とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

27 私が死んだ訳4

2015-05-19 00:01:40 | 日記



 いよいよ約束の日。私は妻に500万円を渡しました。こんな大金どうしたの ? 妻は疑うような顔つきで私を見つめました。これからの生活費にと思ってある人から借りた。誰なの ? 妻は紙包みを抱きしめながら、女の人でしょう、と言いました。いや、変な心配しなくてもいい。私はそう言い残して家を出ました。
 私は、何が起こるか分からないので、身構えて綾野のアパートに車で出かけました。駐車場に車を止めて、アパートの階段を恐る恐る登っていきました。部屋に入ると、綾野はすっきりした白いワンピースを着ていました。私を乗せてって、車お願いね、下で待ってます。そう言うので、私は駐車場まで駆けて行きました。
 アパートの下に車を止め、出ると、階段の下で綾野が横たわっていました。抱き起こすと、顔に血が付いていました。

 「どうしたんだ」

 「あいつにいきなり殴られた」

 「あいつ ?」

 「私のところにたまに来る嫌な男だわ」

 「旦那 ?」

「いや、嫌な男」

 「で、その男・・・」

 「逃げたい。早く逃げたい。早く車に乗せてちょうだい」

 私は、抱き抱えて車に乗せました。綾野はしきりに、ヤクソク、ヤクソク、と言いました。

 「ヤクソクを果たしてちょうだい」

 「ど、どうすればいいんだ」

 「とにかく車を出して」

 「どこへ行く ?」

 「海岸。海が見たい」

 「分かった」

 私は、近くの岬に向かって車を走らせました。走っているうちに、私は、異常に興奮している自分に気づきました。このまま海へ突っ込みたい。そんな衝動が湧き上がってきました。

 「ああっ、海が見える。海が見える」

 「綺麗だ」

 「天使になりたい」

 「なに。天使 ?」

 「そう、天使」

 「どういうことだ」

 「あの岬からこのまま空へ・・・」

 「・・・」

 私は、やっと意味が分かりました。納得すると、急に莫大なエネルギーが満ちてくるのを感じました。アクセルをいっぱいに踏むと、恍惚感に満ち満ちてきました。・・・車は、岬のガードレールの隙間から飛び出して宙に浮かびました。

 「ああ、私に、羽根が生える、羽根が・・・」

東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。