Eur-Asia

西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

アートは世界を変えるのか?

2007-04-18 12:57:42 | Weblog
今日はMoMAに務める友人のヴェランヌの誘いで、MoMAシアターにて開かれたローリー・アンダーソンとウィリアム・ケントリッジの作品のプレゼンテーションに行ってくる。シアターと芸術の関係、といった形の議論で、シアタースペースの変換というものがメインのトピックらしい。

ローリーはさすがパフォーマンスをやっているアーティストのことだけあって、レクチャーも非常に上手い。最新作であるヴァーチャル・シアターから旧作までビデオで披露したのだが、私が日本語訳を担当したローリー自身をテーマとした詩の作品も出てきて、ちょっと嬉しいと同時に、恥ずかしかった。

ケントリッジ氏は最近モーツァルトの「魔笛」をテーマとしたオペラを作ったらしいのだが、それがかなりの傑作らしい。ケントリッジ氏の作品は以前からシアトリカルであると思っていたが、以前に「ファウスト・イン・アフリカ」という作品を作っているらしくその作品の短縮版を披露してくれたのだが、その出来が素晴らしく、ぜひ見てみたくなった。

彼らは二人とも、ローリーが911以降の世界情勢を、ケントリッジ氏がアパルトヘイト問題を扱ってきた、ということもあり、質疑応答のコーナで私は彼らにこう質問してみた。歴史的に見て、シアターは必然的に政治や社会学と距離が近く、そういったテーマを扱うことが多くなると思う。そこでアーティストとして、あなた達はシアトリカルなアートを製作することが世界をより良くすることに繋がると思うのか、またもしそう思うのであれば、それはアートを作る上での目標になるのか、聞いてみた。

ケントリッジ氏は、アートを出来上がったオブジェクトと捉え、そのオブジェがたとえばその美しさやその装飾性に打たれた人がいて、それが世界を変えるようなことがあるかもしれないが、それは作品のbi-productであり、目標ではない、と答えてくれた。ローリーは、ア-トが世界を変えるとは思っておらず、世の中を良くしようとかいった考え方は、彼女自身が宗教家の家庭に育ってしまった関係もあり、どうしても抜け出したいものとして存在している、と言っていた。二人とも、大変素直に答えてくれたと思う。

憲法第九条という大テーマを扱う私にとっても、これは大きな問題だ。私の現在の最高の目標は、キュレーターという文化を生み出す側にいる人間として、最上級の文化を生み出す仕事をすることである。ヨーロッパ近代の問題と国民国家問題を扱ってきた身として、敵対概念とネーションそのものを解体してしまったこのとてつもない「九条」というものを、芸術を通じて論じてみたいのだ。繰り返すが、文化を創造するのが最大の目的だ。そして、その結果、九条の価値が見直され、守られていくことになったら、本望である。

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