堤卓の弁理士試験情報

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18.10.6 審査の進め方

2006-10-06 22:06:12 | Weblog
答案を採点していて気になりましたので、審査官の審査がどのようにして行なわれるかについて、掲示します。
下記は審査基準の内容です。

審査基準 審査の進め方

2.審査手順の概要
 以下に、審査手順の概要を示す。それぞれの手順の詳細については、「第2節各論」を参照のこと。また、特許の実体審査の流れを図1に示す。
(1)本願発明の理解と認定
 審査は、本願の請求項に係る発明を認定するところから始まる。最初に明細書等を精読し、発明の内容を十分に理解したうえで、特許請求の範囲(請求項)の記載に基づき、請求項に係る発明を認定する。
(2)調査対象の決定(発明の単一性の要件、記載要件についての検討)
 発明の認定に続いて、発明の単一性の要件について検討する(37条)。同時に、明細書及び特許請求の範囲の記載要件について検討し(36条)、先行技術調査の対象とする発明を決定する。
 なお、発明の単一性がない場合でも、そのまま審査を続行するのが効率的と判断される場合には、審査を続行することができる。
(3)先行技術調査(新規性・進歩性等の特許要件に関する調査)
 調査対象とした請求項に係る発明について、新規性・進歩性等の特許要件に関する先行技術調査を行う(29条、29条の2、39条)。明細書中に出願人によって先行技術文献の情報が開示されている場合、又は調査機関(外国特許庁を含む。)が作成した調査報告書に先行技術文献が示されている場合には、まず、これらの文献の内容を検討する。
(4)新規性・進歩性等の特許要件の検討
 先行技術調査の結果を踏まえて、(2)で調査対象として決定した請求項に係る発明の新規性・進歩性等について検討する。
(5)拒絶理由通知
 検討の結果、拒絶の理由を発見した場合には、拒絶理由を通知する(50条)。拒絶理由は、できるだけ簡潔かつ平明な文章で、要点をわかりやすく記載する。その際、各請求項ごとの判断が明確に示されるようにする。

2.1 調査対象
(1)調査対象の決定
 特許請求の範囲に記載された発明のうち、最初に記載されている発明との間で発明の単一性の要件を満たしている各請求項に係る発明を調査対象とする(一の請求項内で発明の単一性の要件を満たさない場合は、請求項内の最初の選択肢との関係で単一性の要件を満たす範囲を調査対象とする。)。原則として、最も広い概念の発明を記載する請求項から最も狭い概念の発明を記載する請求項まで、すべての請求項に係る発明を調査対象とする。
 発明の単一性の要件を満たさない請求項であっても、まとめて審査を行うことが効率的であると認められる場合には、その請求項に係る発明も調査対象とすることができる。
(2)調査対象を決定する際に考慮すべき事項
①請求項に係る発明の実施例も、調査対象として考慮に入れる。
②迅速・的確な審査に資すると認められる場合は、補正により請求項に繰り入れられる蓋然性が高いと判断される開示事項も、過度に負担を増大させない限り、調査対象とすることができる。
(3)調査対象から除外してもよい発明
 以下に示すような発明については、調査対象から除外してもよい。
①新規事項が追加されていることが明らかな発明(17条の2第3項違反)
②不特許事由があることが明らかな発明(32条違反)
③第2条に規定する発明に該当しないことが明らかなもの、産業上利用することができる発明に該当しないことが明らかである発明(29条1項柱書違反)
④発明の詳細な説明及び図面を参酌しても発明を把握することができない程度に請求項の記載が明確でない発明(36条6項2号違反)
⑤請求項に係る発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない場合であって、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない部分(36条4項1号違反)
⑥請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載された範囲を超えている場合において、その「記載された範囲を超えている」部分(36条6項1号違反)

18.10.6 平成15年7月16日 東京高裁判決

2006-10-06 16:24:14 | Weblog
論文合格発表後は、激務が続き、新規投稿がなかなかできない状態になっていま
す。
久しぶりの投稿ですが、商標法4条1項7号違反の無効理由の抗弁が成立する事案です。

平成15年7月16日 東京高裁判決 平成14年(ネ)1555
商標権 民事訴訟事件

第2 事案の概要
 控訴人Aは,原判決別紙商標目録記載の商標権(本件商標権、本件登録商標)の商標権者であり,被控訴人ワールドブランズは,本件標章を付したゴルフクラブを輸入,販売等している会社,被控訴人アダムスゴルフは,本件標章を付したゴルフクラブを我が国に輸出しているアメリカ合衆国(米国)の法人である。
 本件は,控訴人Aが,被控訴人ワールドブランズに対し,本件商標権に基づき,本件標章を付したゴルフクラブの輸入,販売等の差止めを請求するとともに,控訴人A及び本件商標権の前商標権者である訴訟承継前控訴人株式会社コトブキゴルフ(コトブキゴルフ)が,被控訴人ワールドブランズに対し,本件商標権の侵害を理由とする損害賠償を請求し,他方,被控訴人アダムスゴルフが,控訴人Aに対し,ADAMSの標章(以下,本件標章と同義ないしこれを含む標章として用いる。)を付したゴルフクラブの輸入,販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求めた事案であり,控訴人A及びコトブキゴルフの請求をいずれも棄却し,被控訴人アダムスゴルフの請求を認容した原判決に対し,控訴人A及びコトブキゴルフがその取消しを求めて控訴し,控訴人寿商事が,吸収合併に伴い,コトブキゴルフを訴訟承継した。

第3 当裁判所の判断
1 コトブキゴルフは,平成8年3月12日,「ADAMS」の英文字と「アダムス」の片仮名文字を上下2段に横書きしてなり,指定商品を別表第28類「運動用具」とする本件登録商標の商標登録出願をし,平成9年11月21日,設定登録を受けたこと,コトブキゴルフの代表取締役である控訴人Aは,コトブキゴルフから本件登録商標を譲り受け,平成11年3月1日,その登録を経たこと,控訴人寿商事は,平成14年9月2日,コトブキゴルフを吸収合併し,本件を含むその権利義務を包括承継したこと,一方,被控訴人アダムスゴルフは,ゴルフクラブの製造,販売を主たる業とする米国法人であり,米国等においてADAMSの標章(本件標章)を付したゴルフクラブを製造,販売していること,被控訴人ワールドブランズは,被控訴人アダムスゴルフから上記標章を付したゴルフクラブを輸入し,我が国において販売していること,以上の事実は当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる。
 また,ゴルフクラブは本件商標権の指定商品に含まれること,本件登録商標のうちの「ADAMS」の英文字部分とADAMSの標章(本件標章)は,その外観が類似し,「アダムス」という称呼が同一であることも当事者間に争いがなく,両者は「アダムス」という人の氏名若しくは団体の名称又はこれらの略称の観念を生ずる点でも同一であるから,ADAMSの標章(本件標章)は,本件登録商標と類似するというべきである。

2 本件商標権の商標権者である控訴人Aの被控訴人ワールドブランズ及び被控訴人アダムスゴルフに対する本件差止請求権の行使,並びに控訴人A及び本件商標権の前商標権者であるコトブキゴルフを包括承継した控訴人寿商事の被控訴人ワールドブランズに対する本件損害賠償請求権の行使が,権利の濫用に当たるか否か(争点1)について判断する。
(1)(省略)
(2)上記認定事実によれば,ADAMSの標章(本件標章)が,被控訴人アダムスゴルフの製造,販売するゴルフクラブを示すものとして,米国において注目されるようになったのは1996年(平成8年)1月のPGA展示会からであるところ,控訴人Aは,その展示会を視察し,ADAMSの標章(本件標章)を付したタイトライズ製品に注目し,将来,重要なゴルフクラブになるかもしれないとの認識を有するようになったこと,その後,控訴人Aが代表者であったコトブキゴルフは,上記展示会の終了後間もない同年3月12日,被控訴人アダムスゴルフの許諾を得ることなく,上記ADAMSの標章(本件標章)と類似する本件登録商標の登録出願をしていること,コトブキゴルフは,従前から,外国においてゴルフ用品製造業者又は販売業者を示すものとして使用されている商標につき,我が国において上記製造業者又は販売業者に無断で商標登録出願をすることを数多く繰り返しており,その件数は,昭和53年6月から平成8年9月までの間の主なものだけでも,原判決別表1,2記載の合計19件に上ることが認められる。
 以上によれば,本件登録商標の商標登録出願時における控訴人Aないしコトブキゴルフの目的は,当時,米国において,被控訴人アダムスゴルフの製造,販売するゴルフクラブを示すものとして,ADAMSの標章(本件標章)が注目されるようになっていたことに着目し,近い将来,我が国においても,同商標が注目されるようになる可能性が高いとの判断の下に,我が国で登録されていないことを幸い,あらかじめ,同商標に類似する本件登録商標につき商標登録を受けることにより,我が国内において,ADAMSの標章(本件標章)を付した商品の輸入総代理店等の有利な立場を得たり,あるいは,被控訴人アダムスゴルフの名声に便乗して不正な利益を得るために使用することにあったと推認するのが相当である。
 ところで,我が国おいて,外国における他人の氏名,名称又はこれらの略称からなる商標の使用を知りながら,それと無関係の者が,当該他人の許諾を得ることなく,当該商標又はこれに類似する商標の設定登録を受けることは,商標法4条1項8号,15号等によって商標登録を受けることができない場合があり得るのはもとより,その目的が,我が国で登録されていないことを幸い,当該他人の氏名,名称又はこれらの略称に便乗して不正な利益を得るなどの不正な意図をもって使用することにあるものと認められる限り,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,公序良俗を害するおそれがある商標というべきであるから,同項7号によって商標登録を受けることができないと解される(東京高裁平成11年3月24日判決・判例時報1683号138頁,同平成11年12月22日判決・判例時報1710号147頁参照)。
 本件において,本件登録商標の出願当時,被控訴人アダムスゴルフの名称あるいは同社が使用するADAMSの標章は,我が国おいてはいまだ周知著名であるとはいえなかったものの,上記認定のとおり,控訴人Aないしコトブキゴルフは,同標章が米国では注目されるようになっていたことを知った上で,近い将来,我が国においても同商標が注目されるようになる可能性が高いとの判断の下に,我が国で登録されていないことを幸い,被控訴人アダムスゴルフの名声に便乗して不正な利益を得るために使用する目的をもって,同被控訴人の許諾を得ることなく,本件登録商標の商標登録出願をしたものであると認められるから,本件登録商標は,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,同項7号にいう公序良俗を害するおそれがある商標に該当するというほかはない。
(3)省略
(4)そうすると,本件商標権の商標権者である控訴人Aの被控訴人ワールドブランズ及び被控訴人アダムスゴルフに対する本件差止請求権の行使,並びに控訴人A及び本件商標権の前商標権者であるコトブキゴルフを包括承継した控訴人寿商事の被控訴人ワールドブランズに対する本件損害賠償請求権の行使は,商標法4条1項7号に該当する無効理由が存在することが明らかな商標権に基づくものであって,特段の事情がうかがわれない本件においては,権利の濫用に当たるというべきである。

3 以上によれば,控訴人らの被控訴人ワールドブランズに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却すべきであり,他方,控訴人Aに対し,ADAMSの標章を付したゴルフクラブの輸入,販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求める被控訴人アダムスゴルフの請求は理由があるから,これを認容すべきである。