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sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:ストーリー・オブ・マイワイフ

2023-03-17 | 映画


「心と体と」で第67回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した
ハンガリーのイルディコー・エニェディ監督の映画。

3時間弱と言う長さで、とある夫婦のグダグダを描いた二人劇みたいな映画ですがなんとも見応えがあった。
「心と体と」とは全く違うタイプながら同じくらい大変美しい映画で、
この映画について言いたいことも考えたいこともたくさんあります。
この監督もまた、新作が出たら必ず見にいきたい監督になりました。

1942年のハンガリーの小説が原作のようですが、舞台は1920年のマルタ共和国。
船長のヤコブは、悪友と遊び半分?でこのカフェに最初に入ってきた女性と結婚すると言い
そこに来た見ず知らずの美女リジー(レア・セドゥ)に本当に結婚を申し込む。
ちょっとしたおふざけのようなプロポーズだけど、本当に二人はその週末に結婚してしまう。
こういう賭けのような悪ふざけはありがちと思うけど、それを受け入れるリジーの気持ちは
最初から最後までよくわからない。彼女の行動と表情を見るしかないけど
それもどこか謎めいています。ファムファタルか。

ヤコブは彼女を愛するようになって、そうなると船乗りはつらい。
美しい妻を残して何ヶ月も海に出なければいけないし、会えない時間が
執着や妄想や嫉妬をどんどん育ててしまう。
執着すればするほど相手の心が離れるのもよくあることで、
そこにリジーの友人でスマートだけどチャラチャラした男が登場し…というお話。

冒頭の海の中の生き物のゆったりした映像は「心と体と」を思いださせたけど、
美術や背景は、北欧っぽい白く清潔に整ったシーンが多かった前作よりずっとクラシックな美しさで、
主人公の船の中や船長室もすごくいい。
二人の住む家もクラシックながらどこか寒々とした空間も感じさせて素晴らしい。
音楽はあまり使われていないけど要所要所に流れるバッハに胸が締め付けられる。
なんかね、全然違うし関係ないけど「冒険者たち」のラスト、海に浮かぶ要塞の
引きで映したシーンのレティシアのテーマだったかな、あの哀しげなメロディを思い出しました。
(遠い目になってしまいますね…)

愛し合っていてもうまくいかないカップルの映画や小説はたくさんあって、
子供の頃は、素直になればいいだけなのに、好き同士なのに、
なんでこの人たちちゃんとコミュニケーションしないの(正論すぎる)?といつも思ってたけど、
そういうこともあるよねというか、実際そういうことばっかりだな、と思う大人になりましたね。

どちらが悪いというのではないのにダメになったカップルの映画で印象的ないい映画って
「マリッジ・ストーリー」もそうで、大傑作。
先週見たばかりの「フェイブルマンズ」は映画愛の話と思って見たらむしろ夫婦の話と思ったし
「花束みたいな恋をした」も「窓辺にて」も、どれもわたしは好きだなと思う。
ふたりのどちらかが一方的に悪いのではなく、あるいはまだ愛し合ってるのに
関係が壊れていく、破綻していく、そういうのって哀しいものです。
誰も悪くないのに傷つけあったりしてうまくいかなくなってしまう哀しさ。
そういうものを映画や文学で見るのが好きなんでしょうね。

主人公のヤコブは大きくて無骨ながら優しい男の演技も嫉妬や怒りの怖い男の演技も上手く
オランダの人気俳優だそうです。
確かに、ロマンチックな役も権力者の役も、惨めな浮浪者や負け犬も何でもできそう。

ヒロインのレア・セドゥは、わたしは変な顔の大根だと思ってるんだけど
変な顔で大根でもいい役者というのはあって、彼女もそれだと思ってる。
存在感、美しさ、その表情の微妙な違和感と居心地の悪さ。
この役はやりたい女優さんは多そうだし、結構どんな女優さんでも
それぞれなりに上手く演じられそうだけど、レア・セドゥよかったです。

以下の監督インタビューを読むと、内面が描かれずミステリアスに見えたリジーが
一体どういう存在なのか少しわかり、また愛とは、執着とはそういうものよねと納得もします。
あなたはプレゼントを貰います。しっかりと閉じられたエレガントで素敵な小箱。その小箱を毎日 幸せな気持ちで眺めています。しかし、その箱を開くことが出来ないとしたらどうしますか? 最初 は繊細に開けようとします。次にナイフを使って試してみます。ハンマーを手にした時、箱そのものを 破壊してしまうことに気が付くでしょう。それから数日間、そのプレゼントを忘れるように努力しますが 徐々に、その中を少しだけ覗くためにはどんなことでもしようと考えます。実のところその素敵なプレ ゼントはあなたをいらだたせてしまうものです。  私は「愛」「情熱」「ドラマ」「冒険」など人生の様々な色合いについて、この映画-男性であること の意味、女性であることの意味、人間であることの意味についての感情的な物語を作りました。 リジーとヤコブ、レア・セドゥとハイス・ナバーそれぞれの特徴を理解しようとします。彼らは同じ人間 の男性的な部分と女性的な部分であったのかもしれません…。

あと、二人の住む家のインテリアですが、
最初のパリの家は暖色のロマンチックな甘く柔らかい光が差し込んでて、
後半のハンブルグの家は寒色系で重厚できちっと硬い感じなのもよく考えられていましたね。
照明はドラマツルギーの秘密兵器です。視覚的な美学を作るというよりも、特定の考えを強調するためのものだと考えています。アパートについては美術監督のイモラ(・ラング)とマルツェルと3人で、細部まで作り込みました。パリのアパートでは、リジーのくつろいだ雰囲気が出る照明が狙いでした。ミニマルでエレガントな透明感があり、窓から光が自由に降り注ぎ、人の姿にパッと目がいく空間。一方でハンブルグのアパートでは、天井が狭く複雑な間取りによって、カメラはあらゆる空間を、ドア枠や窓枠を通してのぞき見できます。全体に濃い色で統一され、壁紙の攻撃的ともいえるパターンや、必要最低限の光を取り入れる細長い窓が特徴です。ここで、二人の問題はますます深まっていきます。

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