《 直言・安倍政治 ③ 》 『 野中広務 元官房長官 (88歳) 』 【 「負の歴史」に向き合え 】 2014/8/15 地方紙記事より
― 安倍晋三首相は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に踏み切ったが、自民党は静かだった。
「若い人が増え、戦争を全く経験していない人が7、8割を占めている。過去の戦争で取り返しのつかないことをやってしまったという気持ちを持っている人が本当に減った。小選挙区制でもあり、今の自民党は多様性に欠けている」
― 有権者の多くは説明不足と感じている。
「首相は『日本の難民を米国が船に乗せ救助している時に攻撃された場合はどうするのか』との説明を好んだ。米国は『そんなことはあり得ない』と断言したのに、閣議決定後の記者会見でまた持ち出した。『国民のため、戦争を排除するためです』と、極めて情緒的な説明を繰り返した」
― そもそも、国民を守るために集団的自衛権の行使は必要だと思うか。
「今回の論議を聞くと、個別的自衛権で対処可能だと確信している」
― ただ、軍備拡張と海洋進出を続ける中国との付き合い方は難しい。尖閣問題が深刻だ。
「2012年、当時の野田佳彦首相が石原慎太郎都知事にあおられて、国有化したのが問題の発端だ。中国の胡錦濤国家主席は『そんなばかなことをすると取り返しがつかなくなる』と警告したと聞いている」
― 首相は中国へのけん制を続けている。
「日中戦争と国交正常化、平和友好条約締結をめぐり、両国のやりとりの歴史がある。きちんと踏まえなければならない。観念的ではいけない」
― 首脳会談が開けない状態が続いている。
「安倍政権は『あれは民主党政権がやったことですから』と、尖閣問題国有化を横に置くこともできるはずだ。ただ福田康夫元首相が訪中し、習近平国家主席と会談した。後は首相が尖閣問題と靖国参拝をどうするかだ」
― 打開に向けた鍵は。
「政治家は特に、歴史の負の部分に向き合わなければならない。私は官房長官の時、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理に取り組んだ。これが、中国側との信頼関係を深めるきっかけになった。毒ガスの被害にあった中国人は今も苦しんでいる。何人もあって、話を聞いた」
― 戦後体験は国民の意識の中でも薄れている。
「傷ついた人や、犠牲になった人は忘れない。だが、今の日本は傷ついた人も、傷つけた人もほとんどいなくなった。勇気をもって発言してくれる人も少ない。広島、長崎の原爆記念日の宣言や被爆者代表の挨拶を、今こそ大切にすべきだ。福島第1原発の現実も忘れてはならない」
― 体験継承は可能か。
「どこの家庭にも先の戦争の傷跡は残っている。中東をはじめ世界各地でのむごい戦争が報道されている。若い人にも知る機会は必ずある。そこに希望を託したい」]
― 安倍晋三首相は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に踏み切ったが、自民党は静かだった。
「若い人が増え、戦争を全く経験していない人が7、8割を占めている。過去の戦争で取り返しのつかないことをやってしまったという気持ちを持っている人が本当に減った。小選挙区制でもあり、今の自民党は多様性に欠けている」
― 有権者の多くは説明不足と感じている。
「首相は『日本の難民を米国が船に乗せ救助している時に攻撃された場合はどうするのか』との説明を好んだ。米国は『そんなことはあり得ない』と断言したのに、閣議決定後の記者会見でまた持ち出した。『国民のため、戦争を排除するためです』と、極めて情緒的な説明を繰り返した」
― そもそも、国民を守るために集団的自衛権の行使は必要だと思うか。
「今回の論議を聞くと、個別的自衛権で対処可能だと確信している」
― ただ、軍備拡張と海洋進出を続ける中国との付き合い方は難しい。尖閣問題が深刻だ。
「2012年、当時の野田佳彦首相が石原慎太郎都知事にあおられて、国有化したのが問題の発端だ。中国の胡錦濤国家主席は『そんなばかなことをすると取り返しがつかなくなる』と警告したと聞いている」
― 首相は中国へのけん制を続けている。
「日中戦争と国交正常化、平和友好条約締結をめぐり、両国のやりとりの歴史がある。きちんと踏まえなければならない。観念的ではいけない」
― 首脳会談が開けない状態が続いている。
「安倍政権は『あれは民主党政権がやったことですから』と、尖閣問題国有化を横に置くこともできるはずだ。ただ福田康夫元首相が訪中し、習近平国家主席と会談した。後は首相が尖閣問題と靖国参拝をどうするかだ」
― 打開に向けた鍵は。
「政治家は特に、歴史の負の部分に向き合わなければならない。私は官房長官の時、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理に取り組んだ。これが、中国側との信頼関係を深めるきっかけになった。毒ガスの被害にあった中国人は今も苦しんでいる。何人もあって、話を聞いた」
― 戦後体験は国民の意識の中でも薄れている。
「傷ついた人や、犠牲になった人は忘れない。だが、今の日本は傷ついた人も、傷つけた人もほとんどいなくなった。勇気をもって発言してくれる人も少ない。広島、長崎の原爆記念日の宣言や被爆者代表の挨拶を、今こそ大切にすべきだ。福島第1原発の現実も忘れてはならない」
― 体験継承は可能か。
「どこの家庭にも先の戦争の傷跡は残っている。中東をはじめ世界各地でのむごい戦争が報道されている。若い人にも知る機会は必ずある。そこに希望を託したい」]