教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

無知の知

2005年06月18日 21時16分54秒 | Weblog
 ずいぶん前になりますが、NHK教育をふとつけたとき、ETV特集でロシアのアニメ巨匠(アニメといっても我々のイメージからいうと、劇画といった方がよろしいかも)であるユーリー・ノルシュテイン氏の活動がクローズアップされていました。彼は、日本にたびたびやってきて、ノルシュテイン賞を作り、日本の若手のクリエーターを育成しているとのこと。その上映会の後、ノルシュテイン氏が出品者の日本の若手クリエーターたちに、作品があまりに抽象的であり、リアルさがないことを述べながら最後に彼らの言った一言が心に残っています(彼はロシア語をしゃべっているので字幕ですが)。

 「あなたがたは無知を恐がっているのです。
     だから自分の殻にとじこもるのです。」

 無知のために、自分の頭だけで考えるしかなく、その結果作品が抽象的になる。しかも、プライドという殻をもって、無知であることを認めない。この状態では、人々に訴えかけるような、優れた作品を作り上げることはできない。抽象的な作品、自分がわかっているだけの自己満足の作品では、人に理解してもらえる作品にはなりえない。ノルシュテイン氏は、若手クリエーターたちに対して、自分の抽象的な殻を破りなさい、人間の生活をとらえなさい、さまざまな作品に触れなさい、といったことを続けて諭していました。つまり、自分の頭だけで考えるのではなく、たくさんの実物に、現実に触れなさい、ということをいっていたと思います。
 我々も、自分の無知を知ることを恐がって、無知である現実に目を背けていないだろうか。現実に働きかける作品を作り上げようとしているはずなのに、自分の頭の中で考えたことだけで仕事を進めようとしていないだろうか。
 思考の暗闇は、実は自分で目を閉じているから生じるのである。

 なんちゃって。
コメント (4)
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