いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

薬 65編

2005年09月04日 08時00分02秒 | 娘のエッセイ
 私が病院に勤務していた頃のこと。後輩の女の子が、とんでもない間違いを起
こした。一日分(朝・昼・晩)の量である三錠が一包みになっている便秘薬を、
一包みが一回分と勘違いして膨大な量の便秘薬を患者に渡してしまったのである。

しかもその薬をもらった患者は、一週間その薬を誤った飲み方で飲み「もっとく
れ」と言い出した。その後どうしたのかは忘れてしまったが、患者のおなかはど
うなっていたのだろう。

 高齢者達はよく薬を要求した。診療を受け、受付に来て薬が出ていないのを
知ると、必ず言う。「薬を下さい」そして彼らは山のような飲み薬や塗り薬を
もらってゆく。

薬を飲まないということに、高齢者達はとても不安を抱く。健康になったから薬
は要らないのに、薬を常に飲んでいないと自分は病気になるとでも思っているみ
たいだ。

 それとは反対に、薬を飲むのを極端に嫌がる人もいる。私の弟は「自己治療
する」と言って薬を飲まない。それでもスポーツで鍛えた体は回復力が旺盛で、
不思議と傷や風は早いうちに治った。

ま、こういう輩は害がないが、前に勤めていた会社には困った頑固ちゃんがい
いた。彼女は絶対に薬を飲まない。

頭痛がするけれどバファりンを飲まない……これは自分が苦しむだけだから、
ほっとけばいい。

厄介なのは、彼女が風邪をひいた時だ。コホコホと咳をしながら仕事をし、鼻を
かむ為に頻繁に席を立ち洗面所へ向かう。一週間経っても彼女のコホコホは変
わらない。

 「風邪薬は飲んでいるの?」と聞くと「私は薬は飲まないことにしている」と
言いながらコホコホである。

そのうち、周囲の人達が一人、二人と咳をしはじめる。そして気付くと一緒に仕
事をしている二十数人のほとんどが風邪っぴきだ。実に傍迷惑な話である。

 薬に依存しすぎる高齢者と、薬を意味もなく過敏に拒否する女の子。薬に対す
るこういう極端な意識を、改善する為の薬はないのだろうか。
コメント (1)
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