4月1日の朝刊には、大阪府教育委員会の人事異動の発表がある。長年の習慣でこれに目を通さないと新年度が始まったことが実感できない。さすがに現場を離れて10年余りとなると名前を見て顔の浮かぶ人は少なくなる。今年は4人ほどになった。「時は過ぎゆく」を感じる。
人事異動をはじめ4月は進級、入学、入社と環境が大きく変化する月だ。この時期の学年だよりに使うお決まりのタイトルが
「CHAGEの時は、CHANCEの時」だった。記憶の底に沈んでいたフレーズだったが、先だって夢中で読んだ原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」(徳間文庫)の中で出て来て懐かしさを覚えた。長い歴史を持つ製菓会社トウタカの新規プロジェクトを立ち上げるプレゼンでのやり取りである。
しかし、トウタカは長い歴史を持つ会社です。変わらない方がいい、と言うファンもいるんじゃないでしょうか」
プロジェクトチームのリーダーに任命された臼井広報部長が口をはさんだ。私は心中、拍手を送った。いいぞいいぞ、臼井部長!
「おっしゃるとおりですね」と、ワダカマは臼井部長に視線を投げながら答えた。
「そういう人々のことを、世間では『保守的』と呼びます。決して悪いことではない。けれど、世の中が後ろ向きになっているときに、保守に走る企
業がどうなるか・・・・」
会議室に集まっている全員の顔をひととおり眺めると、おごそかにワダカマは言った。
「時代に取り残されるだけです」
今度は臼井部長がむっとするのがわかった。部長が何か言いかけるのをさえぎって、ワダカマは再びホワイトボードの前へ歩み寄った。
「『変わる』ということが、どういうことか。いま、お見せしましょう」
そして、指先でホワイトボードに書かれた「G」の文字の右端をこすった。
あ。
GがCになった。ってことは・・・・・。
「ほらね。『CHANGE』は、ちょっと変えるだけで『CHANCE』になるんですよ。」
ほう、と役員たちのあいだから感嘆の声が漏れた。会議室がざわついた。私は、うまい!とつい膝を叩きそうになるのをぐっとこらえた。
「大切なのは、これ。GをCに変える、ちょっとした勇気を持つことです。臼井部長のおっしゃることは当然です。歴史と伝統のあるトウタカ文化を継承しながら、どう変わっていくか・・・・・」
ワダカマは、マジックで黒く汚れた指先をさし出して見せた。
「そのために、僕はこうして、頭と手を動かしたいのです。皆さんと、ご一緒に」
人事異動をはじめ、生きていく中では「チェンジ」の機会は多い。思い通りのケースもあるが、不本意な「チェンジ」のほうが圧倒的に多いのではないかと思う。それらをネガティブにとらえるのではなく、「新しい出合いがある」「自分の違った面が出せる」と前向きに「チャンス」ととらえることが大切だと考えて来た。
そういう思いを込めて「CHAGEの時は、CHANCEの時」を念仏のように唱えてきた。
府教委人事で気になる方が一人いた。孫2人は、この4月それぞれ小学校と大学に入学する。今日、心の中で密かにこの言葉を唱える。
人事異動をはじめ4月は進級、入学、入社と環境が大きく変化する月だ。この時期の学年だよりに使うお決まりのタイトルが
「CHAGEの時は、CHANCEの時」だった。記憶の底に沈んでいたフレーズだったが、先だって夢中で読んだ原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」(徳間文庫)の中で出て来て懐かしさを覚えた。長い歴史を持つ製菓会社トウタカの新規プロジェクトを立ち上げるプレゼンでのやり取りである。
しかし、トウタカは長い歴史を持つ会社です。変わらない方がいい、と言うファンもいるんじゃないでしょうか」
プロジェクトチームのリーダーに任命された臼井広報部長が口をはさんだ。私は心中、拍手を送った。いいぞいいぞ、臼井部長!
「おっしゃるとおりですね」と、ワダカマは臼井部長に視線を投げながら答えた。
「そういう人々のことを、世間では『保守的』と呼びます。決して悪いことではない。けれど、世の中が後ろ向きになっているときに、保守に走る企
業がどうなるか・・・・」
会議室に集まっている全員の顔をひととおり眺めると、おごそかにワダカマは言った。
「時代に取り残されるだけです」
今度は臼井部長がむっとするのがわかった。部長が何か言いかけるのをさえぎって、ワダカマは再びホワイトボードの前へ歩み寄った。
「『変わる』ということが、どういうことか。いま、お見せしましょう」
そして、指先でホワイトボードに書かれた「G」の文字の右端をこすった。
あ。
GがCになった。ってことは・・・・・。
「ほらね。『CHANGE』は、ちょっと変えるだけで『CHANCE』になるんですよ。」
ほう、と役員たちのあいだから感嘆の声が漏れた。会議室がざわついた。私は、うまい!とつい膝を叩きそうになるのをぐっとこらえた。
「大切なのは、これ。GをCに変える、ちょっとした勇気を持つことです。臼井部長のおっしゃることは当然です。歴史と伝統のあるトウタカ文化を継承しながら、どう変わっていくか・・・・・」
ワダカマは、マジックで黒く汚れた指先をさし出して見せた。
「そのために、僕はこうして、頭と手を動かしたいのです。皆さんと、ご一緒に」
人事異動をはじめ、生きていく中では「チェンジ」の機会は多い。思い通りのケースもあるが、不本意な「チェンジ」のほうが圧倒的に多いのではないかと思う。それらをネガティブにとらえるのではなく、「新しい出合いがある」「自分の違った面が出せる」と前向きに「チャンス」ととらえることが大切だと考えて来た。
そういう思いを込めて「CHAGEの時は、CHANCEの時」を念仏のように唱えてきた。
府教委人事で気になる方が一人いた。孫2人は、この4月それぞれ小学校と大学に入学する。今日、心の中で密かにこの言葉を唱える。