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22/12/6 知的財産高等裁判所 平成21年12月10日判決言渡

2010-12-06 08:07:27 | Weblog
知的財産高等裁判所 平成21年12月10日判決言渡
平成21年(行ケ)第10183号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月19日
判決
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 特許庁が取消2008-300664号事件について平成21年5月26日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告の本件商標に係る商標登録について,商標法51条1項該当を理由とする当該登録の取消しを求める原告の本件審判請求が成り立たないとした特許庁の本件審決には,取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1(混同の有無)について
(1)商標法51条1項の趣旨
 商標法51条1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用…であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し,同条2項は,「商標権者であった者は,前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から5年を経過した後でなければ,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について,その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができない。」と規定している。
 同条1項の規定は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和58年(行ケ)第31号昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁参照)。
 このような商標法の趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要というべきであり,そして,その混同を生ずるおそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。
 以上のような観点から,①使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性の程度,②引用商標1ないし3の周知著名性及び独創性の程度,③使用商標A及びBが付された商品(トートバッグ)と原告の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情を総合して,混同を生ずるおそれの有無について,以下検討する。
 イ 結合商標の類否判断
(ア)複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(イ)これを本件についてみるに,使用商標Aは「Indian」及び「Arrow」の文字が方形の飾り枠内にあり,他の表記に比較して大きな文字で記載されていることから,「Indian」及び「Arrow」の部分が全体として統一感のあるものであって,「Indian」と「Arrow」とが2行表記となっているが,全体が方形の飾り枠内にまとまりよく収まり,また,いずれの文字も同書同大からなり,加えて,その行間に位置するライン状の矢に「Arrow」の「A」の頭部が突出する態様となって上下行の文字の一体性をより一層高めているから,上記部分をもって一体のものとして看取されるものである。よって,使用商標Aからは,「インディアンアロー」の一連の称呼を生ずるものというべきであり,上記文字及び矢の図形とあいまって「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」の観念を生ずるものである。
 使用商標Bは,「Indian Arrow」の下の矢が2つの語に一連に引かれており,全体として「インディアンアロー」の一連の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」の観念を生ずるものである。
 他方,引用商標1及び2は,羽根飾りを付けた右向きインディアン図の中央に欧文字筆記体「Indian」の文字を大書し,その下に「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字が表記されているから,「インディアン」の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)」の観念のほか,「インディアンモトサイクルコーインク」の称呼及び「アメリカンインディアン(北米原住民)オートバイ会社」の観念という,2つの称呼・観念を生ずるものといえる。
 引用商標3は,「インディアン」の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)」の観念を生ずるものである。
(ウ)原告は,結合商標の類否判断においては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していなければ,1個の商標から2つ以上の称呼,観念が生ずるのであり,使用商標A及びBからは「Indian」の称呼,観念も生ずると主張する。
 しかし,引用商標1ないし3に周知性があるといえないことは後記(3)認定のとおりであるから,使用商標A及びBの「Indian」の部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合には当たらない。また,使用商標A及びBのそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合にも当たらない。よって,原告の主張は採用することができない。
(5)出所の混同
 上記(2)ないし(4)認定のとおり,使用商標A及びBが付されたトートバッグと原告の業務に係るバッグが商品として同一であるとしても,使用商標A及びBと引用商標1ないし3とが類似するとはいえないこと,引用商標1ないし3が原告の業務を表示するものとして周知著名とはいえず,独創性も低いことを総合すると,被告が使用商標A及びBをトートバッグに使用した行為によって,原告の引用商標1ないし3と出所の混同を生じるとはいい難い。
(6)小括
 原告は,その他るる主張するが,いずれも採用することはできず,原告主張の取消事由1は理由がない。
 3 結論
 以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は棄却されるべきものである。