大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・218『納骨の旅・5・再びの靖国神社』

2024-05-01 10:28:03 | 小説4
・218

『納骨の旅・5・再びの靖国神社』ミク 





 ちょっと後ろ髪を引かれたけど中央通りに出てタクシーを拾う。

 アキバは不滅だ、また来ればいい!

 そう自分に言い聞かせ「九段の靖国神社まで!」と運ちゃんに大声で言ってしまった。一瞬驚いた顔になった運ちゃんだけど、あとは笑顔混じりのポーカーフェイスで靖国の鳥居の前まで走ってくれる。

 心の片隅に――間に合うようだったらアキバに戻ろう――というスケベエ根性があったんだろう。急ぎ足で鳥居を潜ろうとしたら、下校途中の小学生が立ち止まってぶつかりそうになる。

 ム(`・´)

 反射的にムカつくけど、その子たちは鳥居に向かって一礼して、そのあとは普通にキャーキャー言いながら九段の坂を下っていく。

 そ、そうか(-_-;)

 見習って一礼してから鳥居を潜る。

 思い出すなア……九年前は、ちょうど例大祭の日で陛下が児玉元帥とご参拝に来られて、扶桑人のあたしらは、思わず扶桑流に「オオ!」って鬨の声を上げそうになったっけ。
 御料車から下車された時に天狗党が襲撃してきて思わず陛下とテロリストたちの間に飛び込んでしまった(^_^;)。

 その後、陛下と児玉元帥にお目にかかることになってお礼のお言葉まで頂いて……修学旅行そのものは中断してしまって、ちょっと無鉄砲で恥ずかしい思い出だけど、ちょっと鼻の奥が切なくなってくる。

 よし、今は扶桑の軍医官なんだ。きちんとお参りしなくちゃ。

 神門を潜るころには、ちゃんと昇殿して玉ぐしを捧げてお参りしようと決めた。

 ハンベで調べると参集殿で玉ぐし料を払って申し込むとある。

 あ、ああ……

 参集殿の窓口には『四時半まで一般の昇殿参拝はできません』と札が出て、儀式やVIPの参拝がある時は一般の昇殿参拝はできないと続いている。

 アキバに戻るのは無理っぽい……一般参拝で済ませておこう。

  まあ、仕方がない……気を取り直して拝殿に向かう。

 神門の方から衛士に先導されたVIPっぽい一行がやってくる。銀ネズ色のスーツと帽子の女性。お伴が二人付いて、きっと大臣の身内か財閥の奥方。はたまたどこか外国の大使夫人か、そのあたり。

 ヤバイ、ガン見してしまった。

 子どもじゃないので、軽く一礼して拝殿へ行こうとしたら、そのVIPから声がかかってしまった。

「あら、扶桑第三高校の……」

 え?

 きれいな声に、再びガン見してしまう……え……ええ!?

「ああ、やっぱり(^-^)」

 親し気に近づいてこられる、その人はまごうことなき天皇陛下だった( ゚Д゚)!!



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)017・やっと3人になった

2024-05-01 07:09:35 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
017・やっと3人になった                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです
                    




 千歳が手を伸ばしたが間に合わなかった。


 寝返りを打った拍子に須磨のスカートがめくれ上がり、千歳が伸ばした手に引っかかって太ももの付け根まで露わになってしまった。

「ちょっと、先輩は出てってくれる?」

「え、あ、うん」

 千歳に言われ、啓介はオタオタと部屋の外に出た。ほんの0.2秒ほどだったが、須磨のスカートの中身が目に焼き付いて閉口だ。

 上背がある美人であることは申し分ないのだが、あの寝ぼけた顔は願い下げだ。と思いながら、員数合わせの部員に復活してもらうだけなのだから、人格的にはどんな先輩でもかまわない。さっさと済ませよう。
 
「もう入っていいよ」

「お、おお……」

 !?

 これが、今の今までだらしなく居ねむっていた大先輩かと目を疑った。

 服装の乱れはもちろんのこと、クシャクシャのセミロングは、たったいまブラシをかけたように整ってツヤツヤと輝いている。口元のよだれの跡も消え去り、このまま学校案内の表紙に使えそうだ。しかし、ついさっきの様子を見ているので、思わずエンガチョしてしまう啓介だ。

「演劇部なんて、まだあったんだね……」

 松井須磨は浦島太郎のようなことを言う。

「あ、その、地味な部で……部員もオレと千歳の2人だけなんですけど、今週中に部員を5人にしないと廃部になりそうで。あ、どうも不甲斐ないもんで、申し訳ありません。で、まあ、とにかく週末の部活動の確認には間に合わせたくて、松井先輩の在籍確認をさせてもらいたんです(^_^;)」

 啓介は、空堀高校6年目の大先輩の威厳に打たれて、つい腰の引けた言い回しになってしまう。

「そんなに気をつかった言いかたしなくてもいいわよ。あたしも、毎日こんなタコ部屋登校にゲンナリしてたとこだから」

「松井先輩は、どうして、こんな生徒指導分室なんかにいるんですか?」

 千歳が円らな瞳で遠慮なく聞く。

「あたし、もう8年目でしょ? 6回目の3年生。学校は追い出したくてしかたがないのよ。だから教室に行くのは禁止でね、こんな部屋でずっと……音をあげて、あたしが退学にしてくれって、自分から言い出すのを待ってるのよ」

「そんな、チョー留年生とは言え、学校がイジメみたいなことやってええんですか?」

「ハハハ、あたしも指導に従わないしね。ほんとは、それやってなくちゃいけないんだ」

 須磨は、部屋の隅の段ボール箱を指さした。

「え、なんですか、これ?」

 千歳は器用に車いすを操って、段ボール箱の中身を確認しに行った。

「わ、プリントがいっぱい!」

「みんな黄ばんでるし!」

「学校が、あたしに課した課題。それをやっつけないと教室にもどれない」

「……こんなもの、1年かかってもできませんよ!」

「うん、5年分だからね」

「え、先輩て、5年間も、この部屋に居てはるんですか!?」

「正確には5年と2カ月。自分が所属している教室には行ったことがないからね。えと、今のあたしって3組だったっけ?」

「え、6組でしたよ」

「あ、そうなんだ」

「松井先輩は、この部屋に住み着いてるんですか?」

「ハハハ、まさか。9時ごろに登校して、ここに入って、6時間目の途中に帰ってるの。他の生徒と顔を合わせないようにね」

「それで今まで見たことが無かったんですねえ」

 啓介と千歳は顔を見合わせた。

「えと、在籍確認の書類は、君が手に持っているそれなのよね?」

「ああ、そうです」

 啓介が差し出すと、須磨はサラサラと必要事項を記入してハンコまで押した。

「じゃ、明日の放課後から部室に行くね」


 やっと演劇部員は3人になった……。


 え、いま部室に行くって言った? げ、幻聴だよな?

 恐ろしくて聞けない啓介であった。


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜


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