海で出会う魚たちは、群れを形成していることが多い。魚も種類により、編隊を組んで一斉に泳ぐ方向を変えるもの、ただ何となく集まってのんびりと泳いでいるものなど、それぞれで雰囲気が異なっている。
魚の群れでいつも感動させられるのはイワシの群れだ。大きな群れになると何万尾もが雲のように一団となって泳いでいる。そして、右に左にと完璧に統率の取れた動きを見せてくれる。群れの中に分け入ってみると一時的に乱れを生じはするが、すぐにもとの編隊にもどる。まるで、一匹のリーダーに率いられているようだ。あたかも群れそのものが一つの巨大な生きもののようにすら見えてくる。
スカシテンジクやギンガメアジなどといった視覚がすぐれている魚たちは、わずかな方向転換をしても銀色の体に反射する光の量が大きく変化するため、群れの方向定位がとりやすい。加えて、硬骨魚類には体側に側線があり、この側線で水のわずかな振動を感じて、互いにぶつかり合うことなく、群れの方向を転換することができる。ただし、カメラのフラッシュなどで魚がびっくりするとパニックになって、ダイバーにさえぶつかってくるらしい。
魚が群れで泳いでいる理由について、(1)群れることで存在を大きく見せ、外敵を威嚇するため、(2)数多くいるから、少々食べられても群全体として問題ないから、(3)繁殖の際に異性を捜す手間が省けるため、(4)回遊する魚では海の中で迷いにくいから、(5)1匹の危険信号を他の魚にすぐに伝えられるからなどが考えられるが、どれが本質的な理由なのだろうか。
とくに、成体のハンマーヘッドが群れているのは、集団で狩をするわけでもないから、エサを探すには不利なような気がするのだが、どうなのだろう。
ではなぜハンマーヘッドが群れるのか?そのひとつの答えとして、「群」で泳ぐことにより(単体よりも)、水の抵抗を小さくすることができ、このため長距離の移動が「速く楽」だから。一匹では水流の流れを全面的に受け止める必要があるが、群ではその抵抗を分散して受け持つことができる。このため、潮の流れが少々速くても、潮に逆らって安全に泳ぐことを可能にする結果に繋がっているのかもしれないと考えるのだがどうだろう。
もう一点は、群れることで、外敵圧力など危険に対するストレスが弱まり、免疫細胞が活性化すること。人間でも同じだが、免疫系はストレス(不安)に極めて過敏に反応する。群れる仲間が存在しない外洋では、免疫細胞が活性化せず病気になりやすいものと思われる。
もちろん、繁殖の際に異性を捜す手間が省けるためも大きな要因であるに違いない。黒潮に乗って南方より来るハンマーヘッドたちだが、最悪の場合は群れとはぐれて、日本海の浅瀬に単独で出没し、最後には駆除されることになる。ハンマーヘッドは、米国ネブラスカ州の水族館で単性生殖で子どもを生んだメスのシュモクザメがDNA分析により確認されているが、繁殖の上では有性生殖の方が強い種を残す上で不可欠である。
人間の歴史よりも古くより、あの体型で群れにならざるを得ないシュモクザメ。
ひょっとしたら、彼らがひどく臆病な生物と言う点を考えると、群れることで存在を大きく見せ外敵を威嚇するためという説明が、その進化を考える上で一番妥当な説明なのかもしれない。その昔、太古の時代には、サメよりももっと恐ろしい、海中恐竜が海の中を泳いでいたかもしれないのだから。
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