(前回からの続き)
金利上昇と裏返しの現象ですが、QE3の縮小・停止にともなう債券価格の低下もたいへんリスキーです。
まずは不動産担保証券(MBS)です。
現在FRBは毎月400億ドルのMBSと450億ドルの米国債を市場から買っているわけですが、先日のFOMC後の会見でバーナンキ議長は、QE3縮小・停止の予定時期を具体的に示しつつも、FRBが保有するMBSは市場で売却しないと約束しました。アメリカの住宅市場はバブル崩壊から立ち直りつつあるとはいえ、まだまだ脆弱です。ここでFRBがMBSを手放し始めたらMBSの価格は急落、住宅ローン金利は急騰し、またもや住宅市場は大混乱に陥って米経済は深刻なリセッション入りへ・・・。
・・・そんな事態は絶対に避けなければなりません。だからこそ同議長は「MBSは売らない」と明言したのでしょうが、先日書いたように、それでも足元では住宅ローン金利がじわりと上昇(住宅ローン債券価格は低下)しています。そんななか、はたしてFRBは1年後、MBSの買い取りを本当に停止することができるのか?
そして米国債。
QEの開始によって、いまやFRBは中国、日本を抜いて世界一の米国債保有者となりました。その額は6月時点で約1.9兆ドル。今後もしばらくはQEが続くため、FRBの同保有額は今年中には2兆ドルを軽く上回る規模になりそうです。
さてその米国債ですが、上記のバーナンキ発言以来の金利急上昇のなか、投資家の売りが止まらなくなってきました。先週末(21日)時点の10年物米国債金利(長期金利)は2.53%と、直近では最も低かった4月末時点の1.6%台からわずか1ヵ月半ほどで1%近くも跳ね上がっています。それだけ米国債の価格が急降下しているということになります。
ちなみに日本の長期金利は4月末時点で0.6%くらい、そして先週末時点で0.87%となっており、たしかに乱高下はしているけれど、アメリカよりは落ち着いています。これはおもに「量的・質的金融緩和」で黒田日銀が大量の日本国債を買い入れているためなのでしょうが、アメリカの金利上昇を受けた「リスクオフ」モードの影響も少なからずあるものと推測しています。
MBSや米国債の価値低下は、これらを大量に保有する金融機関の財務を劣化させます。したがって各社はこれらを売り急ぐ一方、売却損や評価損の分だけ「貸し渋り」とか「貸し剥がし」などの対応を取ることでしょう(当然、米景気にはマイナス要因)。これに加え、債券価格低下にともなう損失の穴埋めのために株式を売却しようという動きも出てくるかもしれません。こうしたことによりアメリカでは、金融システムが不安定化するなかで、一層の債券安・株安・金利上昇が引き起こされそうです。
さらにFRBの資産の質も気になるところです。金利が上がるにしたがって、上述のように兆ドル単位にまで膨れ上がったこれら保有債券の価格下落が進むだけでなく、住宅ローンの延滞や破綻の増加でMBSのデフォルト多発が予想されることから、FRBの財務の悪化もまた避けられそうもないとみています。それはすなわちドルの信用の低下につながるわけで・・・。
といった具合で、先日のFRB議長が言及した「出口戦略」の開始、つまりQE縮小・停止がもたらすリスク(=金利上昇[債券価格低下])を食い止めることは、さすがのFRBでも極めて難しいだろうと思う次第です。
(続く)
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