彦四郎の中国生活

中国滞在記

日本、時効寸前の15年間余りを逃亡した福田和子の事件—中国と日本それぞれ、二人の女性が世間の大きな関心ごとに

2024-03-31 08:41:30 | 滞在記

 昨年2023年12月に、全国指名手配・逃亡20余年にわたった労栄枝の死刑執行が中国では大きなニュースとなって報道された。この報道を視聴して改めて思ったのが、日本で15年余り逃亡生活を送り、時効成立まで21日と迫った福田和子の逮捕だった。ちょうど昨年、2023年1月に日本テレビで「福田和子の逃亡劇完全再現—獄中からの手紙—衝撃の真相」と題された実録再現ドラマを視聴もしていたので、労栄枝と福田和子という、「長年にわたる逃亡者」としての中国と日本の二人の女性のことを考えてしまった。

 美容整形手術で顔を変え(「7つの顔を持つ女」と形容もされ)、何度も名前を変え顔も変化させ、時効寸前まで15年余り逃げ続け、日本中が大騒ぎした福田和子。1982年8月、彼女は、当時クラブの同僚だったNO1ホステスを殺害し、山中に埋めた。愛媛県松山市の勤めていたクラブでは、和子もまた人気のホステスだった。深夜まで働き、始発電車で大洲市の自宅に帰っていた。家には夫と4人の子供がいた。(そのうち前夫との子が2人)

 しかし、彼女には愛人がおり、その愛人に入れ込み、貢ぐためか借金を重ねるように‥。松山市内にアパートも借りた。そして、その借金は200万円になっていた。クラブのNO1ホステスが贅沢な暮らしをしていたことを知っていた和子は、その同僚ホステスを殺害。預金通帳や印鑑、現金を持ち出した。夫に電話をして、殺害場所のアパートに来るように連絡し、到着した夫に殺害を告白した。親戚の男にも連絡し(殺害のことは言わず)、殺害したホステスの家財道具を和子のアパートに運ぶよう依頼した。和子と夫は、松山市中心部から18km離れた山中に遺体を埋めた。

 殺されたホステスの父親や恋人から捜索願いが出され事件性が警察に疑われ始めた。家財道具を運んだ親戚の男や夫が事情聴取され事件が発覚。夫は「和子とともに死体を山の中に埋めた」と自供。警察は和子を全国指名手配として、行方を追うこととなった。四国の松山から逃亡した和子は、しばらく大阪に潜伏し、石川県の金沢に移動、東京で整形手術を受け、金沢市内のスナックでホステスとして働き始めていた。

 逃亡を始めてからおよそ1年。金沢のスナックに客としてきた和菓子屋の若旦那と親しい関係となった。若旦那は妻と離婚し和子と暮らすように。そして、和菓子店の内妻として手伝いはじめ、四国に暮らす長男を(親戚の子と偽って)和菓子屋に見習いとして勤めさせることともなった。しかし、和菓子屋の家族から警察に通報があり、警察は和菓子屋に。警察の姿に気付いた和子は、自転車で間一髪で逃走、5年半潜伏した石川県を離れた。(※この和菓子屋は、金沢市の南方の能美市根上町にあった「松村松栄堂」。プロ野球選手の松井秀喜も子供の頃からこの店の常連だった(近所に住んでいた)ので、福田和子のことを、「当時、お店にいたきれいな人だった」と話している。この店は2018年に閉店となった。)

 その後、名古屋のホテル清掃員として働いた。しかし、福田和子のニュースは頻繁に流れたため、危険を察知すると場所を移すことに。1988年から1996年の8年間で、北海道から山口県まで、名前を変え、職を変え、全国15箇所以上を転々とすることとなった。

 全国を逃亡している間に、愛媛県のかっての友人に電話もかけている。その際に、「あんた、私がつかまるんがおもしろいんやろ」「危ない危ない」などの肉声が録音されてもいた。また、和子の長男に恋人ができて、京都市内で長男とその恋人に会ったりもしている。

 時効まで1年となった頃、福田和子は福井市に現れた。その頃、時効まで1年となったことで、愛媛県警は100万円の懸賞金をかけ、マスコミもこぞって福田和子を取り上げた。(※日本の犯罪捜査史上、初めての懸賞金が設けられた。懸賞金額はその後、整形手術をした医院から400万円の贈呈があり、500万円になった。)

■公訴時効—当時、「➀死刑に当たる罪(※25年)、②無期懲役に当たる罪(※15年)」となっていた。3人以上の殺害の場合は➀となる可能性が高い。2010年に公訴時効が改訂され、「➀は時効なし」に、「➁は30年」に、そして、「③長期20年の懲役に当たる罪は(※時効20年)」となっている。

 JR福井駅から近いビジネスホテルに長期宿泊することになった和子。駅から200mほどのおでん屋に頻繁に客として(中村麗子という名)通うようになっていた。店では、人懐っこくて明るく、カラオケで店内を盛り上げる女性と思われていたようだ。時効成立まで1か月となったある日、テレビで福田和子の生声(肉声)なども報道されると、おでん屋の女将や常連客は、「麗子ちゃんそっくりや」と警察に通報。警察は女将に、瓶ビールとカラオケの時に使うマスカラから指紋を採取してほしいと依頼。しかし、福田和子は肉声などの報道が多くなってからは店に姿を見せなくなっていた。

 時効まであと23日となった日、街中でおでん屋の女将は和子と偶然に出会った。「久しぶりにお店に来てほしい」と女将が伝えると、翌日、和子は店を訪れた。そこで、ビール瓶、グラス、マスカラなどに指紋がついた。それをこっそりと警察に届けた。警察は急ぎ指紋照合、指紋が一致したため、時効まであと21日に迫った日、再び店を和子が訪れているとの女将からの電話を受け、警察が店に向かった。

 店を出た福田和子を警察が取り囲み連行。14年と344日の逃亡劇はこうして幕が下りた。1997年7月のことだった。(※このおでん屋は2019年に閉店となった。女将は懸賞金の500万円を全額、慈善団体に寄付している。)

 その後、愛媛県警へと身柄を移送され、2003年11月に無期懲役が確定した。収監されていた和歌山の刑務所には、長男がたびたび面会に訪れることとなった。(母のことをとても大切に思っていたようだ。)2005年2月に収監先の刑務所で倒れ、和歌山市内の病院に搬送され緊急手術を受けたが、意識は戻らず、3月10日に脳梗塞で死亡したと発表された。享年57歳だった。1948年1月生まれの彼女は、もし生きていれば、現在75歳となっているはずだった。

■福田和子の実録ドラマは、いろいろなドラマとして放送されている。例えば、2023年1月には、日本テレビで、「仰天ニュース2時間スペシャル 福田和子の逃亡劇完全再現」で放送された。(主演:和田瑠子)

 2016年3月にはテレビ朝日で、「実録ドラマシリーズ 女の犯罪ミステリー福田和子 整形逃亡15年」(寺島しのぶ主演、和菓子屋の若旦那・杉本哲太、長男・中村倫也、夫・遠藤賢一など)。2002年には、映画ともなった。(主演:大竹しのぶ)。また、「顔」というタイトルの映画(主演:藤山直美)もあった。書籍としては、『悪女の涙』—福田和子の逃亡十五年(佐木隆三著)などがある。

■日本の逃亡者・福田和子が逮捕に至ったきっかけは、時効1年前となった時期からテレビで多くの報道がされたことからだった。中国の逃亡者・労栄枝の逮捕のきっかけは監視カメラだった。中国においては、ものすごく多かった誘拐事件などが、監視カメラの増加によって激減することとなってもいる。

■日本の監視カメラは現在、約500万台。1968年頃から銀行のATMの監視(リアルタイム映像のみで、録画機能はなかった。)導入が始まった。1980年代に普及が進み始め、特に会社や自宅などの防犯カメラとしての普及が多くなり始めた。(アコム社などの)  世界各国の監視カメラ設置台数の上位5か国は、➀中国・約3億台、②アメリカ、③ロシア、④ドイツ、⑤イギリス。日本は次いでの6位となっている。(中国のような顔認証システムの超高性能監視カメラ社会システムではないが‥)

 2019年における犯罪人検挙において、逮捕の決め手となったのは、最も多いのが「職務質問」(16.5%)、次いで「監視カメラ」(10.2%)。日本でも年々監視カメラの設置は増加しているが、「あなたは、防犯カメラ(監視カメラ)をもっと設置した方が良いと思いますか」というアンケートでは、59.2%が「増やした方が良い」という結果だった。

■中国では、スマホ携帯電話(ネット)を持つと、位置情報や個人情報が携帯運営会社に筒抜けとなることとなる。そして、携帯電話通信会社が把握している情報は、必要(要望)に応じて国家公安とつながることとなる可能性は大きい。その中国のネット人口は、2007年には1.37億人(普及率10%)だったが、2023年には10.79億人(普及率76.4%)となっている。

■2013年9月に初めて中国で暮らし始めて驚いたことの一つに、テレビで、刑務所に収監されている囚人の牢屋の中で、または、面会所でのようすが報道されているものだつた。(日本ではまず、このような報道はないが‥) その報道内容の多くは、囚人が「罪を犯したことを後悔している」ことを話す内容だ。このような映像を国民に視聴させることにより、犯罪防止の一つの取り組みと位置づけているようだ。

 

 

 

 

 


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