5月下旬ころ、京都市内の丸善書店には新型コロナウイルス感染拡大問題と中国との関連や責任を問う書籍や雑誌などがずらりと並んでいた。
雑誌・月刊誌「Hanada」を見てみると、数枚のカラー風刺画が冒頭に掲載されていた。「人類共通の敵」「Get up and say Hhank you Chaina!」などの文字も書かれている。
5月上旬、特にアメリカでの新型コロナウイルスの感染拡大はとどまるところを知らない状況となる。このような状況下、トランプ大統領は、「新型ウイルス・武漢ウイルス研究所からどのように流出したかについて報告を準備している。何が起きたかを正確に示す非常に強力な報告書を出す」「中国は失敗をした。それを認めたくなかったんだろう」「感染拡大の責任は中国にある。真珠湾攻撃よりもひどい」などと報道インタビューに答弁。ポンペオ国務長官も「武漢の研究所に起源がある多数の証拠がある」と答弁。コロナウイルス感染被害での中国政府に対する賠償もアメリカ議会では討議され始めていた。
このようなアメリカ政府の発表に対し中国では。中国外交部の華春瑩報道局長は、「アメリカの一部の人間は いろいろなところで責任を中国に押し付けている」「証拠を出せ もし出せないなら彼らは証拠を作っている最中なのか」「WHOによる 新型コロナウイルス発生源などの調査のため 中国への派遣要請を検討する」と激しく反論。その後、WHOの調査を積極的に(形式的に)受け入れることとなったが、問題の武漢ウイルス研究所などに関する調査活動はなかったようだ。
今のところ発生源に関する証拠の報告書は、アメリカ側からは発表されていない。確たる証拠というものはつかんでいないとの観測が広がっている。
そんな米中の非難応酬の中、2カ月間以上延期されていた中国の全国人民代表者大会(全人代)が5月22日から29日まで北京で開催された。今回の全人代の議決内容は「①香港民主化要求問題に強権的にけりを付けるための"香港国家安全維持法"の制定に向けていくことの大会での決定。②アメリカなどに対抗するための軍事予算6.6%増の決定。③新型コロナウイルス問題を巡る対応方法の決定。④国内経済の復興を巡る対応方針の決定」などが執り行われた。
大会期間中、王毅外交部長は「アメリカで政治ウイルスが拡散し、中国を攻撃している。新型コロナウイルス以外に政治ウイルスが拡散している。」 また、王毅氏や趙立堅報道官は、「(香港の"国家の安全を守る"審議について)国家の安全を維持することは中央政府の権限」と国内外に向けて発信していた。
この大会期間中に、問題となっている中国科学院武漢ウイルス研究所でのウイルス感染の鍵をにぎる人物と目されている王延軼(おう・えんいつ)所長や石正麗(せき・せいれい)研究員らが、中国のTV放送に出演。王所長は、「アメリカの主張は完全な捏造だ」と言及。秘密をもって海外に逃げたとのうわさもあった石研究員は、「私は中国で元気にしている」と姿を現す。中国のアメリカへの反論キャンペーンの一環を演出するための報道だった。(※石研究員は2003年のSARS感染問題の時、ウイルスの正体はコウモリ由来のコロナウイルスという研究を共同で発表。"コウモリ女"の異名が付けられていた。武漢ウイルス研究所の中心的な研究者である。)
このような政権からの国内外への反論宣伝報道で、中国国民は反米意識を強めてきている。(※経済的生活的には苦しくても、この状況はアメリカとの戦いだ。アメリカに打ち勝ちたいという国民的意識の高まりが。)
大会の中で、中国共産党政府NO2とも目されている李克強首相は、「中国の低所得者層人口は今だ6億人に上る」と発言して世界は注目した。中国では地方農村部からの出稼ぎ農民工が約2億8千万人いる。その人たちの家族などもふくめれば、6億という数字はあながち妥当なのかもしれない。また李首相は、コロナによる経済打撃の解決の一つとして、中国国内での露店(屋台)商を法的にも認めていく意向を表明したが、党内の抵抗にあったのかその政策は取り消されることとなった。内政重視の李首相と国内外への強権姿勢の習主席との政治的スタンスの違いが垣間見られた。
アメリカのトランプ大統領は、「アメリカ国内の大学や研究所に在籍していて問題のある留学生3000人を追放する」と発表。さまざまな面での対立がエスカレートしてきている。
5月下旬に日本の安倍首相は新型コロナウイルスについて、「中国から世界に広がったのは事実だ」と発言した。これに対し、中国の報道官・趙氏は「ウイルスの発生源を政治問題化し汚名を着せるのに断固反対する。発生源は中国とするアメリカに日本政府が政治的に安易に追従している」と批判。「中国"起源説"反論に躍起―責任打消し 損賠も警戒」との朝日新聞の見出し記事も。
◆G7各国首脳の発言より
イギリス・ジョンソン首相「中国でどのようにウイルスが広がったのか徹底的に分析すべき」、ドイツ・メルケル首相「中国の透明性がもっと高くなれば世界がもっと良くなるだろう」、フランス・マクロン大統領「中国でどんなことが起こったのか、透明性をもって知ることはできない」、アメリカ・トランプ大統領「中国はひどい失敗をした。これを隠そうとした」。
◆中国外交部の発言より
外交部筆頭次官・楽玉成「50日間も、アメリカは感染防止のために 何をしてきたのか」、外交部報道官・耿爽「米国の一部政治家は真っ赤なうそをついている。中国もウイルス攻撃を受けた被害者だ」。
中国の全人代が5月29日に閉幕、特にこの間の米中関係について、閉幕後の毎日TVS放送の報道番組「ひるおび」にコメンテーターとして出演していた立教大学の倉田徹教授(専門・中国政治)は、「新型コロナの流行で中国国内には政府批判の声も出ている。習近平政権は香港に強気に対処することで国内の批判をかわす狙いもあるのでは」「中国はアメリカの制裁も覚悟の上で強硬策に出たのでは」とコメント。早稲田大学の中林美恵子教授(専門・米国政治)は、「アメリカ側は中国に対して何らかの制裁をしたうえで、香港に対する優遇措置の撤廃停止も考えられる。11月の大統領選挙を控えてトランプ大統領は中国への圧力をさらに強めるのでは」とコメントしていた。
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