造物までの広い周期範囲の構造物に深刻な被害を与えることは困難である。
これらの解析結果を単純化すると、構造物に大被害をもたらすためには加速度も速度も大きな地動である必要があるということがいえる。

ここまで---

以上を要約すると、つぎのとおりです。

① 兵庫県南部地震には「震災の帯」といわれる帯状の激甚被害地域があった。
② 「震災の帯」は複雑な地形構造がもたらす地震波の干渉によって生じた。
③ 震源域の大被害は「やや短周期(0.5秒~2秒)を中心とする大振幅速度パルス」によって生じた。
④ 最大加速度は大きいが最大速度はあまり大きくない波は、広い周期範囲の構造物に深刻な被害を与えることは困難である。
⑤ 構造物に大被害をもたらすためには加速度も速度も大きな地動である必要がある。

つまり中越地震が震度7にも拘らず被害が軽微だったのは、加速度に比べて速度が小さく、大振幅速度パルスが発生しなかったからです。
そして、兵庫県南部地震に見られたような、1秒付近に集中エネルギーをもつパルス状の波は地形固有の増幅効果によって形成されるため、全国どこでも起こり得るものではありません。

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