(前回からの続き)
前回、いまの日本の経済情勢で消費税の増税を図ることは、景気に冷や水をかけること、そして、「逆進性」(消費税率が上がると生活必需品への支出割合が高い人[低所得者]ほど税負担が実質的に大きくなること、といったところでしょうか)で中間層以下の市民層に多大な負担を強いること、の2つの点で「罪深い」と書きました。相続税には消費税の持つこの2つのデメリットを緩和する効果が期待できます。
まず一点目の、景気押し下げ作用の消費税と相続税との比較について。
経済学にはフローとストックという概念があります。文字通り前者は「マネーの流れ」、そして後者は「マネーの蓄積」といったような意味になります。この両者の観点から現状のわが国のお金の動きを見てみると、フローは滞り気味な半面、ストックのほうは潤沢、といった感じだと思います。したがってここはフロー、つまり景気回復を促すために消費や設備投資といった日常のお金の流れをより活発にするという方向性が大切だと考えられます。
税制との関連でいうと、いうまでもなく消費税にはこのマネーフローの抑制作用があるわけだから、景気が過熱気味なときならともかく、現在のようなタイミングで課税強化を図るべき税制としては適切とは言い難いと考えています。これに対し相続税はフローに直接かける税金ではありません。したがってかりにいま相続増税を図っても、フローへのダメージ、つまり個人消費とか景気に与えるマイナスの影響は消費増税と比較すればずっと小さいでしょう。
一方のストックのほうですが、家計の金融資産額1568兆円(2012年度:日銀「資金循環統計」)とか国富(家計正味資産)の額2195兆円(2011年末:内閣府「国民経済計算」)などのデータをみれば分かるとおり、こちらは千兆円単位もの額に積み上がっていて、フローと比較すれば相当に「ゆとり」があることが推察されます。ところが消費税はこのストックに課す税金ではないので、ストックがいくら増えても税収がこれに比例して増えるわけではありません。他方、相続税はストックに課す税金。だからといって固定資産税などと違って資産保有者の生前の資産に課税するわけではないから、これまた彼ら彼女らの消費・投資行動を妨げるものではありません。
このように、足元の景況(フロー)への悪影響回避という観点では消費増税よりも相続増税のほうが有効と思われます。そんなことから、景気回復に水を差すことなく財政健全化を進めなければならない日本にとって、相続税は双方の重大課題にバランスを取りながら対応できる数少ない税制だと考えています。
(続く)
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