とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

まさかの坂

2012-05-17 23:25:24 | 日記
まさかの坂



クラムスコイ「 見知らぬ人」(1883年制作 トレチャコフ美術館、モスクワ)
 
 上り坂・下り坂・まさかの坂。・・・こんなことを誰が言いだしたか私は知らない。偉い外国のお方かも知れない。この中の三つ目の「まさかの坂」だが、これを悪い意味に理解するお方が多いようである。
 私の人生、というか今までの経験から考えて、この「まさかの坂」が随分多かったような気がする。世の中の動きを見ていても、評論家や学者、政治家、宗教家等があれこれ未来のあり方とか予想を論じるが、ぴったりその通りになったことがあまりない。要するに「まさか」が多すぎると思うのである。しかも悪い「まさか」も起きるが、いい意味での「まさか」が起きる確率もかなり高いと思う。
 不条理な出来事と言うが、不条理であるのが世の真実ではないだろうか。だから、私たちは悪い「まさか」が起きても何とか乗り越える知力・体力を備え持っていなければ生き延びられないと思うし、一方で救ってくれる「まさか」が起こる仕掛け・下ごしらえもしておかなければならない。・・・矛盾している? そうかも知れないが、私の経験からして、いい意味での「まさか」はタナボタ式ではないように思える。上の絵はそういう不条理とは関係はないが、絵の技法の上で「まさか」を実現させた名作である。この絵の女性の目線は下を向いている。従来の画家が試みなかったアングルである。しかし、下から描くという技法が悲しげで妖しげな表情を見事定着させた。

 古賀画伯からの連絡によりますと、驚いたことに冴子さんとお父さんが島根に帰る準備をしているとか。


 そりゃ、大変じゃないですか。京子さんの新しい出発がまた混乱することに・・・。

 ちょっと待ってください、畝本さん。冴子さんの気持ちは島根のどこかへ帰るということで、求めてかつてのごたごたを蒸し返すつもりではありません。

 といいますと・・・。

 はっきり言いますと、京子さんの新しい家庭といいますか、仕事も含めた再出発を支援したいそうなんです。

 といいますと・・・。

 京子さん夫婦、・・・そうですね、まだそうなっていませんでしたね・・・だから、その、あの二人はですね・・・。

 分かりやすく仰ってください。

 そうでした。・・・落ち着いて言います。・・・二人は事務所を開くようです、・・・美術制作の。

 事務所?

 そうです。事務所です。その名前はどうでもいいんです。要するに腰を据えて二人で本格的な画家としての出発をするということのようです。

 分かりました。で、冴子さんとお父さんが帰ってくることと・・・。

 ええ、その両者の関係ですね。

 そうです。

 冴子さん夫婦は京子さんの近くに住んでいて、冴子さんが画商的な仕事をするというのです。

 画商?

 そうです。商業ベースに乗せるための支援をするというのです。冴子さんならできると思います。

 で、京子さん、いや、二人はどういう気持ちですか。

 それが、随分乗り気なんです。

 古賀さん、それはまずいじゃないですか。

 どうしてですか。

 京子さんのお母さんを苦しめることになる。・・・それから、長柄さんはこのことを知っておられるんですか。

 お母さんはどうもそんなに悪く思っていらっしゃらないようです。それから、長柄さんも賛成のようです。

 そうですか。・・・私はあまりの急激な展開にしばらくぼおっとなっていました。

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