
おい、おい、電信柱さん、お前さんは何を悩んでいるんだね。えっ、悩んでいる ? そうだよ、あの娘のこと。・・・私は地蔵尊にそう問われて、却ってほっとしました。そうです。父が娘を殺してまで転生させること。そんなことは許せるのかということでした。
「私は長い時間、ここでいろいろな出来事を見てきた。・・・そうだな、中でも戦のことが一番心に残っている」
「イクサ ?」
「そう、戦。何度も何度も見てきた。弓矢、刀の戦から鉄砲の戦。親子、兄弟の戦も見てきた。だから、ここには死者の霊が夥しいほどさ迷っている。転生して動物や植物になったものもいる。人間になったものもいる」
「空気の気配ですね」
「旨いことを言うね、貴方は」
「いや、正直、何かが蠢いている、その気配が」
「そうだ。その通り。耳を澄ますと、うめき声、すすり泣きの声もする」
「だから、あの父親の鳥もその中の一つに過ぎない。父は、何も娘の首を絞めて殺したのではない。」
「霊の転換ですね」
「そうだ。瞬時に鳥に変える。・・・見事な業だった。父は相当位の高い霊だと思われる。修行を積んだ証だ。何より娘への愛情が深い」
「医学の限界を見抜いていたという・・・」
「そうだ。万能ではない。死ぬべきものはいずれ死ぬ」
「あの娘、私は・・・、私の娘のような・・・、いや、何でもありません」
「隠さなくてもいい。私は大体が分かっている積もりだ」
「ああ、御免なさい。・・・あの娘、父は、他の霊を保有している可能性があると言ってましたが・・・」
「元のままの霊を獲得することは難しい。こんなに夥しい霊に満ち満ちているからな」
「他の娘の霊も入り込むことがあるということですね」
「そうだ。ほとんどは元の霊だが、再転生させる隙に、他の霊が入り込む、・・・と言っても微々たるものだと思うが・・・」
「母親は気づくのでは・・・」
「それも霊性の高さによる。気づくこともあるし、ないかも知れない」
「お地蔵様、またこで戦が始まることもあるでしょうか ?」
「あるかも知れない。どうしても防ぎたい。しかし、私一人では力が足りぬ」
「六地蔵様であれば・・・」
「六道輪廻。六道のどこへでも出かけられる」
「ぜひ、そのお姿に・・・」
「そうじゃ、そうありたい。共に修行に務めよう」
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