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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

10 戦 場

2015-02-07 23:23:59 | 日記


 おい、おい、電信柱さん、お前さんは何を悩んでいるんだね。えっ、悩んでいる ? そうだよ、あの娘のこと。・・・私は地蔵尊にそう問われて、却ってほっとしました。そうです。父が娘を殺してまで転生させること。そんなことは許せるのかということでした。


 「私は長い時間、ここでいろいろな出来事を見てきた。・・・そうだな、中でも戦のことが一番心に残っている」

 「イクサ ?」

 「そう、戦。何度も何度も見てきた。弓矢、刀の戦から鉄砲の戦。親子、兄弟の戦も見てきた。だから、ここには死者の霊が夥しいほどさ迷っている。転生して動物や植物になったものもいる。人間になったものもいる」

 「空気の気配ですね」

 「旨いことを言うね、貴方は」

 「いや、正直、何かが蠢いている、その気配が」

 「そうだ。その通り。耳を澄ますと、うめき声、すすり泣きの声もする」

 「だから、あの父親の鳥もその中の一つに過ぎない。父は、何も娘の首を絞めて殺したのではない。」

 「霊の転換ですね」

 「そうだ。瞬時に鳥に変える。・・・見事な業だった。父は相当位の高い霊だと思われる。修行を積んだ証だ。何より娘への愛情が深い」

 「医学の限界を見抜いていたという・・・」

 「そうだ。万能ではない。死ぬべきものはいずれ死ぬ」

 「あの娘、私は・・・、私の娘のような・・・、いや、何でもありません」

 「隠さなくてもいい。私は大体が分かっている積もりだ」

 「ああ、御免なさい。・・・あの娘、父は、他の霊を保有している可能性があると言ってましたが・・・」

 「元のままの霊を獲得することは難しい。こんなに夥しい霊に満ち満ちているからな」

 「他の娘の霊も入り込むことがあるということですね」

 「そうだ。ほとんどは元の霊だが、再転生させる隙に、他の霊が入り込む、・・・と言っても微々たるものだと思うが・・・」

 「母親は気づくのでは・・・」

 「それも霊性の高さによる。気づくこともあるし、ないかも知れない」

 「お地蔵様、またこで戦が始まることもあるでしょうか ?」

 「あるかも知れない。どうしても防ぎたい。しかし、私一人では力が足りぬ」

 「六地蔵様であれば・・・」

 「六道輪廻。六道のどこへでも出かけられる」

 「ぜひ、そのお姿に・・・」

 「そうじゃ、そうありたい。共に修行に務めよう」

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