大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 019『兎に角』

2024-05-10 10:14:55 | 自己紹介
勇者路歴程

019『兎に角』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「あ……えと……ここはどこなのかな?」

「来たばかりでよく分かりませんけど、神話世界のどこか……あるいは、そこから枝分かれした亜世界」

「異世界?」

「いえ、異ではなくて亜です。亜世界……どう言ったらいいんだろ……なりそこないの世界、尺とかの関係で脇に置かれたプロット的な……」

「ああ……要はボツになった?」

「う~ん、そうとも言えますが、異世界と違って、本編の神話や歴史と通い合っている部分が大きいと思います。でも、まあ……」

「あまり言葉にはしない方がいいのかな」

「アハハ……言霊ということもありますからぁ(^_^;)」

 それなら……と、インタフェイスをメモ帳にして書いてみた。

――兎に角、ここで、問題を解決しろということ?――

「兎に角(ウサギにツノ)?……ああ、トニカクって読むんですね。え、まあ、そういうことです」

 インタフェイスを消そうと思ったら『兎に角』の文字が抜け出し、ビクニと二人、目で追うと、草原の向こうに落ちて光を放った。

 シャララ~ン

「え、なんだ?」

 草をかき分けて道に出て見ると、ウサギが大急ぎで走ってくるところだ。

 大急ぎのウサギに関わるとろくなことが無い。

 ビクニも同感のようだが、ちょっと変わったウサギなので、つい声に出てしまう。

「ウサギに角がある!?」

 しまった。と、ビクニは口に手を当てるが、振り返ったウサギと目が合ってしまった。

「わたしの角が見えるんですか……というか、わたしのことが見えているんですね」

「あ、偶然よ偶然、ごめんなさいね、声を上げてしまって」

「ああ、どうぞ先に行ってくれたまえ」

 そう言ってやると、ウサギは、ポンと手を打ち、角を引っ込めて近づいてきて、二人をジロジロと観察する。

「あの……」「えと……」

「そうか、あなたたちが探し求めていた勇者なのかもしれません!」

「「ええ?」」

「あ、申し遅れました。わたし、こういう者です」

 慣れた営業マンのように両手で名刺を差し出すウサギ。

 名刺には『因幡の白兎課長代理』と書かれていた。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)026・GAME OVER!

2024-05-10 06:21:30 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
026・GAME OVER!                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





「ご、ごめん。イヤホン抜いたら、こうなっちゃって……」


 部室にもどると、空気がおかしかった。

 吸血鬼であることがバレた男って、こんな感じじゃなかったかと思う啓介であった。

 千歳も須磨も、できたら同じ空気を吸いたくない。そんな感じで距離を取っている。

 すぐに分かった。

 ノーパソが点きっぱなしで、画面の中では3か月かけて軌道に乗せたグローバルクラブがクローズドになっている。5人のメイドさんたちは、3か月前、クラブに来たときの私服に着替え、ボストンバッグやキャリーバッグを手にして背を向けている。

「だ、大丈夫。セーブさえしていなかったら、やり直せるから……」

 啓介は、エスケープキーを押して強制終了させてから再起動させた。


 GAME OVER! 時間がたちすぎてしまいました 最初からお始めください


 画面には無情の一行が点滅している。

「あ、あああああああああああ(ll゚゚Д゚゚ll) !!」

 啓介は、くずおれてしまい、年代物の椅子が断末魔のような悲鳴を上げた。

「で……でもね先輩ぃ……部室でアダルトゲームやってるのも、その……どーかと……(^_^;)」

 千歳は、車いすを軋ませて、やさしく言った。

「この部室では、何をやっても自由やねん。カルチェラタンやねん、せやさかいに……」

「そうなんだろうけど……あたしも、須磨先輩も、こういうのには慣れてないから……ってか、それと、もっと三次元に係わったほうがいいと思うんですけどぉ」

 やさしい物言いではあるが、けっこう厳しいことを言う千歳ではある。

「千歳ぇ、ちょっと言い過ぎじゃないかな。啓介はイヤホンでやってるし、席を立つときも画面は見えないようにしていたよ。今回は、部長さんたちが押しかけてきてオフにする暇もなかったんだし」

「いや、オーラルモードをロックしてなかったのが悪いんです。もっかい最初からやり直します」


 啓介は、カーソルをニューゲームに持って行ってクリックした。


 千歳と須磨は、申しわけない気持ち半分、好奇心半分で画面を覗き込んだ。

「あーー、掃除からせなあかんねんやったぁ……」

 グローバルクラブというゲームは、自分でメイドクラブを経営するゲームで、最初に、手に入れたクラブの建物の掃除からやらなければならない。

「ほー、ひたすら画面をクリック、あるいはタッチするのね」

 啓介は、三月の終わりにグローバルクラブを始めた時に腱鞘炎になりかけたことを思い出した。

「あ、先輩。あたしも手伝います」

 千歳が、しおらしく申し出る。

「じゃ、ボールペンの尻でタッチしてもらえるかなあ」

「よし、あたしも」

 須磨も加わって、三人で画面をタッチし始めた。


 <<<ドバッ!!>>>


 いきなり画面が震え、次の瞬間、爆発のようなエフェクトがあって、画面は無数の、そしてありとあらゆる害虫に覆いつくされた。

 高温多湿の6月なので害虫が大量発生しました!

「すごい、このゲーム、カレンダーに連動してるのね!」

「ハハ、リアル~!」

 やり始めると、面白がる二人だが、啓介は思い出した。

「そうや! えらいことになってるんやった!!」
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     



 
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