大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・046『朝飯前のラビリンス・1』

2024-05-11 16:01:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
046『朝飯前のラビリンス・1』 




 ブレザーを着て朝食に行こうとしたら、ポケットがグンと重くなった……と思ったら、いっしゅんで軽くなる。

 ちょ、なにしてんのよ?

 声に出さずに、部屋のどこかに居る御息所に声をかける。

『くそ、やっぱり気が付いたか』

「分かるわよ、長い付き合いなんだから」

 ポケットがグンと重くなったのは、御息所が踏ん張ったから。いっしゅんで軽くなったのは、踏ん張りを効かせてポケットから飛び出したから。
 御息所は、霊体同然で重さなんかほとんどないんだけど、付き合いが長いから分かってしまう。

『ネルの爺さんと変な契約したでしょ。巻き込まれるのヤダからね、しばらくは部屋にいるわ』

「あ、そう」

 ちょっとツッケンドンに返事して回れ右。

 嫌な時には黙って姿をくらますのが御息所流。それが、気配を悟られたからといって、わざわざ『巻き込まれるのヤダからね』とにくたらしく返されるとムカつく。

 チ (`ε.´●)(; `-)

 舌打ちまで重なってしまって、ますますシャク。

 バタン

 乱暴にドアを閉めて廊下に、数歩歩いて鍵を閉めていないことに気付く。

 ネルは先に食堂に行ったし、御息所は居ても何の役にも立たないし、鍵はかけなくっちゃ。

 カチャ

 鍵をかけて、再び廊下を歩く。

 あれ?

 廊下の果てが見えなくなっている……広い宿舎だけど、ちゃんと廊下には突き当りがあって、突き当りからは階段が下っていて、一回の食堂に行けるはずだ。

 自分の部屋からは50メートルも歩けば突き当り……のはずが、廊下は、はるか霞に霞んで見えなくなるところまで、ズーッと廊下。

 あ、やられた!

 あやかし慣れしてるんで、パニックにはならない。

 ただね、こういうあやかしのシデカシを見抜いて綻びを見つけ、それをやっつけるのは、とてもめんどくさい。ナザニエル卿が言っていた七匹のあやかしに違いないだろうから、日本の森で出会ったアレコレとは違うだろうし。

 廊下の右側は寄宿舎だからドアが並んでいる。左側には外に繋がる窓が柱のワンスパンに一個の割で付いている。

 ドアを見ると自分の部屋の番号と名前が付いている……から安心ではない。

 部屋を出て10メートルちょいは歩いてる。もう二つか三つ隣の部屋の前のはずだ……一つ戻って確認。

 思った通り、同じ番号、同じ名前。

 窓から外を見る……いつもの景色なんだけど、これもクセモノ。

 隣りの窓……さっきの窓と同じ景色。窓のすぐ外の木の枝ぶりまでいっしょ。きっと、どこの窓からでも同じ景色しか見えない。

 安物のゲームが同じテクスチャを繰り返してラビリンスやダンジョン作っているのと同じ。

 試しに窓を開けてみると、外の景色ではなくて、ここと同じ廊下だ。景色は窓ガラスに投影された3Dの映像みたいなものだ。

 感覚的には三つ手前のドアが本当の自分の部屋。

 三つ戻ってドアのカギ穴を覗く……自分の部屋が見えている。
 
 でも、安心はできない。

 鍵を開けてドアを少しだけ開けて覗いてみる……自分の部屋なんだけど、うさんくさい。

 ハンカチを丸めて投げてみる……ハンカチは一メートルも行かないところで消えてしまう。

 ああ、やっぱり3Dの映像だ。

 窓にしろドアにしろ、そこから見えているものはフェイクで、そこから出たら……たぶん、同じ廊下だと思う。

 一見すごくは見えているけど、ゲームで言えば数百メガバイトくらいで作れてしまう低級なラビリンス。

 でも、ヤケになってウロウロしたり飛び出したりしたら、体力も気力も擦り減らして倒れるか発狂するか。

 ええ!?  なんでぇ!?  どこだ!?  ここは!?  ちょっとぉ!

 微かだけど、みんなの声が聞こえる。

 低級なせいか、混乱させるたものフェイクか……返事したり呼びかけたりしてはダメだ。

 なまじ声だけするから、みんな必死で伝えようとして、かなり早く体力を奪われる。

 それに、みんな朝ごはんのために食堂にいくところなんだ。お腹が空いているだろうし、それに飲み水だって持ってない。

 声を出して動き回ったら三日ももたないだろう。

 けっきょくは、無限にあるだろう真のドアを見つけて出ていくしかない。

 おーい!  だれかぁ!  返事してぇ!  おーい!

 ああ、そんなに叫んで……三日ももたないかもしれない。

 朝飯前のラビリンスは朝めし前というわけにはいかないようだ……


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)027・和解のシュチュエーション

2024-05-11 06:20:17 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
027・和解のシュチュエーション                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 演劇部は、部室棟から締め出されそうだ。

 部室に湧いた害虫をバルサンしたところ、害虫たちは他の部室に移動して大繁殖してしまったのだ。


「「「「「「「「「「演劇部は出ていけ(>◇<)!」」」」」」」」」」


 怨嗟の声が部室棟に満ち満ちた!

「……グローバルクラブの害虫退治やってる場合やないなあ」

 啓介は、害虫たちに蝕まれていくグローバルクラブに痛ましい目を向けながらノーパソを閉じた。

 パフ

「「オワーーーーー(>▢<)!!」」

 はずみでノーパソから1000匹ほどのダニとシラミが噴き出てきたような気がして、千歳と須磨はのけ反った。

「あ、これはノーパソに溜まってたホコリやさかい……」

 害虫退治はやったが、掃除までは行き届かない演劇部である。

「ちょっと話つけてくるから、二人はここに……長引くようやったら先に帰ってくれてええさかい」

 そう言うと、テーブルを「バン!」と叩いて、啓介は立ち上がった。

 演劇部を糾弾する声が、すぐそこまでに迫っている。

「啓介ぇ……」

「啓介せんぱーい……」

 千歳と須磨は、絞首刑をうける囚人を見送るような声音で啓介を見送った。


「え…………」


 拍子抜けがした。部室棟の住人達は、演劇部とは離れた廊下の西の外れ、それも背中を向けてざわめいている。

「ん……あれは?」

 人ごみの向こうで、形の良い両手がハタハタと動いているのが見える。近づいてみると、両手の間に見慣れた顔が演説している。

「だぁから~! これは演劇部だけの問題じゃないの! 害虫が湧くというのは、この部室棟全ての問題なの!」

「そやろけど、現に、演劇部だけがバルサン焚いて迷惑こうむってるのは事実やねんから!」

「せや、まずは、演劇部の責任や!」

「それとも、生徒会が先頭に立って、どないかしてくれるんか!?」

 並み居る住人達を、小柄な瀬戸内美晴が制している。敵ながらアッパレなもんだと、啓介は感じてしまった。

「ちょっと、いまの言葉プレイバック!」

 一瞬静かになった。美晴が初めて反撃的な言葉を発したのだ。

「……いや、せやから、生徒会がどないかしてくれるんか……て?」

 美晴の反撃に、発言者はたじろいでいる。

「間違ってるわよ!」

 この一言で美晴の姿が大きくなった。それまで、挙げた手の先しか見えていなかったのが、きれいに逆立った眉毛が見える。

「そうでしょ、部活って自律的なものよね? 生徒の自治活動のカナメだと思う、思うよね? だったら、なんで部活同士はテンでバラバラなの? こんな古い木造の建物で、それもジトジトの梅雨時。虫が湧いても当然じゃない。でもって、いちばんたくさん湧いちゃったのが演劇部。おそらく南側に生け垣が密生してるんで、いちばん湧きやすかったんでしょ。で、演劇部は自分たちの力で駆除をした。間違ってないわよね!?」

 顔の上半分が見えるようになった。

「ただ一点間違っているのは、ほかの部と協調できていなかったこと。それは他の部も同じでしょ。だったら、みんなで相談して、いかに、この部室棟から害虫を駆除するかって話にならなきゃおかしいでしょ。演劇部を糾弾したって、害虫問題は解決しない。イラついてスケープゴート作ったってしかたないじゃやん!!」

 美晴の鼻から上が見えるようになって、住人たちは沈黙してしまった。

「で、ここから建設的に考えたいの。害虫退治はやみくもにやっても効果は薄いわ。まず、部室棟全体の調査が必要。その上で効果的な対策を練りましょ」

「せやけど……そんな専門的な調査は、俺らだけではでけへんで」

「なんのための生徒会だと思ってんのよ!」

 完全に首が見えて、啓介はグローバルクラブに、こういうリンデレのメイドを加えてもいいかなと思った。

「そういうグローバルな仕事をやるためにこそ生徒会があるのよ! 今週中にも専門の方に入ってもらって調査をやります! その結果をふまえて、みんなで考えましょ、執行部も力になるから」

 美晴が見まわすと、住人たちは、互いの顔を見合わせながら頷いた。

「じゃ、最後に握手して。そこの演劇部の部長と(✧≖‿ゝ≖) 」


「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」


 住人たちは戸惑った。

「なに言ってんの。みんなで演劇部の部長つるしあげたんでしょ。害虫問題を実質的に提起したのは小山内君なんだから、握手くらいはしときなさいよ。これからは、なにごとも連帯してやってかなきゃならないんだから。でしょ!?」

 なんだか映画のラストシーンのような和解のシュチュエーションになってしまった……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     
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