教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

鳥取県教育会と教師―学び続ける明治期の教師たち

2015年04月12日 20時35分10秒 | 研究業績情報

 本日、このブログ開設から3655日目だそうです。10年も続けていたなんて…日記を3日で書かなくなる子どもだったのですが、すごい成長です(笑)。これも皆さまのおかげ。

 さて、先日紹介しました拙著『鳥取県教育会と教師―学び続ける明治期の教師たち』について、章節構成を紹介します。本書の目的は、明治30年代の鳥取県教育会に見られた、小学校教員の資質能力向上に関する構想の展開過程を検討することです。これにより、鳥取県における「学び続ける教師像」の起源を明らかにしようとしました。ここでの「学び続ける教師像」とは、平成24年中教審答申以来課題になっている「学び続ける教員像」といちおう区別したもので、明治期における継続的学びの重要性を強調する教員イメージを指します。

 はじめに
1 鳥取県教育会とは何か
 (1) 明治期鳥取県教育会の目的と事業
 (2) 因伯私立教育会の結成―鳥取県教育会の嚆矢
 (3) 明治期鳥取県教育会の会員と幹部
2 鳥取県教育会における小学校教員批判の勃興
 (1) 明治30年代における小学校教員
 (2) 日清戦争後の小学校教員批判
 (3) 教員検定試験と教員の学び
 (4) 県内教員の性質に対する批判
3 鳥取県教育会における教育研究態度批判の展開
 (1) 県内教育界の混乱・鎮静・安定化
 (2) 授業参観・批評の奨励
 (3) 実践的・実効的教育研究の推進を目指して
 (4) 子ども・地域・国家の事情に応じた教育開発
 (5) 明治30年代の鳥取県教育会における小学校教員批判の特徴
4 鳥取県教育会による教育研究の奨励
 (1) 鳥取県教育会における事業の多様化
 (2) 教員講習事業の展開
 (3) 県内における教育研究の発表推進
 (4) 日露戦争に関わる教育研究調査
 (5) 県内外に拡がる教員社会の形成と教育研究の奨励
 (6) 教育成果と教育研究
 おわりに

 以上が章節構成です。もとになっている論文・発表の初出は、研究業績一覧の27番、口頭発表一覧の33番、はじめに・第4章・おわりには完全描き下ろしです。研究業績一覧の18番・20番や学位論文と一緒に読むと、より視野が広がります。私の研究の位置づけ的には、学位論文の続編です。
 もう少し詳しい目次は、そのうち鳥取県立公文書館HPで公開されるのではないかと思います。一般販売は4月15日から、鳥取県内の書店か、鳥取県立公文書館を通して購入できるようです。

 明治期に誕生した小学校教員という職業。その実態は低待遇・非専門的・腰掛的態度などの課題を抱え、すぐに専門的な職業として確立したわけではありませんでした。明治期の指導的教員たちは、教育会を駆動させて教職を専門的職業化しようと試みました。この明治期における教職の専門的職業化過程について、教育研究構想に注目して明らかにしようとしたのが本書です。教育研究活動は、教員の自律的な専門的力量向上に不可欠です。明治30年代に現場における教育研究活動が活性化したことはこれまで指摘されてきましたが、具体的にどのようなプロセスでいつごろどのように活性化していったかは十分に明らかにされてきませんでした。本書は、鳥取県の唯一の全県規模教育団体であった鳥取県教育会の内部に限ってですが、100年も前の指導的教員たちが、教職を務めるためには互いに学び続けなければならないと強調し、授業の批評を始め、具体的に組織的な動きを見せていた事実を明らかにすることができました。しかもこの教育研究奨励の動きが、明治40年の義務教育年限延長に先だって、小学校6年制成立後の国民教育を支える重要な手段の一つとして位置付けられたことも明らかにしました。また、鳥取県では大正期に新教育運動が活発に進められましたが、その前史として「さもありなん」と思いたくなるたくさんの事実が明らかになりました。
 細かいところでも面白い事実が明らかになっています。県師範学校長であり県教育会副会長であった土井亀之進が、明治30年代後半に大量の二宮尊徳・報徳思想研究の成果を県教育会で発表していたこと。峰地光重が教員生活を始めた明治40年代に、芦田恵之助が県教育会夏期講習会の講師を2度も務め、明治43年にはその講義録が県教育会によって出版されたこと。県教育会准教員講習所では、学科講習だけでなく課外活動も行われており、多くの講習生が共同生活を行い、その世話をしていたのが所長の山内良千(良仙、国家主義者・神道関係者で日常的修養を重視した人物、大正期に活躍)であったこと。明治40年代に教育品展覧会の意義として、教員たちの継続的な研究を奨励し、教育成果と研究成果とを結び付けて評価するという意義が見出されたこと。などなど。これらについては紙幅の都合上簡単に指摘するにとどまりましたが、様々な分野にわたる重要な研究課題が見出せたと思います。私だけでなく、多くの研究者のさらなる研究のきっかけになれば幸いです。

 4月頭に公文書館から寄贈分が発送されたようです。その結果、尊敬する先輩学者の方々から、自分の学生にも読ませたいとか、教師の将来を励ます出来であるとか、この上ないお褒めの言葉をいただくことができました。望外の喜びです。ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思っています。よろしくお願いします。

※ 本書の正誤表
・12頁10行目 誤 芦田恵之助『国語教授法講義』(明治三四年刊 → 正 芦田恵之助『国語教授法講義』(明治四三年刊

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